勇者の復活
チュンチュンと鳴く鳥の声が、窓の外から聞こえる。
トゥーンの様子を見ていたはずだったが、いつの間にか眠っていたらしい。
トゥーンを寝かしたベッドの脇に座って眠っていたらしく、体が痛い。
どう潜り込んだのか、膝の上にバルが頭を載せて眠っている。
仰向けで腹を出して眠っているので、顎の辺りを軽く撫でる。
顔をあげて、ベッドに目線を送るが姿が見えない。
カインが動かしたのか?
そう思って、部屋の中を見回すと、カインも眠りについていた。
唯一、アルクが起きており、何か書き物をしているようだ。
報告書だろうか?
そういえば、隣の部屋に行っていたな。
帰ってきていたのには、全く気付かなかったことから、相当疲れがあったことが分かる。
それはそれとして、今はトゥーンだ。
どこに行った?
視界の中に捉えることが出来ない。
いったいどこに行ったのか?
アルクが起きているが、慌てる様子も無いことから、部屋から抜け出たとは考えにくい。
「アルク、起きていたのか。」
「ん?なんだクルスもう少し寝ていても構わないぞ。」
「いや、それよりトゥーンはどうした?」
俺の言葉に一瞬キョトンとした表情を浮かべるが、次の瞬間すぐに笑い出す。
皆が眠っているので、声を出さないように注意しているようだ。
いったい何が可笑しいのか?
まだ寝起きで頭が働いていないとはいえ、いきなり笑われる意味がわからなかった。
俺のそんな顔を見て、アルクは自分の頭の上に指を指していた。
頭の上?
特に違和感は無いんだがな。
そう思いながら、頭の上へと手を伸ばす。
俺の動きを見て、アルクは手元に目線を戻していた。
まだ、書き物が終わってはいなかったらしい。
気を利かせただけかもしれないが。
俺の手を何かに弾かれる。
これは、まさか・・・
『トゥーン、もう動けるのか?』
『おう!まだ体がダルいけどな!』
『そうか・・・良かったな・・・』
普段こんなことは無いのだが、珍しく何かくるものがあった。
だからといって、そう簡単に泣くような事はないが。
再び手を伸ばすと、トゥーンはその手に掴まれる。
スッと手を下ろし、ようやくご対面だ。
『よう。調子はどうだ?』
『おう!大丈夫だぞ!』
『そうか・・・ありがとう。助かったよ。』
『おう!ようやく助けてやれたな!前は失敗したからな!』
いや、いつも助けられているさ。
助けることが出来なかったなんてあり得ない。
以前の事は、全て俺の不注意が招いた結果だ。
トゥーンが気に病む必要など少しも無い。
俺は、怪我の状態を見ようと、体を確認する。
どうやら、傷はちゃんとふさがっているようだ。
どころか、怪我があった事など分からないくらいだ。
体の状態だけを見たのであれば、完治したと言っても良いだろう。
とはいえ、失われた血液はすぐには増えはしないだろう。
しばらくは安静にしている必要があるのだろう。
それでも、たとえ虚勢だったとしても元気なトゥーンを見て、心が落ち着いたことは間違いない。
『歩けはするのか?』
『勿論!いつも通りに動けるぞ!ただ、すぐに疲れちゃうんだよ。何でだろうな?』
『それは傷を負って、血を流しすぎたからかもな。しばらくの間は大人しくしていろよ。その内、前のように動けるようになるさ。』
『なんだよそれ。』
理解出来ないのも無理無いか。
そんな考え、今まで無かっただろうからな。
そんなことをしていたら、食事にありつくことなんか出来ないだろうからな。
だが、今は森の中で自然と対峙しなくてはいけない状況ではない。
弱っているときはゆっくりするべきなのだ。
『そういうもんなんだよ。後は血が早く増えるように、色々食べることかな?』
『そういえば何か食べたいな。』
『食欲があるのは良いことだ。沢山は食べれないかもしれないが、ゆっくり食べれば良い。誰も取るような真似はしないからな。』
『おう!それじゃ、ご飯にしよーぜ!』
もぞもぞと動き、俺の手の中から這い出るトゥーン。
ピョンピョンと跳ねるようにしてベッドの上に上がり、バルの上に飛び乗る。
それによって、その身に受けた衝撃に驚いたようで、バルが目を覚ましたようだ。
起きたなら膝からどいてほしいのだが。
『まだ、早くないか?カインだって寝てるだろ?』
『もう朝だろ!いつもこれくらいにはカインは起きてるぞ!』
そう言って、ピョンピョンと跳ねる動きをしながらカインの元に行き、ペシペシと叩く。
しかし、かなり疲れているのだろう。
身を捩って、体勢を変えるも目を覚ますことはなかった。
それでも懲りずに、ペシペシと叩く。
『おい!カイン!もう、朝だぞ!』
『うーん・・・トゥーンくん、もう少し寝させ・・・トゥーンくん!』
寝ぼけた頭がすぐに晴れたようで、カインがガバッと身を起こす。
俺以上に心配していたようだからな。
トゥーンを抱き上げ、トゥーンと視線を合わせるカイン。
『目が覚めたんだね。良かった~。』
『ん?目を覚ましたのはカインの方が遅いだろ?それよりご飯にしよーぜ!』
『アハハハハ・・・分かったよ。「あ、クルスさん、おはようございます。』」
「ああ、おはよう。アルク、そろそろ朝飯にしようや。」
「皆起きたのか。もう少しゆっくりでよかったんだがな。まぁ、いい。そうすることにしよう。」
手元の書き物をそのままにして、一先ずは朝食を取ることにしたようだ。
さて、朝食は何を食べようか?
なるべくトゥーンの好きなものを用意してやりたいところだな。
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