魔剣
燃え盛る建物の瓦礫を押し退けながら、そいつはこちらに向けて、一歩一歩と歩みを進めてくる。
普通の人間であるなら、とうに皮膚が焼けただれ、見るも無惨な姿になっているはずだ。
だが、そいつは火をものともしない。
どころか、火がついてない部分に触れると火が起こるようだ。
何が原因なのだろうか?
解説をできる人間が周りに誰もいないことから、なんとか推測するしかないが、いまいちピンとこない。
「グァァァァ!!!」
もはや、異形の徒となったそいつが咆哮する。
ビリビリと体に強いプレッシャーがかかる。
やがて、建物の中から完全に姿を表す。
失ったはずの両足が存在している。
黒ずみ、足を置く地面から煙が上がっているように見える。
そのお陰で、こちらに歩んで来られたわけか。
さらに、断ち切った左腕の部分は、燃え盛る火で構成されている。
ただの魔物と呼ぶ事も出来なさそうだな。
むしろ、魔物というよりも悪魔と呼ぶべき存在なのだろう。
いうなれば火の化身のようなものか?
そいつが、こちらを見据える。
「グァァァァ!!!」
もはや、人の心など存在しないのだろう。
こんなものが野放しになれば、どれ程の被害が及ぶか分からない。
以前、盗賊の親玉が変化したプロトオーガなどとは、比べるべくもない。
辺りを燃やしながら、移動を続けるのだ。
魔の森などにさ迷い混むような事になれば、それこそ大事だ。
なんとか、ここで決着をつけなければならないだろう。
俺は、強く魔剣を握りしめると、そいつに斬りかかる。
燃え盛る火のような左腕に、剣が当たるが感触が無い。
本当に火で構成されているかのようだ。
それならばと、胴を薙ぐ。
が、硬質化されているのか、刃が通らない。
「くそっ!どうなってやがる!」
二度三度と続けるが、黒ずんだ足は左腕と同様に感触が無く、その他の部位は硬くて傷をつけることが出来ない。
俺のそんな様子を見て、ニタリと笑みを浮かべたように見える。
そして、反撃とばかりに硬質化した右腕で殴りかかってくる。
スピードは変化する前と、それほど変わりがないように思えた。
魔剣を用いて攻撃を防ぐが、後方へと吹き飛ばされる。
パワーが段違いに上がっている。
上手く着地することが叶わず、ゴロゴロと地面を転がされる。
「ぐっ、強い・・・」
ヨロヨロと立ちあがり、魔剣を構えながら様子を伺う。
ニタニタと笑いながら、ゆっくりとこちらに向かってくる。
まるで、強者が弱者をなぶるような構図だ。
あいつが獅子ならこちらが鼠か?
それならそれでかまわない。
獅子も猫科だったか?
窮鼠猫を噛むというじゃないか。
逆転の一手は必ずあるはずだ。
諦めることさえしなければ。
剣が通じないのであればと、魔法を放つ。
剣を持たぬ手で、水球を産み出すと投げつける。
燃え盛る腕に当たると一瞬の内に蒸発し、それ以外の部分に当たったところで、動じはしない。
風を起こすと、より火が燃え上がる。
礫を放ったところで、やはり動じることはなかった。
唯一、神聖魔法である光を放つと、若干怯んだ様子を見せるが、すぐに何でもなかったかのように歩き出す。
「くそっ!何も効かねーじゃねーか!」
ある程度の距離を保つように、移動を続ける。
が、このままではじり貧か・・・
さすがに、もうかくし球のようなものは無い。
どの引き出しを開けても、効果がないのだ。
こうなると、手は一つしか残されていないように思える。
それは、あいつが魔物に変化する前に溢した魔剣の特性。
上手く攻撃を受け、相手から受けるダメージをそっくりそのまま返すというものだ。
危険な賭けではあるが、これしかない。
綱渡りが続くな。
何か一つでも噛み合わなければ、すぐにやられてしまう。
そんな風に強く覚悟を心に抱く。
『おい、楽しそうなこと考えているな。』
突然、どこからか念話が飛んでくる。
いったい誰だ?
トゥーンやカインがこの場にいない以上、他の存在からであることは間違いない。
辺りを見回したところで、いるのは魔物に変化した化け物しかいない。
よもや、あいつが?
『おい、俺の声が聞こえているのか?』
いや、そんなはずはない。
そんな能力があるようには見えない。
今、奴にあるのは破壊の衝動のみだろう。
盗賊の親玉のときと同様に。
『なんだ・・・また、空振りか・・・』
少し寂しそうだ。
仕方がない。
『いったい誰だ?今取りこみ中だ。』
『む?聞こえてるのならば、もっと早く反応せんか!』
『だから誰だ!』
『あ?貴様が握りしめているじゃないか。』
『何?』
まさか、魔剣が話しかけてきているのか?
剣が?
どんな冗談だ。
『今、何か失礼な事考えなかったか?』
『いや、そんなことはない。それで、いったいなんだ?』
『楽しそうなことをしているからな。俺にも一口噛ませろ。』
『どういう事だ?』
『力を貸してやる。俺はやがて王に至る。そんな俺を無下に扱い続けたあのバカは許せん。』
力を貸すか・・・
どのみちこのままでは、なんの手も持ち合わせていなかった。
王に至るとか訳のわからんことを言っているが、力になってくれるなら何でもいい。
魔剣を自由に扱えるのだから、心も沸き立つというものだ。
『何だかよくわからんが、あのバカを許せんのには同意だ。』
『なれば、我を振るい奴を断ち切れ。遠慮はいらん。』
『了解した。力を借りるぞ。』
グッと柄を握ると、体の中の魔力が根こそぎ吸い上げられるような感覚が襲う。
これは中々キツいな。
それでも怯まず、柄を握りしめる。
段々と、刀身が黒い光を帯び始めた。
『貴様、闇魔法の素養があるのか。成る程、これは面白い。』
『何がだ?』
『いや、いい。その闇の光を奴に放て!』
「いくぞ、おりゃーーー!」
魔剣を振るうと、黒い光が空間を食い潰すようにして進み、火の魔物に食らいつく。
まず、左腕に巻き付き火を食い散らすと、その身へと浸食を始める。
身をよじりながら、その光を消そうともがくが、何も意味をなさない。
胴を、足を、腕を順繰りに食らいつくしていき、最後には頭へと牙を向く。
「グァァァァ・・・ま・・・お・・・さ・・・」
最後の咆哮を上げる。
何かを言ったようにも聞こえたが、なんだったのだろう?
やがて、魔物の全身を食らいつくすと、ふっと消えてしまう。
呆気ない幕切れになった。
『あっさりだな・・・』
『フン!この程度、赤子の手を捻るようなものだ。』
『何にせよ、助かった。恩にきるよ。』
『そうか・・・ならば、しばらくの間力を貸し続けてやろう。』
『何が狙いだ?』
『我のみでは、移動もままならん。貴様に力を貸すかわりに、我の目的に手を貸せ。』
目的?
剣の癖に目的なんぞあるのか?
人のような感情を持っているな。
それに随分と態度がでかい。
『貴様、また失礼な事考えなかったか?』
『いや、そんなことはない。協力してくれるというのなら、ありがたい。』
『フン、それでよいのだ。して、名は?』
『俺か?クルスと言う。』
『我はモルドレッド。王を簒奪する者だ。』
何だかよく分からないが、力を貸してくれると言うならそれでいい。
恐るべき力を秘めているのだ。
放っておく訳にもいかないだろう。
鞘が無いので、刀身を剥き出しのままに、二人が撤退して行った方へ移動を開始した。
戦闘終了です。
モルドレッドの由来は・・・言わなくてもわかるか・・・
ブックマークや評価を頂けると、物凄くモチベーションが上がります。
また、様々な感想を頂けるとありがたいです。
今後ともお付きあいのほど、よろしくお願いします。




