閑話 三度目
27話~29話の合間あたりのお話しです。
30000PV 5000ユニークを記念して、書いてみました。
これからも変わらぬご愛顧の程を。
体を揺らされ、強制的に起こされる。
いったい何だというのだ。
今だ眠気の支配する体を奮い立たせ、目を開く。
そこは、見覚えのある、かつて見た純和風なたたずまいの部屋だった。
もしかしたら、また記憶を飛ばしたのか?
際限無く、体を揺さぶられ続ける。
腹部の辺りに重みを感じる。
そちらに視線を移すと、見覚えのある少女が、俺の上に乗っかっていた。
一心不乱に揺らし続けるその姿に、少しほっこりする。
思えば、結婚などとは縁遠い生活をしていたが、娘がいたとしたらこんな感じに起こされる事もあったのだろうな。
少女と目が合うと、ニッコリと笑った。
ただ、目が合っても揺さぶり続けているのだが。
「ようやくおきたのじゃ。」
「あぁ、久しぶりだな・・・ところで、この状況が理解できないんだが・・・」
「なんじゃ?まだ、ねぼけておるのか?」
「いや、そうじゃなくて。何で俺の上に乗っているのかが理解できないと言っているんだが。」
「なんとなくじゃ!」
つまり、特に意味は無いということか。
別に大して重いわけでもないし、別に構いはしないが。
何故に懐かれているのか?
それほど、甥っ子や姪っ子に好かれているようなタイプの人間ではなかった。
それな自分が懐かれているのだ。
別にロリコンでもなんでもないが、嫌な気持ちにはならなかった。
「取り合えず、降りてくれないか?」
「ふむ、そうじゃのう。おきたし、おりるとするかのう。」
「ああ、そうしてくれると助かるな。」
「そうじゃ、せっかくこちらにきたのじゃ、おちゃでもいれるかのう?」
「それはありがたいね。」
向こうでは、お茶といっても緑茶は出てこない。
野草や木の皮を煮出したものをお茶と呼んでいて、お茶っ葉などは見たことがない。
いずれ目にする事があれば良いのだが。
他にも、米や味噌、醤油などの和風な物はおそらく口にすることは叶わないかもしれない。
アマテラスは楽しそうな素振りを見せながら、お茶を淹れてくれた。
おまけにお茶うけとして、煎餅の載せられた器を卓袱台の上に置いた。
お茶の入った湯呑みを受け取りすする。
そうそう、この味だ。
心がホッコリするのは、やはり自分が日本人であるということの証明だろう。
「それで、つぎはどんなむちゃをしたのじゃ。」
「無茶か・・・多少の無茶はしないと潜り抜けられない修羅場ってのもあるからな。」
「それをきいておるのじゃ。」
「神様なら、俺の心の内くらい読めるんじゃないのか?」
少し意地悪をしてみる。
神様相手に意地悪をするというのも、どうかとは思うのだが。
不思議とかまってやりたくなる気持ちになるのだ。
「わたしにはこころはよめぬのじゃ・・・」
どうやら、落ち込ませてしまったようだ。
神様ってのも万能ではないのかね?
日本には、八百万の神様がいるというしな。
もしかしたら、色々分業しているのかもな。
そう考えると、案外日本の神様ってのは、システマチックなところがあるのか?
手に持つ湯呑みを覗きこむ姿勢で、アマテラスが固まっていた。
俺は、卓袱台を挟んで対面に座るアマテラスの頭に手を伸ばすと撫でてやる。
すると、少し恥ずかしそうな雰囲気をしながらも、気持ち良さそうな表情をする。
「かみさまをなでるなど、ばちあたりもいいとこじゃな。」
「それなら止めるか?」
「いや、もうちょっとつづけるのじゃ。」
「はいよ。」
もうしばらく続けるように言われたので、気の済むまで撫でてやる。
アマテラスは目を細めていた。
あまり撫でられる機会は無いのか?
こんなに小さい子だというのに。
もう少し、誰かかまってやればいいとおもうのだが、神様の世界の事情は知らない。
下手に口を出すわけにもいかないか・・・
そもそも誰に言えばいいかも分からないしな。
しばらく撫で続けた後、再び何があったか聞かれたので、今度は素直に話してやる。
盗賊に出くわした事。
その盗賊を撃退した事。
その盗賊の親玉が魔物に変化した事。
そして、その魔物にかなりのダメージを負わされてしまった事。
俺が話をするたびに、一喜一憂するようにコロコロと表情を変えながら、話を聞いていた。
とくに、盗賊の親玉が魔物に変化した時には、驚きが大きかったらしく、随分と興奮ぎみになっていた。
それにやられて、こっちに飛ばされたと聞くと、沈んだ表情になったのは言うまでもない。
「なかなかたいへんそうじゃの。」
「そうだな・・・まだまだ修行が足りないのかね?」
「うーん。どちらかというと、こころがまえのほうじゃな。べつのせかいなのじゃ、いままでのじょうしきはつうようせぬとみてよさそうじゃ。」
「あー、それは俺もさすがに思ったわ。」
「じぶんのことなのにずいぶんきらくじゃな。」
「何でだろうな?まだ、現実と受けいれきれてないのかもな。」
頭では何とか理解しても、心が理解しきれていないといったところか?
そうは言っても、これが現実というのだからいずれは受け入れざるおえないのだろうけども。
「おんしはかんがえすぎなのじゃ!もっとじゆうにいけばいいのじゃ。」
「もっと自由ね・・・」
今まで培ってきた常識を、全てかなぐり捨てて生きていけということか?
それをして、俺は俺として生きていけるのか?
「じゃから、むずかしくかんがえるのはやめるのじゃ。また、みけんにしわがよっておるぞ。」
思わず、眉間に手を当てる。
「こころのままにいくのじゃ。それがひとからみられたらひどうやげどうにうつろうと、きにすることはないのじゃ。」
「そうだな・・・なるべく、そう出来るようにやってみるか。」
「そうじゃそうじゃ。のぞき、ごうとう、ぬすっと、すりなんかのさいのうがあるのじゃ。げどうになることなぞ、かんたんじゃろうて。」
「なかなか言ってくれるな。」
だが、少し心が軽くなった気がした。
俺の全ての事情を理解して納得出来るものなど、向こうの世界にはいない。
トゥーンやカインは大事な仲間だが、この心の内を仮に話したところで、全てを理解できるとは、到底思えない。
もしかしたら、俺は俺の事をしっかりと分かってくれる存在が欲しかったのかもな。
それから俺とアマテラスは、前回のように俺が不意な眠気に襲われるまで話を続けた。
なるべく可愛らしくなるように意識して、四代目アマテラスを書いているつもりなのですが、どうでしたか?
しばらくクルスが気絶していないので、登場の可能性がないんですよね。
今後のために、後二~三回クルスの意識飛ばすか(笑)
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今後ともお付きあいのほど、よろしくお願いします。