元凶
勢いよくドアを開け、中に侵入する。
何人かがいたが、こちらを注視することもなく、中空を見つめている。
おそらく、例の死人の薬のせいなのだろう。
気にする素振りすら見せない。
家の中で待ち構えていると思っていた俺達は、少し拍子抜けしてしまう。
わざわざ呪文を唱えていたであろうアルクは、詠唱を止めた。
「こいつらは?」
「彼らはもう手遅れだろう。」
「そうか・・・」
「ああ、仕方がないだろう。こちらに注意を向けてこないうちに、撃破しておく必要があるだろうな。」
「かわいそうですけど、仕方がないんですね・・・」
「それで、こいつらの息の根を止めることなんか出来るのか?」
もっともな疑問だろう。
死人という以上、一度死んでいるのと同じなのだ。
死んでしまっている者を、もう一度死なす事が出来るのか?
かつてあったゲームのように、頭を吹っ飛ばせば倒れるのだろうか?
「傷を負わせたところで、関係なくこちらを襲ってくるだろう。完全に動くことが出来ないように、四肢を切り離し、燃やして灰にしてやる以外、彼らを眠りにつかせる方法は無いな。」
「それは、なかなかエグいな。」
「それくらいせねば、彼らを倒すことは出来ない。後は、神聖魔法で、彼らを送ってやるかだな。」
「ふむ・・・」
神聖魔法は、キサラからそのスキルを得ていた。
ならば、それで送ってやるのが手っ取り早いか。
神聖魔法って、イメージ的に俗に言う、光属性の魔法だろ?
俺は掌を彼らに向ける。
そして、掌に光を産み出し、それを彼らに照射する。
「なっ、扱えたのか!」
「まあ、な。」
光を受けて、彼らの体がサラサラと崩れていき、終いには何も残らなかった。
これが、神聖魔法か・・・
誰もいなくなった部屋から奥へと踏み込む。
そこには悠然とした様子で、男が椅子に座っていた。
こちらを一瞥するが、気にした様子はない。
どれ程の余裕が有るのだろうか?
手に持つワイングラスを、しげしげと眺めている。
そんな目の前の男に“神眼”を発動させるが、相手の能力を覗き見る事が出来なかった。
「そんなところに突っ立っていないで、もっと中まで来たらどうだね?」
「そりゃ、どうも。」
「こんな夜更けに、どんなご用かな?」
「一夜の宿を探していたんだが、ちょっと色々あってね。途方にくれていたら、部屋の明かりが見えたんでちょっとよらせてもらった。」
「ほう・・・宿でのもてなしは、不満だったようだな。」
「さすがにね。大層なもてなしだったな。」
やはり、こいつが元凶か。
かなりの余裕を感じさせる態度だが、何がそうさせるのだろうか?
追い詰められたような感じではないな。
何か策でもあるのだろうか?
「いやいや、残念だ。どうだね?もう少し飲みたいと思っているんだが、付き合わないか?」
「いや、遠慮しておく。あんまり旨そうな酒には見えないからな。」
「それは、残念な話だ。」
そう言って、男はワイングラスをテーブルの上に置き、指を鳴らす。
キザな行動だが、何らかの合図だったのだろう。
通過してきた部屋から、うめき声が聞こえてくる。
中空を見つめていた連中以外にも、潜んでいたのかもしれない。
おそらく、この部屋に呼び寄せたのだろう。
挟撃される形になってしまうな。
「さて、君達は招かれざる客なのは理解しているかな?」
「だろうな。」
「さりとて舞台に上がってきた者を、無下に扱う訳にはいかんだろう。」
「こちとら役者じゃないんでね。好きに動くから気にしなくていいぞ?」
「それではホストたる私の沽券に関わるのだよ。なに、大したことはない。皆と同じようになってもらうだけだ。」
どこまでいっても、芝居がかった話し方をする奴だ。
俺は手に持った木刀を、相手に向ける。
その動きに合わせ、カインとアルクも身構える。
「カイン、後ろの連中は頼む。『トゥーンはカインの援護を任せてもいいか?』」
「分かってます。こうなったら仕方ないです。」
『おう、いいぞ!危なかったら言えよ!』
「やれやれ、結局はこうなるのか。」
肩を竦める素振りを見せるアルク。
だが、やる気は万全のようだ。
俺もそうだが、アルクも非道に頭にきているのだろう。
それはカインも同じだろう。
全く気にしてないのは、トゥーンくらいのものだろう。
「悪いな、いいとこ取りで。」
「構わない。この依頼を請けたのはお前だからな。あくまで俺は見届け役に徹することにする。」
「クルスさん。気を付けてください。」
二人に譲られる形で、俺は対峙する。
見たところ、丸腰のようだ。
とはいえ、油断はしない。
魔法をメインに扱う戦い方をするのかもしれない。
「どうしたのかね?」
「丸腰のままだからな。多少の警戒はするものだろ?」
「なるほどなるほど。ならばこれでいいのかな?」
そう言うと、そいつは左の掌に右手を当てる。
そして、掌から一振りの剣を引き抜いた。
「これでいいのかな?」
「・・・いったいどうなってんだ?」
不可思議なことこの上ない。
どこぞのマジシャンかと思わせる。
いったいどこから出したのだ。
本当に、左手の中に入っていた?
そんなばかな。
右手に持つ剣も、禍禍しい雰囲気がする。
よほどの一振りなのだろう。
「さて、始めようか。お連れはもう始めたようだしね。」
後ろでは、すでに戦闘が始まっているようだ。
村一つ分の人数が、向かってきているとすれば、多勢に無勢だとは思うが、ここは凌いでもらうしかないだろう。
幸い、部屋の入り口が障害となって、一斉に襲いかかってくる事は出来ないようだ。
「ハッ!とっとと蹴りをつけてやるよ。」
「それは実に楽しみだ。」
そうして、俺は相手と剣を重ねる。
一合、二合と剣を打ち合わせる。
俺の予想を越える木刀の硬さだ。
何度も打ち合うが、決定打を互いに見出だせないでいた。
「うん。実に素晴らしい。ならば、これはどうかね?」
相手からの攻撃が激しさを増す。
まだ、こっちはそこまで長剣の扱いになれてないというのに。
なんとか、相手の攻撃を受け続けるが、このままではじり貧だ。
そこで、こちらは剣を繰り出す以外に、蹴りなどを織り混ぜる。
なんとか、これで五分までもっていけただろうか?
まだまだ、相手からは余裕を感じる。
「なかなかやるな。」
「そうかね?それは良かった。まだまだ楽しませてくれるのだろうね?」
「さて、どうかな?本気になったらあっさり終わってしまうだろうからな。」
「それはいい。実に素晴らしい。」
なんとか、この状況を打破する方法を考えなければ・・・
さぁ、親玉との戦闘開始です。
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今後ともお付きあいのほど、よろしくお願いします。
2016/07/23 誤字を直しました。