冒険者と職員
食事を終えると、カインが後片付けを行ってくれるということなので、甘えることにした。
見張りは、カインが最初だったなと考えながら、馬車に戻る。
馬車を牽く馬の世話は、アルクが全て行うということで手伝うことはしていない。
馬は、馬車からどこか遠くに行かないように牽引されているものの、解き放たれて休憩中だ。
その近くでバルが丸くなっていた。
さらに、その上にトゥーンが丸くなっている。
ずいぶん仲が良くなったものだ。
二匹を気にすることなく休む、馬も大したものだ。
慣れないものに恐怖を感じると聞いたが、そんなこと無いんだな。
雄大な馬格をしている。
悪路をものともせず、かけ続ける力強さを持っているのだ。
これだけ大きくても納得できるというものだ。
この姿を見たら、二匹に怯えないでいることも、理解できそうなものだ。
さて俺の目的はというと、いつまでも会話ひとつ無いような状態を続けるのもどうかと考えた末、アルクと少し話をしようと思ったのだ。
先程の食事が、そう思うきっかけになったのは、言うまでもない。
馬車の中に乗り込むと、アルクはこの旅で日課としているらしい、読書に勤しんでいた。
どんな本を読んでいるのかは、分からないが。
「アルク、少しいいか?」
「・・・いったいなんだ?」
「いや、大した用は無いんだがな。」
「別に馴れ合う必要はないだろう。」
「いや、あえて馴れ合う事にした。」
「・・・変わった奴だな。」
アルクは読んでいた本をパタリと閉じ、横において俺の方に顔を向けた。
冒険者ギルドで見せた、険のある表情はしていなかった。
やはり、ただの嫌な奴というわけでもなさそうだ。
「それで、なんだ?どうやって馴れ合う気だ?」
「はて?どうすればいいんだろうな?」
「なんだそれは。」
こちらの、考えなしの思い付きの行動に呆れているようだ。
それも無理はないだろう。
俺だって、急にこんな状況になれば、困惑すること間違いなしだ。
「そうだな・・・一応、酒は持ってきたんだが。」
「いや、今は移動の最中だ。何が起こるか分からない以上、やめておこう。」
「そうか・・・それもそうだな。酒でも飲みながら話すのがてっとり早いやり方と思ったんだがな。配慮が足りなかったな。」
「そう、かしこまらなくもいい。気持ちだけ貰っておく。」
俺は、酒を馬車の隅に追いやる。
確かに今は移動中だ。
これが街の中を、適当にぶらつきながらの移動ならいざ知らず、今は街の外なのだ。
いつ、魔物や盗賊などが襲ってくるかは分からない。
そんな状況下で、酒を飲んで対応が出来なくなるなど、冒険者失格だろう。
自分の命を好きに持ってってくれと、言っているようなものだ。
自分の早計すぎる考えに、がっかりしている俺にアルクから声が掛かる。
「質問があるがいいか?」
「あっ、ああ。なんだ?」
「何故、冒険者をやっている?他にも選択肢はあっただろうに。」
「何故か。そこまで、深い考えがある訳じゃないさ。単純に今の俺に出来ることは何かって考えてたら、自然となっていたようなものだ。」
「自分には冒険者しか出来ないと?」
少々、語尾を強めにしてアルクが聞いてくる。
別に、怒っているという訳でもなさそうだ。
どんな答えを期待しているのか?
そんなものは分からないから、素直に心情を吐露する。
「そこまで自分を卑下している訳じゃないさ。勿論、冒険者という職業を悪く言っている訳じゃないぞ。ただ、生きていく上で最も手っ取り早く金を得るには、冒険者が都合が良かっただけだ。」
「別に金が稼ぎたいだけなら、こんな危険な事をしなくてもいいだろうに。」
「だから言っただろ。俺が生きていく上では、冒険者が最も手っ取り早いってさ。俺は、あの街の住人ではないしな。身寄りだっていない。頼るものは自分だけなら、そうなるのも必然というものじゃないか?」
「そうか・・・考えなしの行動でなった訳じゃないのか。冒険者ギルドでの態度を見ていたらつい、な。」
「相当、横柄に見えたんだろうな。まぁ、どう思われてもいいさ。俺は俺でしかない。冒険者ギルドでアルクが見た俺も、今目の前にいる俺も、どちらも俺だ。」
どう繕ったって、俺は俺でしかないからな。
それなら、そのときそのときの自分でいるだけだ。
「初対面が悪すぎただけなのは理解した。あのときは、ただ、我を通したいだけの、愚か者にしか見えなかったからな。」
「それも俺なんだ。あんまり言ってくれるなよ。俺から見たら、あのときのアルクはお役所仕事の嫌な奴にしか見えなかったしな。」
「そうか。確かに仕事については、いつも硬いと支部長にも言われていた。もっと柔軟性を持てと、良く言われる。」
「まぁ、真面目が過ぎるってことだろ。もっと気楽に出来れば良いのにな。」
「なかなかそうもいかん。規則は何も縛り付ける為のものではない。結果的に、冒険者達を助けることだって往々にある。冒険者ギルドで働く以上、職員は率先して規則を守らなければならない。が、少し周りに自分の考えを押し付け過ぎていたところもあるのかもな。」
何となく、アルクの心のうちが見えた気がした。
ただのお役所仕事ではなかったのか。
こちらが不快に思ったことが、アルクにとっては最も遵守しなくてはいけない事だったという事だったのか。
「それにしても、冒険者ギルドの時と違って、喋り口調が変わったな。」
「そうか?そうだな・・・昔の自分にでも戻ってしまったのかな?」
「昔の自分?」
「ああ、俺もかつては冒険者として、色々なところに行ったものだ。支部長に誘われてからは、冒険者稼業は休止して、職員として働いているがな。」
「そりゃ、華麗な転身だな。」
ガイエンが優秀な男と褒めていたのは、そこに理由があったようだな。
旅なれていた冒険者ならば、心配は少ない。
それも、自分自身が見込んでスカウトしてきた人材なら、尚更だろう。
「さて、私はそろそろ休む。見張りの時間になったなら起こしてくれ。」
「ああ、わかった。話せて良かったよ。」
「そうか。」
そうして、アルクは座ったまま目を閉じる。
俺も休むことにしよう。
ローブにくるまり、眠りにつくことにした。
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