アルクの検証
バルを水魔法で丸洗いしたのち、風魔法で乾かして毛並みをモフモフしていた。
ささくれ立った気持ちが、穏やかになっていくようだ。
そんなことをしているうちに、アルクが到着する。
アルクは開口一番怒声をあげた。
「クルス!いったい何を考えている!」
無論怒鳴られることは想定済みだ。
むしろ怒鳴らない訳がないだろう。
依頼の解決に向けて協力していたというのに、アルクを放っておく形になってしまったからだ。
それに、首謀者を取り逃がしてしまったのも痛い。
「いや、済まない。」
「済まないで、済むと思っているのか!」
「だが、俺はこの言葉意外、今は持ち合わせていない。」
「大体、カイン!お前もそうだ。クルスと供にいながら何をしてるんだ!」
「すみません・・・」
俺への怒りが、カインに飛び火してしまったか。
だが、カインは何も悪くない。
いや、俺を止めなかったから、ちょっとは悪いのか?
とはいえ、向かった矛先を別にそらしてやらなければ、カインがかわいそうだ。
「アルク、それより死人化が進んでる連中がいるんだ。そいつらを先に見てくれ。俺では助けられるかどうか判別がつかないからな。」
「何!ここに来るまでにそんな連中いなかったぞ!」
「ああ、入り口を封印してある。何が切っ掛けで出てくるかわからなかったからな。悪かったとは思っているが、先にそいつらを診てやってもらえないか?」
「まったく・・・後で詳しく話してもらうぞ。」
「ああ、わかってる。」
カインに、ここに残っている者の監視を頼み、俺はアルクを伴って、土魔法で封じ込めた場所へと向かう。
よくよく見れば、周囲と色や質感が違うのでわかりそうなものだが、それだけ怒り心頭だったという訳だろうか。
その土壁に触れて、土魔法を発動。
ボロボロと壁が崩れ、もとあった通路が姿を表す。
「この奥だ。」
「ああ、進もう。」
そして奥まで行き、鉄格子内にいる人々を見る。
相変わらず、奥までひしめき合っている。
虚ろな表情で虚空を見る様は、やはりあわれを誘う。
「どうだ?大丈夫そうか?」
「全員を見れた訳じゃないが、ここから見える連中はまだ大丈夫そうだ。早いところ出してやろう。」
「そんなに簡単に解放してしまって大丈夫なのか?」
「大したことは出来ないさ。それにこのままにしておく方が都合が悪いだろう。」
そう言いながら、アルクが鉄格子に掛けられた鍵を解く。
そして、扉を開くと中からぞろぞろと出始めてきた。
その人たちをじろじろとアルクは観察を続ける。
もう救え無い者は、アルクからの指示で神聖魔法によって産み出した光を照射して、消滅をさせる。
かわいそうだが、仕方ない。
不幸な事ではあるが、成仏してくれるといいんだが。
試しに“神眼”で見てみる。
種族 死人
スキル
ダメージ感知無効
種族が死人に変わっており、性別が無くなっている。
状態異常扱いの内ならば救うことが出来るというわけか。
しかし、アルクはよく、こう見分けることが出来るものだ。
それに、今まで見たことの無いスキルを持っているな。
“ダメージ感知無効”は、さすがに取るわけにはいかないだろうけども。
ダメージを受けるとことで、危険性を察知することにも繋がるわけなのだから。
だが、敵が持っていたとしたら、なかなかたちが悪い。
どれだけ攻撃を加えたとしても、それで怯むことなく反撃してくるだろうから。
「これで終いだな。彼らには薬を処方しなくてはならないな。といっても、普通の解毒薬で簡単に治せるんだけどな。」
「そんなに簡単な物なのか?」
「案外そんなもんだ。大概の状態異常はそんなもので治ってしまう。まぁ、時間はかかるがな。」
この世界の薬ってすごい効き目を持っているな。
いや、危ない成分が大量に入っているんじゃないか?などと勘ぐってしまう。
「それで、どうだったんだ?首謀者の顔は見たのか?」
「顔は確認している。クイナと名乗る女だったな。突然空を飛んだかと思ったら、一気に逃げ出しやがった。虚をつかれたとはいえ、油断していた。これに関しては、言い訳のしようがない。」
「クイナ?聞いたことの無い名前だな。他には何か無いのか?」
「あと、シグーとも名乗っていた。昨日の村長の家にいた奴は、クイナの部下だとも言っていた。あとは・・・魔王様がどうとか・・・」
「シグーか。その名なら聞いたことがある。確かそいつは“魔物憑き”だ。」
聞いたことの無いワードが出てきた。
「“魔物憑き”とはなんだ?」
「人がごく稀にではあるが、魔物化するというのは知っていると思うが、そいつらは意思を持ち合わせることなく、獣と同様な動きをとるのが特徴だな。だが、たまに例外で魔物化しても意思を残すものがいる。そいつらが、俗に“魔物憑き”と呼ばれているんだ。」
「へぇ、そんなこともあるのか。」
「ごく稀だがな。そして、そいつらは、人と見た目が一切変わらないが、身体能力や魔力が格段に高くなると言われている。体が魔物に変化するのを、強靭な意思の力で封じ込め、全ての力を還元しているらしい。」
魔物化の現象は、これまでに二度経験をしたが、あれを意思の力で封じ込めるのか。
自我が崩壊するのを食い止めると言ったって、なまなかなことではないだろう。
いや、半分以上はぶっ壊れてるのかもしれないけども。
「それで、魔王ってのは?」
「それについては聞いたこと無いな。しいて上げれば、昔ばなしやら、おとぎ話に出てくるような存在としか言いようがない。」
こちらについては、空振りか。
まぁ、知らないものを問い詰めたところで仕方ない話だ。
「なんにせよ、無事に助けられそうなものを村まで輸送せねばならないな。さて、どうするか・・・」
「あー、それは大変だな。馬車でも引っ張ってくるしかないか?いや、森の中までは無理か・・・」
「ああ、難儀な話だ。」
とはいえ、このままにしておくことは出来ない。
仕方がないので、森の近くまで馬車を呼び、そこまで背負っていき、あとはピストン輸送でなんとか解決をさせた。
ちなみに、俺が動けなくした連中も同様に村まで運んでいった。
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