旅の空
特殊依頼を請けて、3日。
俺たちは、冒険者ギルドが用意した馬車に乗って、移動をしている。
話の流れに任せる内に、出発する流れになっていた。
別に、かまいはしないのだけれども。
カインとトゥーンにもこっそり念話で確認をすると、肯定的な意見だった為、出発を了承した。
すでに冒険者ギルド側は、出発する準備は済んでいたのか、後はこちら次第といった風だった。
ここまで準備が終わった状態で、先延ばしにするのはさすがに出来ない。
とはいえ、こちらの準備が全て終わっている訳ではない。
その事を告げ、暫しの時間を得ると、しなくてはいけないことをこなしていく。
宿でしばらく旅に出なくてはならなくなった事を告げ、部屋を引き払い、道中の食料を購入しにいく。
ある程度は、冒険者ギルド側からの提供があるかもしれないが、それに頼るのもどうかと思うのだ。
さらに、冒険者ギルドでこっそりスキルを獲得することも忘れないで行っておいた。
無手熟練(LV.1)・・・無手での戦いが上手くなる
長剣熟練(LV.1)・・・長剣の扱いが上手くなる
闇魔法(LV.1)・・・闇属性の魔法を操る。
たまたまこれらのスキル持ちが、冒険者ギルドにいて良かった。
特に“長剣熟練”は獲得しておきたかった。
メインの武器が、これからは木刀と刀身の無いナイフになるのだ。
スキルを成長させる意味合いでも、早めに獲得したかった。
もうなれたもので、気づかれないように相手に触れられるようになっていた。
自分のこれからがどうなるのか、逆に心配になってくるな。
準備が終わり、冒険者ギルドに戻ると馬車が用意されており、直ぐに乗るように急かされ、今は旅の空といったところだ。
馬車に同乗するアルクとは、今のところ会話が無い。
唯一、会話といえるのは、馬車に乗る際に言われた「どうぞ。」の一言くらいだ。
俺もそれに対して、「ああ。」の一言のみだ。
カインはその持ち前の社交性を活かして、普通に会話をしているようだが。
狭い馬車の中で、引っ付いてくるバルをいなす。
それを、遊んでもらえていると判断したのか何度もやってくるので、終いには面倒くさくなり、今は膝の上に乗せていた。
綺麗な毛並みをしている。
それを撫でるとモフモフしており、とてもさわり心地がいい。
『トゥーン、馬車の旅は退屈じゃないか?』
『ん?そんなこと無いぞ!こんな乗り物?乗ったこと無いからな!これはこれで面白い!』
『そうか?景色も特に変わることもないだろうに。』
『景色?そんなもの始めから見てないぞ。』
『そうか・・・』
単純に、馬車に乗るという行為が楽しいみたいだな。
飽きることなく、楽しみ続ける事が出来るのは羨ましく思う。
俺も、乗って始めの内はそうだったが、直ぐに辟易した。
馬車の揺れが、予想以上に酷いのだ。
街道は踏み固められた、他に比べてもキレイな道だ。
それでも、まっ平らというわけではない。
アスファルトで、綺麗に舗装されている訳じゃないのだ。
馬車の車輪にも、サスペンションがついてるわけでもない。
必然的に、馬車はその揺れをダイレクトに、搭乗する人間に伝えてくる。
お陰で、夜営をしようとする頃には、体がバキバキになっていた。
カインもアルクもそんな素振りを見せないので、俺も内緒にしているのだが、これがなかなか辛い。
どうしても、自動車と比べてしまうな。
無い物ねだりなのは、分かっているんだけどな。
「クルスさん、火を起こして貰えますか。」
「ん?ああ、どこに起こせばいい?」
「木の枝を薪として集めてきたんで、ここにお願いできますか?」
「わかった。一体何を作るつもりだ?」
「夜営ですからね。大した物はさすがに無理ですよ。」
「だよなぁ。」
夜営も言っても、キャンプをするのとは訳が違う。
精々、日持ちのする塩漬け肉を沸かしたお湯に投入する程度の、さもしい食事くらいしか出来ない。
本来はだ。
今では、俺は様々な魔法を扱えるようになっていたし、カインの持つ魔法の袋も存分に役に立っている。
「たまには俺が作ろうか。」
「えっ!本当ですか?」
「まぁ、どうしたって簡単なものしか出来ないがな。」
さて、何を作ろうか?
出発前に様々な食材は調達しておいた。
しかし、材料はともかく、大した調味料が無い。
それでも、塩も胡椒もある。
コンソメが無いのが残念だが、ポトフもどきでも作ろう。
“調理”スキルのレベルが低いとはいえ、所持していない者に比べたら良い物が出来るだろう。
材料を切り分けるために、例の刀身の無いナイフを使用してみる。
魔力を込めるイメージを浮かべ、おそらくそこに刀身があるのだろうところを、当ててみると予想以上の切れ味をみせる。
刀身がないことで、欠ける心配も無いし、切れ味も落ちることもない。
さらに洗浄する必要性も無いくせに、清潔さを保てる。
唯一の難点は、刀身が見えないこと。
戦闘の際は、役立つだろうけども、こんな風に使うのならば不便この上ない。
間違えて指でも切り落とすなど、ごめんだからだ。
何か方法は無いかと考え、色をつけることは出来ないかと試すと、すんなり色を帯びる。
淡い緑色なのは、前の世界で昔やったゲームなどの影響か?
さて、材料を切り終えると、これまた持ってきた鍋に全ての材料をぶちこんで、煮込むだけだ。
塩と胡椒で味付けをすれば、完成か。
味見をしてみたが、以外と旨いので驚いた。
たかが、LV.1とはいえ“調理”スキル凄いな。
料理などとは無縁の生活をしていたが、たまにはいいかもしれないな。
適当に材料ぶちこむくらいなら、俺にも出来るし。
食事の仕度が済むと、2人と2匹は早速俺の作ったポトフもどきを食べ始める。
さすがに会話が無いとはいえ、アルクをのけ者にして食事をすることには気が引けていたし、アルクもこちらの気持ちを汲んでなのか、食事をこれまでも共にしていた。
その様を、固唾を飲んで見つめる。
「あ、美味しいですよ。」
『野菜ばっかだけど、うめーじゃねーか!』
「ガウガウ♪」
カイン達からは好評を得ることができた。
さて、アルクは?
じっと見ていると、気不味そうにしている。
なんだ?
「男に見つめられる趣味は無いんだが?」
「・・・あ?」
どういう意味だと逡巡し、直ぐに気付く。
俺にもそんな趣味は無い。
その一言にイラッとしたが、食事中だ。
この程度で揉めても、これからまだ移動を続けなければならない。
ここで、喧嘩をしたところで良いことは無いだろうと、我慢をする。
俺のその様子が可笑しかったのか、薄い笑みを浮かべていた。
どこまで嫌な奴だよ。
「冗談だ。なかなかいい味をしている。」
「・・・そうか。それは良かった。」
ただの皮肉屋だけなのかもしれないな。
少し、付き合い方を考え直してもいいかもな。
いきなり旅です。
そして、いきなりのスキル獲得です。
さらに、いきなりの調理(と呼べるものではない)です。
もうね、獲得スキル増えすぎて困るんですよ。
それがこの話の醍醐味?でもあるんですけど。
名前 クルス・カミヤ
性別 男
年齢 18
スキル
神眼、複写
体力増大(LV.5)、敏捷増大(LV.4)
腕力増大(LV.7)、魔力増大(LV.5)
精神力増大(LV.6)、命中補正(LV.4)
無手熟練(LV.1)、蹴撃熟練(LV.3)
短剣熟練(LV.4)、長剣熟練(LV.1)
槍熟練(LV.1)
打撃(LV.5)、切り裂き(LV.2)
火魔法(LV.5)、水魔法(LV.2)
風魔法(LV.3)、土魔法(LV.4)
神聖魔法(LV.1)、闇魔法(LV.1)
強奪(LV.1)、気配遮断(LV.3)
隠蔽(LV.3)、加速(LV.4)
連携(LV.2)、幻惑(LV.1)
威圧(LV.1)
自然治癒増大(LV.5)、状態異常回避(LV.4)
成長促進、意志疎通
解体、調理(LV.1)
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今後ともお付きあいのほど、よろしくお願いします。