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死人の襲撃

アルクが、馬車に馬を繋ぎ直すと、宿近くの小屋まで運び、厩に馬を押し込み、餌を与える。

その様子を俺達はついて回って、つぶさに見続ける。

何かあれば孤立してしまうからだ。

夕暮れになったが、街の様子に変化は無いようだ。

村人が、どこかに出掛けていたという様子も、やはり見られない。

完全にもぬけの殻といった具合だ。


警戒を怠らないようにしながら、宿に入る。

ずいぶんと立派な宿だ。

本来なら、上流階級や金満な生活をする商人、冒険者などを迎え入れる大店なのだろう。

広いロビーを抜け、俺達はキッチンへと向かう。

ドアを開けた瞬間、トゥーンとバルが一目散に逃げる。

傷んだ野菜の、腐ったような臭いがする。

食材が痛むほどに、時間が経ってしまっている。

食材の量は中々のもので、意図せずに、この村に異変が起きたことが読み取れる。

さすがにこんなところでは、食事を取る気も失せるというものだ。

ドアを固く閉める。


「凄い臭いだな。『大丈夫か?』」


『ありえねー!クセーよ、クセーよ、クセーよ・・・』


遠くの方で、トゥーンが鼻を押さえるような素振りをしている。

バルも鼻を手で擦るような動きだ。

相当に効いたのだろうな。


「だが、これで村人達にとっては、突然に異変が起きたことになるな。原因がいまだ分からないが。」


「そうだな。計画的に出ていくつもりなら、あれ程の量の食材を余らせては行かないだろうな。」


「でもキッチンを使えないのは痛いですね。今日の夕食はどうしましょうか?」


「外でかまどでも作って調理すればいいだろ?寝るときだけ部屋を借りればいい。」


「そうですね、そうしましょうか。それじゃあ、僕はちょっと準備してきます。」


「トゥーンを連れてけ。一人で動くのは避けとけよ。」


「わかりました。『トゥーンくん、ご飯作るからついてきてよ。』」


カインは、トゥーンを伴って外に出ていく。

どうやらバルもついていくようだ。

先程の臭いが、よほど嫌だったのだろう。

食事の準備中に、仮に異変が起きてもトゥーンがいれば何とかなるだろう。

何せ、この中で一番強いのはトゥーンだからな。

バルもいれば尚の事だ。


残される形となった俺とアルクは、宿の中を探索し続ける。

最初に覗いたときは、入り口付近のみにとどまっていた。

一部屋一部屋、丁寧に覗いて回っていく。

人の姿は無いが、居たであろう痕跡は残っていた。

宿泊客の荷物が、そのままになっている。


「全くもって分からないことだらけだな。」


「そうだな。自分の荷物全部置いたまま、どっか行っちまうなんて考えられないな。」


「ああ、その通りだな。価値の高そうな物も全て置いたままになっているな。」


まるで、ホラー映画にでも出てきそうなシチュエーションだ。

一人になったところを狙われていく・・・

そんなことが起きそうな感じだ。

全ての部屋を回り、一階のロビーに戻る。

そろそろ、カインの方の準備も済んだだろう。


ささっと食事を済ませ、部屋の一つに皆で集まり、そこで休むことにする。

入り口を入念に閉めて、ドアが開かないようにした。

これで、外からの侵入を阻むことが出来るだろう。

何となくベッドで寝るのは、はばかられたので、俺は壁に背を預けて休むことにした。

バルは、俺に身を寄せるように横で丸くなった。

ちょうど手を置けるくらいの位置にいたので、軽く撫でた後手を載せたままにする。

トゥーンはといえば、なぜかいつもの所定の位置に居座っている。

横になる選択肢を蹴ったためだろう。


カインも俺にに倣おうとしていたが、俺に気にすることなくベッドで眠るように促してやった。

すると、申し訳なさそうにしながらも、ベッドで休むことを選択したようだ。

無理もない。

ここまで来る間に、疲れが相当溜まっているはずだ。

移動が大変だった事を証明するように、すでにアルクは別のベッドで夢の中だ。


皆が眠る夜半過ぎ、何かの動く気配に感づき、俺は目を覚ます。

いったいなんだ?

うっすらと目を開ける。

部屋の中は光がないため、かなり暗い。

その中を、眠りにつく前にはいなかったはずの人の影がいくつもあった。

どこから侵入した?

部屋の入り口がこじ開けられた形跡はない。

何らかの異変が起きることを予期していながら、この体たらく。

情けないことこの上ない。


『起きてるのか?』


頭の上のトゥーンから、念話で呼び掛けられる。


『ああ、今気付いた。あいつらは?』


『床からぞろぞろ出てきたぞ!なんだあいつら?』


『まだ、分からんな。しばらく様子を見たい。いいか?』


『いいけど、いいのか?』


『ヤバイと判断したら、行動してくれて構わない。俺もそうするから。』


トゥーンにしばらく静観するよう頼み、俺はしばらく様子を伺う。

そいつらはカインとアルクがそれぞれ眠るベッドの傍に集まっていく。

何をしようというのだろうか?

そいつらは、そっとカインの体を押さえつけるようにしている。

まずは標的はカインという訳か。

だが、カインは目を覚まさない。

そいつらの中の一人が、何か小ビンを出した。

そして、それをカインの口元に近付けていく。

それをカインに飲ませるつもりだろうか?

さすがに、そこまで見届けるつもりはない。


『行くぞ!』


『おう!俺様にまかせとけ!』


トゥーンが、バッと飛び跳ねるように、小ビンを持っている奴に体当たりを敢行する。

ドンッという音をたてて、壁にぶつかる。

それに続くように、押さえつけている奴を蹴り飛ばし、対面で同様に押さえ込んでいる奴を蹴り飛ばし、カインの拘束を解く。

さすがに、この物音に目を覚ますかと思ったが、二人とも動き出す気配が無い。

舌打ちをしながら、アルクを拘束している奴に、カインの眠るベッドを足場にして飛び蹴りをかます。

こちらの行動が見えているだろうに、体を守ろうとする動作をしない。

もう一人にも側頭部に蹴りを浴びせると、その場に膝から崩れる。

侵入していたのは、この五人のようだな。


アルクの頬を叩き、声をかける。

すると、ようやく目を覚ます。

まだ、頭がボーッとしているのか、実に眠そうな顔をしている。


「いい加減、目を覚ませ!」


「まだ、真っ暗じゃないか。どうしたんだ?」


「そりゃ、お前の横に倒れてるの見たら分かるだろうよ。」


そう言って、次にカインを叩き起こす。

こちらも実に眠そうにしていた。


「なんです?クルスさん?」


「いいから、さっさと起きろ!」


「クルス!なんだこいつらは!」


「俺が知るかよ。こいつらが異変の正体だろうよ。兎に角、まだ仲間がいるかもしれない。早いとこ、ここから動くぞ。」


横に倒れている存在を見て、ようやくちゃんと目が覚めたようだ。

ジロジロと見て、何者なのかを確認しているようだ。

カインも、その姿を確認したのか、ベッドの上に立ち上がっていた。

なぜか、腕の中にトゥーンを抱いている。


「どっから来たんだ、こいつら。」


「床からわいてきたんだろうよ。」


「今、冗談を言ってる場合じゃないですよ!」


「床を見てみろ!人が通れそうな穴が空いてるだろうが!」


「あ、ほんとだ。」


まったく・・・

この状況で冗談を言うと思うのか?


「それで、どうするつもりだ?」


「決まってんだろ。こっちから出向いてやれば話は早いだろ。」


ニヤリと笑う俺に、呆れた表情を二人は浮かべた。

まだ、不馴れなところのあるカインはともかく、アルクは冒険者失格かもしれませんね。

いや、全員ダメダメですか。


ブックマークや評価を頂けると、物凄くモチベーションが上がります。

また、様々な感想を頂けるとありがたいです。

今後ともお付きあいのほど、よろしくお願いします。

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