早足の旅立ち
「ここは・・・?」
「あ、気付かれたんですね。よかったー。」
目が覚めた村人が体を起こして周りを見回し、自分の置かれた状況を確認しているようだった。
それに近くにいたカインが気づく。
俺も同じ部屋にいたが、カインに任せることにした。
まだ、頭がぼーっとしているのだろう。
なぜ、自分がこんなところで眠っていたのか。
なぜ、自分の見知らぬ人がこちらが起きた事に安堵の表情を浮かべるのか。
その答えに辿り着くのは、自分自身のみでは難しいだろうな。
おそらく、無意識のうちに死人化させられてしまったのだろうから。
「君は誰なんだい?それにここは?」
「僕はカインと言います。ここは村の宿屋ですね。ちょっと待っててください。詳しく説明してくれる人を連れてきますから。」
そう言って部屋を飛び出して行くカイン。
そうなると必然的に俺が部屋に残される事になり、目を覚ました村人の視線が俺に注がれる。
そんなに見つめられても、何も出ては来やしないんだがな。
「いったい君は誰なんだ?」
「ああー、何て言うのかな。俺は、冒険者ギルドの依頼を請けて、この村に来たんだ。この村に死人がうようよいるって言う話を聞いてね。」
「死人っ!そんなの、この村にいるのかい?それは大変なことだ。」
あわてふためく村人。
それをどうしようかと考える。
下手なことを言ってしまうのが、心配だ。
素直に話してしまうと、ショックだろうからな。
「あー、なんだ。そっちはもう解決済みだ。あんたは安心してもう少し休んだらいい。」
「いや、それはありがたいことだけど、そういうわけにはいかないよ・・・あれ?なんでこんなとこで寝ていたんだろう?」
「まぁ、説明を担当している奴をカインが呼びに行ったから、もう少し待っていてくれ。それに、あんまり騒ぐと周りで眠っている連中に悪いだろう?」
「まぁ、そうなんだけど・・・って、周りの人達もどうしたんだ?いったい全体わからないことばかりだよ!」
自分の境遇に頭が爆発したかのように、急に癇癪を起こすように叫び声をあげる。
本当にうるさいんだが。
周りの休んでいる連中が起きてしまうぞ?
いや、起きてくれた方が、今回の場合はいいのか?
そんな中、アルクが部屋に飛び込んでくる。
カインの姿は無いな。
別の部屋の様子でも見に行ったか?
「目を覚ました者がいると聞いたが、この部屋であってるか?」
「ああ、こっちだ。この人が目を覚ました。」
「そうか、それはよかった。私は冒険者ギルドのベッラ支部より派遣されてきた職員のアルクという。あなたの名前は?」
「え、私の名前はコラムスと言います。それで、なぜ私はここに?」
「単刀直入に言えば、あなたは死人化の状態異常を受けて。村の中をさ迷っていました。」
何!まさかのどストレートだと!
コラムスと名乗った村人も、驚きを隠せないといった表情をしている。
「おい、アルク。そんなに正直に話すこともないだろ!」
「いや、こういうことはちゃんと真実を知っておくことが必要だ。当事者に当たる人物なら尚更だ。こんなところで嘘をつくことの方が失礼にあたる。」
真剣な顔で俺に諭してくる。
勿論、言いたいことは分かる。
だが、だとしてもだ。
もう少し、オブラートに包んだ言い方というものもあるだろうに。
「いえ、お気遣いありがとうございます。ですが、私もちゃんと知りたいのです。お話を続けてください。」
「この宿に収用している人達が、この村の生き残りになります。彼らも皆、死人化の状態異常を受けていました。ここに収用出来なかった方々は、もう手の施しようがありませんでした。救うことが出来ず、申し訳ありません。」
「・・・そうだったんですか。私も死人化していたんですね。」
「ええ、その通りです。」
「救えなかった者達は仕方がありません。真実を話して頂いてありがとうございます。」
コラムスが涙ぐみながら、アルクに礼を告げる。
様々な事を突きつけられて、混乱していることだろう。
だが、それに追い討ちをかけるようにアルクが続ける。
「それで、申し訳無いのですが、我々はこれから街に戻って報告をしてこなくてはいけません。犯罪者達をいつまでもこの村に置いておくわけにもいきませんし。」
「え、いや、ちょっと待ってください。このままの状態で捨て置いて行ってしまうのですか?」
「いえ、そんなつもりは無いんですけどね。ただ、全ての方が目を覚ますまで待っていては、いつ頃動き出すことが出来るかわかりませんから。」
突き放すようなアルクの言葉に、コラムスの混乱がより酷くなっているようだ。
それも理解できるだけに、アルクの真意が気になる。
「それでは、そういうことで。いずれ冒険者ギルドの方から、冒険者を始めとした支援者の者達が訪れると思いますので。それから、食事の準備をしておきます。後で食べるといいですよ。」
そう言って、アルクが部屋から出ていってしまう。
呆気に取られた俺とコラムスをそのままにしてだ。
俺は、アルクを追って部屋を出る。
「おい、アルク。何故だ?」
「何がだ?それより彼の食事の準備を頼みたい。まだ、完全に頭が覚醒しているわけではないだろう。すぐに腹が減ったことを思い出すはずだ。おそらく何日も食事をしていなかっただろうからな。」
「メシの準備くらいはしてやるが、その話じゃない。何故、村人らを放っておくなどと。」
「人ってのは強い生き物だ。追い詰められれば、尚のことな。厳しいようだが、早くこの村を立ち直らせるなら、住人が率先して行動していける状況を作り出してやるのが一番いい。まぁ、強引な感は拭えないか。しかし、生きていればどうとでもなる。」
自分でもわかっているのだろう。
だが、これが一番だと言って、アルクは譲る事はなかった。
「意図していることはわかったが、大丈夫なのか?」
「大丈夫だと信じたいといったところかな。今回の特殊依頼の中に村の復興までは入って無いからな。ドライな話かもしれないが、冒険者である以上線引きは必要だ。さぁ、食事の準備が済んだら直ぐに出発だ。多少食材を残しておいてやれるといいな。」
「そうだな。そのくらいはしておくか。」
こうして、バタバタとしながら街に戻ることになった。
厳しいですが、こんな形での幕引きです。
とはいえ、すぐに支援の手が伸びることにはなりますが。
なにせ、死人化の状態異常持ちが、一人もいませんから。
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