村人復活
村に戻ると、回収した村人たちを宿屋に寝かせていく。
洞窟からつれてきた村人だけで宿が埋まってしまった。
それどころか、溢れてしまい適当に床に寝かせて何とかしている始末だ。
他の建物に分散させるという手も考えたが、やはり目の届かなくなることを危惧して止めたのだ。
それにしても、これだけ人がいるというのに、まともな人間がいないとか異常も異常な話だ。
どれだけ手を出したくなかったかは知らないが、ここまで来ていたら国の介入が普通だ。
どれ程、ゴタゴタしているというのだ。
むしろ、他国に国民をまともに守ることも出来ない、というマイナスな印象を与えてしまうだけだと思うのだが。
「さて、現在のところ、まだちゃんと動けるようになっている村人はいないな。」
「まぁ、回収したばかりだしな。」
「昨日の人達はどうなんですか?」
カインの質問に、首を横に振ることで答えるアルク。
まだ、意識を取り戻すところまではいってないようだ。
「思ったんだが、魔法で治療することは出来ないのか?」
「俺が考えないとでも?水魔法の系統では上手くいかないんだ。」
「それなら神聖属性なら?」
「そうか、神聖魔法か。水魔法を使った時点で効かなかったから頭から抜け落ちていたな。それなら効果もあるかもしれないな。頼めるか?」
「試すだけ試してみるか。」
イメージを頭のなかに思い浮かべる。
掌からの光を受けると、死人の毒が消えてくような感じだろうか?
俺が手をかざすと、バタバタと抵抗を見せるがすぐにおさまる。
どうだ?
上手くいったか?
アルクが村人をベタベタと触り、状態を確認していく。
その影に隠れるようにして、俺も“神眼”で村人を見てみる。
すると、状態異常の項目が存在していなかった。
ということは、これで治ったと見てもいいのだろう。
「・・・良さそうだな。」
「そうか。それは良かったな。」
「あまり嬉しそうじゃないな。」
「いや、嬉しいは嬉しいさ。ただ、この後の事を考えるとな。」
村人の調子が上向きになるのは良いことだし、それは俺も望んでいる事だ。
しかし、どう考えても馬車馬状態に成る程働かされるのは、目に見えている。
そして、案の定クタクタになるまで魔法を使い続けることになった。
重症の者を優先的に治療していく。
だが、暴れるのはどの程度の者でも同じだった。
「クルスさん、お疲れ様です。」
「ああ、ありがとうカイン。」
水の入ったグラスを渡しながら、労いの言葉を掛けてくるカイン。
相変わらず、よく気のつくものだ。
俺は受けとると、グイッと一息に飲み干す。
「よく全員にかけるほど魔力が続くな。大したものだ。」
「そうか?いや、もうヘロヘロで動きたくないな。」
「いや、その魔力量は尋常ではない。それこそ今日話した“魔物憑き”と呼べるほどにな。」
「おい、アルク!あんな奴と一緒にするな。」
「そうです!アルクさんでも言っていいことと悪いことがありますよ!」
俺とカインの反応に、くすりとアルクが笑う。
「わかってる。それにクルスが“魔物憑き”だろうがそうでなかろうが、どちらでもいい。」
「そんなことより、あの連中どうするんだ?」
俺は、洞窟で回収した犯人達の扱いを、どうすべきか問う。
生き残っていたのは、俺が対峙した三人のうちの、二人だけだった。
一人目の壁に蹴り飛ばした奴は、どうも当たり所が悪かったらしい。
可愛そうとはまったく思わないが、村での犯行の証明になる人間を潰してしまったことの心配くらいはする。
今は、やることが無いと手持無沙汰な様子を見せていたトゥーンに見張りを頼んでいた。
いや、お前も神聖魔法使えるんだから、俺の手伝いしてくれてもいいのよ?
まあ、意識的に使うことが出来ないのは知っているから、頼むことは無いけども。
それに、バルも共に見張っている。
「頼むな。」と頭を撫でてやると、嬉しそうに俺の言うことを聞いてくれた。
まるで言葉が通じているみたいだ。
会話は出来なくても、心が通じるというのか、なんとも言えない感じだ。
羨むトゥーンの頭も撫でたのはご愛敬だろう。
「ああ、しばらくはこのまま拘束し続けるしかないだろな。伝令するにも人がいなくて出来ないしな。村人が元に戻ったところで街に一旦戻ろう。」
「それで、いつ頃元に戻る?」
「最初の五人の回復時期を読み間違えた俺に聞くか?」
「俺には判別出来ないからな。」
そう言いながら、クスクスと俺が笑う。
実際は“神眼”を用いれば見抜ける事は出来るし、すでに眠る村人達の状態は良化しているのだが、これについては秘匿するべきだろう。
勘ぐられるのは御免だ。
「こんな意趣返しをされるとはな。まぁ、そうだな・・・顔色も良くなっているし、体調自体は良さそうに見える。意識さえ戻れば、普通に生活していけるだろう。」
「早いところ目を覚ますといいですね。」
「ああ、まったくだ。」
その後も俺達は村人達の看病を続けた。
やがて、村人の一人が目を覚ます。
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