強奪
手に持っていた折れた木刀を投げつける。
それになんの意味もないことは、自分が一番理解している。
むしろ、よくここまで持ってくれたものだ。
いわくありげな魔剣に、露店で安く買い叩いた木刀が渡り合っていたのだ。
残念ではあるが、十分に力になってくれていた。
思い入れこそ無かったが、それでも惜しく感じていた。
刀身の無いナイフを右手に持って構える。
何もなしでは、相手の攻撃を防ぐにも影響が出るのは必至だ。
効果がないことは分かっているが、牽制の意味合いで炎を放つ。
幾つも放ちながら、また距離を詰める。
やはり剣で炎をかき消される。
そして、返す刀で剣がこちらに向かってくる。
それをナイフで受ける。
木刀で受けていたときよりも、衝撃が強く感じられた。
自分の魔力を刀身として利用しているためだろうか?
体から力が抜けるかのようだ。
距離を詰めれば、当然ながら相手の攻撃も苛烈さを増す。
木刀が折れるまでに、それなりのダメージを与えていたお陰で、多少動きが遅くなっているものの、こちらが不利であるのは否めない。
何合程受けただろうか?
端から見れば、勝機の無い戦いに臨んでいるように見えるのかもしれないな。
木刀が折れ、敵の攻撃を受けている間に、自然と冷静になってきたように思える。
頭に来ているのには、変わり無いのだが。
俺は、この状況を打破するため、今まで使用したことの無いスキルを試してみようと考えていた。
攻撃を掻い潜り、多少の傷を受けながらも懐に潜り込むことに成功する。
チャンスは少ないだろう。
是が非でも、ここは成功させなければならない。
腹部に打撃を加え、身が引けたところに、剣を持つ腕を攻撃を加える。
そして、相手の剣に触れると“強奪”を発動させる。
ヌルリとした感触が手に触れる。
なんとも言えない、気持ちの悪い感触だ。
だが、気づけば手の中にそれまで相手が持っていた剣が、こちらの手の中にあった。
どうやら賭けに勝ったようだ。
グッと力を入れて、それを握る。
それを横薙ぎに振るうと、相手の左腕をはね飛ばした。
この出来事にはさすがに驚いたのだろう。
驚愕といえる表情を浮かべた。
「ガアァァァ!なんっだそれは!」
「・・・」
「あくまで答えないつもりか!それは私の物だ!今すぐこちらに返せ!」
さすがにこれまでの冷静さを保つことが出来なくなったのだろう。
そんなことを言われて返す奴がどこにいる?
それまでと、うって変わって、遮二無二こちらに突撃を敢行してくる。
武器を持たずにどうしようというのか?
俺が剣を振る度に、相手に傷をつけ続ける。
それでも怯まずこちらに向けて駆けてくるのだ。
狂気に似た執着心に、驚きを隠せないし、なかば辟易し始めていた。
「返せ!返せ!返せ!返せ!返せ!返せ!返せ!返せ!返せ!」
「うるせぇーーー!」
いい加減邪魔くさいとばかりに、俺は相手の足を断つ。
ドッと頭から床に倒れこむ。
ギリギリと歯軋りをしながら、こちらを射るかのような鋭い目線で睨み付けてくる。
その執念に背中が寒くなる思いがするが、そんなものに気をとられる訳にもいかない。
キッチリと止めを刺すことをしないという選択肢は、俺の中には存在していなかった。
剣を真上に上げ、そして降り下ろす。
身動きのとれなくなったそいつに引導を渡してやった。
見てみると、まだ息があるようだ。
なかなかにしぶとい。
「か・・・かえ・・・せ・・・」
そこまでの魅力がこの剣にあるのかはわからないが、今わの際になってもその執着は無くなることはなかった。
その目に浮かぶ狂気が、むしろより強くなっているように思える。
これは、以前見た現象に似ていた。
まさか、魔物化しようというのか?
「クルスさん!」
後ろから、カインの声が飛ぶ。
振り替えると、傷付いたトゥーンを抱えたカインと、息を切らしたアルクがこちらを見ていた。
どうやら、向こうは片付いたようだ。
床には倒れた死人の群れが折り重なっていた。
止めに火魔法で燃え散らすんじゃないのか?
「クルス、こちらはひとまず片付いた。一旦建物の外に出るぞ。この建物を燃やして、死人達を完全に退治する。」
「くっ・・・わかった。」
俺達三人は外へと飛び出し、アルクが移動しながら唱えていた呪文により、建物に火をつけた。
火は一気に燃え広がり、一気に大きくなる。
チリチリとこちらの肌を焦がす程に、強い火だ。
これで、死人達は燃え散り、消えてなくなるだろう。
うまく成仏出来ればいいが。
そんな建物から、叫び声があがる。
死人達であろうか?
断末魔の叫びというやつなのだろう。
「これで、依頼は完了だな。」
「いや、まだ終わっていない。」
俺の言葉に不思議そうな表情を見せるアルク。
全て終わったと思っているところに、そんなことを言われれば分からなくもない。
「どういうわけだ?」
「まだ、あいつはこちらに向かってくるだろうよ。おそらくだが、魔物化が始まっていた。」
「なにっ!」
「アルクはカインを連れて、トゥーンを診てやってくれ。そいつはこんなとこで死なすわけにいかない。」
そんな俺の言葉に渋い顔をするアルク。
それはカインも同じで、なんとも言えない表情を浮かべた。
「いえ、それなら皆で撤退すべきです。」
「カイン、この状況でそれは出来ない。まだ、キッチリとかたをつけて無いからな。」
「仕方がないか・・・無理するなよ。危なくなったらすぐに撤退するんだ。」
「ああ、分かってる。」
二人が撤退していくのを見届け、俺は火のあがる建物を見据える。
そのまま、死人と共に燃えてしまってくれればいいが、それは楽観的な考えか?
やがて、火の中を歩む姿が見えた。
やはりこの手でケリをつけるしかないのか。
俺はあいつからぶんどった魔剣を握り、身構えた。
ついに、スキル“強奪”を使えた・・・
もうちょっと戦いは続きます。
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