朝食のお時間
ジューっという、肉の焼ける音が部屋を支配する。
この音が実に小気味良い。
ベジタリアンでなければ、思わず頬を弛めてしまうだろう。
焼けていくうちに、かぐわしい香りを漂わせ、その場にいる者のヨダレを誘引する。
お腹が減っていなくとも、一口食べたくなる。
そんな気持ちにさせる魔力が、そこにはあった。
・・・朝でなければ。
どれだけ肉を好いていたとしても、朝から寝起きに程近い状態で、食べたいと思う人間がどの程度いるだろうか?
朝であるならば、希望を言えばご飯と味噌汁。
それに刻んだネギを載せた納豆に漬け物。
その程度のあっさりとしたもので構わないのだ。
醤油や味噌の存在を今のところ確認していない事から、こんな朝食など望むことは叶わないが。
かつての飛ばされ者達のうち一人でも良い。
この世界の食文化に、ある程度の影響を与えるようなことをしていれば、と願うばかりだ。
今回は、トゥーンの希望ということもあり、朝から肉を焼くことになってしまった。
二階では、満足な火を得ることなど叶うわけもない。
だから、俺達は宿の外にいた。
相も変わらず、腐った食材が凄まじい臭いを放つキッチンなどで食事をしようという気は起きなかったし、ましてや調理しようなどという気も起きなかった。
いくつか調理用の道具は拝借してはきたが。
木をくべて焚き火をし、その回りに石を積んで即席のかまどを作り、その上に鉄板を置いた。
キャンプ場でよく見られるバーベキュースタイルだ。
味付けも塩と胡椒のみの、シンプルかつダイナミックな男の料理といったものだ。
焼き上がった肉を切り分け、食べやすいサイズになったものを皿に盛る。
まだかまだかと、目がランランと光るトゥーンの前に一番に置いてやる。
『いいのか!もういいのか!』
『ああ、冷めないうちに食った方が良いだろうな。』
逸る気持ちを押さえるようなトゥーンにOKを出すと、肉にかぶりつく。
凄い勢いだな。
トゥーンの様子を見て、俺も俺もとせがむバルにも次いで出してやると、こちらも好評のようで、夢中になって肉を頬張り始める。
二匹が食べている間に、アルクとカインの分も用意をして手渡す。
二人は二匹のようにがっつくことは無かったが、これまた好評価な様子で食べ進めていた。
こっちでは、朝から肉も普通か。
俺はそれほど食べれないと思っていたので、自分のために用意した分は少量にとどめていた。
切り分けた肉を口に運ぶ。
「うまっ。」
予想以上に素晴らしい味に仕上がっていた。
別に特別な材料を用意したわけでは無いし、調味料だって大したものを使用したわけではない。
なのに、これだけの味が出せたのだ。
“調理”スキル恐るべし。
時おり、おかわりを催促されるので、調理をしながらしばらく食事を続ける。
ある程度の腹も満たされてきた頃、
「クルス、多目に調理しといてもらえるか?」
「なんだ?アルク。まだ食べるのか?」
そこまで旨かったのか。
そうであるのなら、調理をしたかいもあるというものだ。
「いや、あの襲ってきた連中の意識がそろそろ戻る頃だと思ってな。」
「あの連中の分をか?」
「気乗りはしないかもしれないだろうが頼む。考えてみれば、あいつらも可愛そうな連中だ。早いところ回復させて、色々話を聞きたい。」
「お優しい事だな。」
「さすがに死なすわけにはいかないしな。本人達の意思が奪われていた以上、罪を問うのは心苦しい。」
まあ、いいか。
別に調理をするのが面倒な代物でもないし。
確か5人だったな。
少し多目に作っておくか。
そうして、追加で調理を始める。
トゥーンとバルがつまみ食いをするが、今回は放っておいた。
「それで、そいつらの話を聞ければ聞くとして、この後の予定はどうなる?」
「そうだな・・・二人は周辺を見てきてほしい。あの連中の相手はひとまず一人でも良いだろうな。」
「それで良いならそうするか。カイン、一緒に回るか。」
「ええ、わかりました。でも、本当にアルクさん一人で大丈夫何ですか?」
心配そうなカインに、アルクは軽く笑いながら答える。
「後ろ手に縛られて、転がされてる奴らが怖いことあるかよ。」
「それじゃ、のんびり見回ってくるわ。特に収穫があるかわからないけどな。」
「ああ、頼んだ。」
そうして、食事を終えるとそれぞれ行動を開始することにした。
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