逆襲
傷付いた体を叱咤し、体勢を整える。
相手はこちらが何をしてくるか、攻撃を止め楽しげに見ている。
どこまでも余裕を見せる態度に、心の中を支配する怒りに拍車をかける。
俺は手をだらりと下げた状態で、相手に接近していく。
ある程度距離を詰めると、右手で持っていた木刀を振るう。
それを何度も右へ左へと振るい続ける。
相手はしばらく受けていたが、すぐに興味を失ったのか、木刀を弾かれる。
「何だね?君の怒りはその程度のものかね?」
「・・・」
「もう少し違う展開があると思っていたが、何も変わらないのであれば、相手をする時間がもったいないな。」
「・・・」
「とっとと沈んでくれたまえよ。」
余裕を見せる男の足元に蹴りを見舞う。
それに対し、軽く足を上げて受け攻撃を受ける相手。
蹴りが相手の足に当たった瞬間、男は顔をしかめた。
予期せぬダメージに面を食らったようだ。
「貴様、何をした?」
「・・・」
「何をしたと聞いているんだ!」
「・・・」
剣を振るい、距離を離そうとしてくるが、木刀で受け流し再び蹴りを放つ。
こちらが放った蹴りは男の腹部に突き刺さり、後方へと吹っ飛ばす。
この攻撃も以外だったようだ。
何が起きているのかわからないといった風情で、こちらが何をしたのか考えているようだ。
だが、考えを続けさせる時間を与えるつもりは無い。
ナイフを仕舞うと一気に距離を詰め、両手で柄を握ると真上から一気に降り下ろす。
これまで繰り出した攻撃よりも、速く重い一撃が相手を襲う。
剣で防いでいるようだが、それをものともしない一撃を放ったことで、相手の膝を床につかせる事になった。
すぐに左手を離し、先程までニヤついた笑みを浮かべていた顔を殴り飛ばす。
威力を持った拳に殴り飛ばされ、さらに後方へと吹っ飛んでいく。
「何だ?いったいなんなんだ?ここまで急激な変化をするものか?」
「・・・」
「戦闘中に一気に成長した?いや、そんなことあり得ない。ならば何なんだ?」
「・・・」
思案を続ける相手に、何も答えない。
困惑してるいるなら、そのまま困惑させておけばいい。
相手にヒントを与える気はサラサラ無い。
やっていることは実に簡単なことではあるのだが。
これまでに獲得したスキルの常時発動。
身体能力を上げるものについては、常時発動するタイプのものだったが、そうでないもの。
“神眼”“加速”“気配遮断”などを常に発動させただけだ。
まず、“神眼”は全てを見透かす神の目というなんとも言えない説明がついていた。
相手の能力を覗き見ることや、物の真贋を見分けるだけではないのではないか?
何となくそう思ったが、確かにそうだった。
相手の先の動きが確実に分かるのだ。
未来予知などという不確定なものではなく、確実性を持ったものだ。
相手の動きをよんだところで、“加速”のあらゆる動作の初速を上げるというスキルによる攻撃スピードの加速。
蹴りを放つ動き一つとっても、その動き全てを、一コマ一コマの動きと想像して、その全てに“加速”のスキルを作用させた。
強引な解釈の仕方だが、確かな効果を示したところから、スキルを使用する者の、意味の取り方しだいでいくらでもスキルは力を示すことがわかった。
速度を持った攻撃に“気配遮断”を合わせることで、相手に当たるタイミングを崩すこともできた。
極めつけは、攻撃を繰り出した際に、魔法を発動させたということ。
相手の足に当たる直前には、土魔法によるこちらの脚部の硬化をし、吹っ飛ばした際には、風魔法による吹き飛ばしを混ぜこんでいた。
これまで手からのみという印象を持っていた魔法だが、体のどこからでも発動させることが出来た。
普段やら無いことをあえてやってみたが、それが全てよい方に転んだ結果だ。
「クハハハハ・・・素晴らしい、実に素晴らしい。モルドレッドの贄になるに相応しい。」
「・・・」
口から血を流しながら、何を言っているのか?
贄?
俺がその魔剣の生け贄にでもなるというのか?
そんなことを聞いたとしても、俺の行動は変わらない。
遠距離では十分に戦えないのだから、接近戦を行っていくしかない。
“加速”で一気に距離を詰める。
既に立ちあがり、剣を構えて迎撃体制の整った男に木刀を振るう。
この一撃はやはり受け止めるが、こちらはそれで動きを止めることはない。
膝を相手の腹部に叩き込むと、体をくの字にする。
相手の動きが読める以上、何をしようと結果は変わらない。
その秘密に気付くことはないだろう。
ならばとばかりに、一方的に攻撃を加え続ける。
木刀の攻撃こそ剣で防がれるが、打撃までは防ぐことは出来ないようだ。
もはや、勝負は決したようなものだろう。
余裕の笑みが消えないでいるのには正直驚くが。
止めとばかりに、木刀を上から叩きつける。
仮に当たらなくても、動きを止めることが出来るならそれで十分だと、振るう。
相手の剣に触れた瞬間、木刀がバキリとばかりに折れた。
これまで折れないできていたので、特に気にする事なく攻撃を続けていたが、ついに限界を迎えたということだろうか?
笑みを浮かべ続けていた理由はこれか。
床を蹴って距離を取る。
「ようやく折れましたか。随分と頑丈で驚きましたよ。」
「・・・」
「ああ、別に何も話さなくても良いですよ。この魔剣モルドレッドには一つの特性がありましてね。受けたダメージをそのままお返しするというものなんですがね。さすがに私が身に受けたものまでは面倒見てはくれませんが、それでも数多くの攻撃を受けましたからね。」
「・・・」
「いやいや、実に楽しい時間となりました。さて、お次はどうなさいます?」
さて、どうしようかね?
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