村に到着
あれから、さらに4日程たった。
そろそろ、目的地も近いだろう。
今日も快調に、馬車は街道を駆け抜ける。
これまで、移動するなかで、すれ違う者は皆無だった。
本来なら、人が往来する人の一人や二人くらいは見ても良いはずだ。
やはり、何か異変が起こっているのだろう。
しかし、これほど人を見ないとなると、普通は国が出てくるものじゃないのか?
交通の中心となる街道は、国にとっては血液を巡らす血管のようなものだろ?
血の巡りが悪くなるように、街道の通りが悪くなればそれだけで、経済的な打撃をうけるだろう。
それだけじゃない。
必要な物資が届かなければ、最悪飢えて苦しむことになり、結果国力は落ちていく。
これ程の異変を捨て置くだろうか?
疑問に思い、御者を勤めているアルクに声をかける。
「すまん、少し聞きたいことがあるんだが。」
「なんだ?」
「なぜ、これ程誰も通っていない?それに、これ程人がいない状況なら、国がしゃしゃり出てくるものじゃないのか?」
「そこが、今回の依頼の面倒くさいところだ。」
「どういうことだ?」
「今、彼の国では王位を争っているらしく、こんな些末な事に介入している場合じゃないらしいな。」
「なっ!」
王族の権力争いの影響で、捨て置かれているだと?
巻き込まれる住人にとっては、たまったものではないな。
商人や冒険者にとってもそうだ。
自由に動けないとなれば、商機を失うことにも繋がる。
活動を制限されれば、それだけ互いを食いあうような事にもなりかねない。
「この状況を危惧した支部長が身を切って、特殊依頼という形で調査を任せたのはそういう背景があるんだ。」
「それなら、俺みたいなぽっと出じゃなくて、頼むべき連中は他にもいただろうに。」
「そういう連中の全てが、必ずしも依頼を請けるとは限らないだろ?特に、あの街にいてコンスタントに魔物を間引いている方がよっぽど楽だからな。人は正義感だけじゃ、なかなか動かないものだ。」
「それなら、多少なりとも報酬に色をつけたりは出来ないのか?」
「そんな連中にそんなことやったら、支部長は破産確定だろうな。」
「それで、俺達に?」
「幸い、ランクが低いからな。それに見あった報酬になるだろうよ。それでも相当な額になるだろうが。」
ランクによって依頼の報酬の額が変わるなど初めて聞いた。
しかし、ボードに貼られていた依頼はどのランクの者でも請けることが出来ると言っていなかったか?
それに、その報酬はちゃんと、依頼票に記載されていたはずだ。
「指名を受けた場合は、色々条件が変わってくる。誰しもが指名を受けれる訳じゃない。だから、皆ランクを上げる努力は怠らないのさ。」
「そういうことか。」
「今回の条件の中には、あのリスの冒険者登録も含まれている。かなり特殊な案件だな。それ以外に払うべき報酬を決めあぐねていると思うぞ。」
「別に高望みする気は無いんだがな。身の丈以上に貰ってしまったら、冗長して調子に乗りそうだな。」
「自分でそんなこと言える奴は、そうそう不用意な事はしないもんだ。それよりもうすぐ目的地に着くぞ。準備を怠らないようにしておくことだ。」
「了解した。」
一応の納得をすると、元の位置に戻る。
カイン達に、もうすぐ着くらしいと告げ準備をする。
といっても、ちゃんと装備品を身に付けているかの確認程度ではあるが。
やがて、馬車がその動きを止める。
いよいよ目的地に着いたようだ。
一番にバルが馬車から飛び出す。
トゥーンが駆け寄ってきて、いつもの定位置に乗っかってくる。
それをそのままに、俺も馬車から降りる。
ここが、死者が蘇る村?
はた目には、田舎の村落といった風情だ。
とはいえ、旅人の休息地として利用されていたのだろう。
その風景にそぐわない、大きな建物もいくつかあった。
それらは、特に荒らされているようには見えなかった。
死臭が漂うといった様子もない。
いたって普通と言ってしまって、差し障りがない。
だが油断は禁物だ。
どんな罠があるか分からない。
「カイン、どうだ?」
「いたって普通の村ですね。何か起こったとは思えないですよ。」
「そうか。『トゥーンの方はどうだ?』」
『うーん、わかんないな。むしろ、誰か居るのか?誰もいないぞ!』
廃村というわけではないだろう。
それならば、こんな依頼を請けることなどなかったはずだ。
しかし、トゥーンの言うことを信じないという選択肢も無い。
馬車を固定し、馬をロープで繋いだ状態で解放してきたアルクが
やって来る。
「どうした?そんなとこで固まっていても仕方ないだろう。ひとまず、誰かいないか確認に行こう。警戒だけは怠らないように。」
「バラバラに行動するのは、得策じゃないと思うんだが、どうだ?」
「そうだな。離れたところで何かあっても対応出来ないかもしれないな。」
こうして、俺達は村の中へと入っていく。
俺とバルが先頭に立ち、次いでカイン。
最後にアルクという順番で動いていく。
トゥーンは勿論、定位置から動いてはいない。
周囲に気を配りながら、進んでいくが何も見つからない。
各家を覗いて回るが、異常らしい異常は見当たらなかった。
と、同時にトゥーンが言った通り、村人の姿も確認できなかった。
「どういうことだ?集団で引っ越しでもしたか?」
「いや、それは現実的に考えて、あり得ないとみるべきだ。」
「でも、それだったら村に住む人達は、どこに行ってしまったのでしょう?」
「それが分かれば苦労は無いな。」
そう言いながら、アルクは空を見上げる。
慎重に探索をしていたこともあってか、かなりの時間が経ってしまったようで、夕陽が差している。
「そろそろ、今日の探索は切り上げるべきだろう。幸い、村は荒らされた様子は無い。ここはひとまず、宿を借り受けよう。」
「おいおい、それを対応する人がいないんじゃなかったのか?」
「そうは言っても、このまま夜になるのも不味かろう。ひとまず体勢を整えるべきだ。」
「そう言うならそれに従っとくか・・・カインはそれで良いか?」
「無断で泊まるなんて、少し気が引けますけど構いませんよ。誰もいらっしゃらないようですし。」
こうして、先程探索している時に見つけた、宿らしき建物で一夜を越えるべく、移動した。
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