穴を抜けて
床に開いた抜け穴を覗く。
たまたま、宿の客室が二階だったこともあり、階下の部屋につながっているようだ。
縄ばしごが垂れ下がっている。
部屋の中に、特に気配はない。
とはいえ、何が起こるかはわからないので、頭の上にトゥーンを乗せ、自分の視界の入らない部分を補助してもらう。
頭の後ろに目があるわけではないからだ。
注意しながら降りていくが、難なく降りることが出来た。
一階で、周囲を警戒しながら、二人が降りてくるのを待つ。
カインがまず降りてきて、次いでアルクが降りてきた。
さすがに、バルは降りてくる事は出来なかったので、上の捕らえた連中の見張りだ。
言葉が通じる事は無いのだろうが、それでも理解してくれたのだろう。
穴を見下ろしながら、おとなしく座っている。
連れてってやることが出来ないのが、心苦しいが仕方ないだろう。
一階の部屋は、この宿で働く職員の休憩所なのだろう。
簡素なテーブルやイスが置かれていた。
華美な雰囲気とは、程遠い様相をしている。
『クルス!後ろに何か穴があるぞ!』
『やはり、あったか。』
辺りを見ていたトゥーンが、抜け穴を見つける。
入り口をふさいで、二階に上がってくることは無かったようだ。
目的を果たしたら、直ぐに戻るつもりだったのだろう。
先程、探索したときには見つけることが出来なかった。
「これは・・・睡眠香か・・・」
何かを見つけたらしいアルクが呟く。
睡眠香?
名前の通りだとするならば、香りを嗅がせて眠りに誘うものだろうな。
「それで、二人とも眠っていたと言うわけか?」
「おそらくそうだ。この香りを嗅ぐと、深い眠りに落ちてしまうからな。」
「にしては、今その香りが充満してしまっている部屋の中なのに、眠気がきませんね。」
「それは、耐性がついたのだろう。それほど強い効果があるとは聞いていない。この香りで、一度眠ってしまえば、もう効かないと言われているからな。」
それで、二人はあれだけの騒ぎでも起きることが無かったのか。
暗殺などに使用されていたかもしれないな。
バルにも効いていたということは、魔物に対しても有効ということか・・・
討伐依頼を請けたりした場合に、役にたちそうだ。
「あいつらの親玉は薬の知識があるようだな。」
「ああ、かなり詳しいと見ていいかもしれないな。しかも、相手に危害を与える側の知識が高いな。」
「かなり質が悪い相手ですね。」
「そうだな。でも、そうは言っても、進むしか道は無いしな。」
「少し待て。こいつは証拠として確保しておく。後で検証する際に必要になるだろうからな。」
そう言って、アルクは睡眠香を回収する。
同じ手で、この村の住人たちも餌食になったのだろう。
なんの抵抗も出来ず、自分が気づくこと無く死人に変えられてしまうなど、外道の振舞いという以外無い。
「検証?そんなことするのか?」
「この村は街道の往来に欠かせない拠点だからな。後日、必ず復興することになる。その時にも協力してもらえると助かるが、そこまでは頼めないだろうな。」
「そんな先の事は、その時に考えればいい。まずは目の前の事案を解決していくべきだろ?」
「全くもって、その通りだ。」
検証に付き合うつもりはそもそも無いが、先のことを考えるのは、この依頼の解決をはかってからで、遅くはない。
まだ、どのような事が起きるか分かってはいないのだから。
「それじゃ、俺が先行する。」
俺を先頭に、カイン、アルクの順番で床の穴に入っていく。
縄ばしごがここにも掛けてあり、それを辿って降っていく。
それほど深い穴ではなかった。
底に着くと、横穴が続いていた。
人が立って歩けるほどの高さがあるわけでもなく、這いつくばってその穴の中を出口を目指して進むことになった。
こんなところで、反対側から向かってくるものがいたとしたら、スレ違うことも出来ない。
それどころか、殴り飛ばす事すら出来ないだろう。
『トゥーン、先頭に立ってもらっていいか?四つん這いでは、何も出来ないと思うからな。』
『おう、別にいいぞ!俺様に任せとけ!』
『ああ、頼む。』
『おう!』
俺が、トゥーンに先行をするように頼むと、元気に先頭を歩き出す。
とても嬉しそうな様子だ。
やれやれ・・・
だが、この状況で、最も先頭を歩くに相応しいのは、やはりトゥーンしかいない。
後ろもつかえてしまうしな。
しばらくの間、這って移動を続ける。
幸い、誰も反対側からやって来ることが無かった為、すんなりと移動をすることが出来た。
長いトンネルを抜けると、外に繋がっていた。
目の前には、大きな建物が立っている。
入り口が見えないところをみると、建物の裏なのだろう。
そこまでは探索してはいなかった。
これはたしか、村長の家だろうか。
村中を見回った時に、ここも見たのだが不思議なところは見えなかったように思えたんだが。
ここにも、宿のように仕掛けが有ったのだろう。
夜だということもあり、光が漏れているのが分かる。
どうやら、親玉はここに潜んでいたようだな。
建物の中からは、幾つかの気配を感じることが出来る。
ここまで来たのなら、小細工を弄せず、突っ込むのも一つの手か?
裏口を見付ける事が出来ない以上は、強行策しかないのだろう。
小声でアルクに問いかける。
「どうする?」
「どうすると言ってもな・・・奇襲でもかけるしかやりようが無いだろ。」
「例えば、外から建物ごと燃え散らすとかはダメか?ダメか・・・」
「それはダメですよ。中の死人?になっていない人達も巻き込んでしまいますよ。」
「そうだな・・・それじゃ、突っ込むしかないか。」
そうして、俺達は入り口まで行き、両脇に別れてタイミングをはかる。
武器を確認し、手に持つ。
アルクは、何かをもにょもにょと呟いている。
呪文の詠唱でもしているのだろうか?
思えば、アルクの能力を見てはいなかったな。
流石に、このタイミングで確認するようなことはしないが、すべて終わったあとならいいだろう。
「それじゃ、行くぞ。」
ドアに手をかけながら、俺が言うと二人ともうなずいて応える。
さて、鬼が出るか蛇が出るか・・・
トゥーンは今日もご機嫌です。
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今後ともお付きあいのほど、よろしくお願いします。




