ようやく冒険者ギルドへ
日が変わり、目が覚める。
十分に休みを満喫することが出来た。
朝から晩まで、人が普通に生活する場所で、自由に過ごすのは思えば初めてじゃないか?
街中も散策出来たし、掘り出し物も見つけることが出来た。
まぁ、多少のイレギュラーのような出来事はあったものの、概ね満足できる一日だった。
「おはよう、カイン。」
「あっ、おはようございます。」
先に起きて、何やら準備をしているカインに声を掛ける。
トゥーンとバルはまだ眠っているようだ。
起こさないように、大声は控えないといけないな。
「カインは、今日はどうするんだ?」
「何もないようなら、今日も宿の手伝いですかね。」
「そうか。相変わらず、精が出るな。俺は、冒険者ギルドに顔を出してくることにするよ。特殊依頼の話も、もう一度ちゃんと聞いてくる。」
「僕も行きましょうか?」
「そうだな・・・カインも一緒に依頼をつもりだろうし、話は聞いといた方が良いだろうな。時間は作れそうか?」
「勿論です。それじゃ、朝食時が終わってからで良いですか?」
「それで構わない。別に急ぐ用な訳でもないしな。」
準備を済ませたカインが部屋を出ていく。
ドアを開けた際に、昨日冒険者ギルドからの伝令をぶっ飛ばした辺りがへこんでいるように見えたが、きっとまだ寝ぼけているんだろう。
そうに違いない。
仮に弁償するように言われたら、ガイエンにでも払わせればいいだろう。
昨日、買い物をしにいった時に購入していた服に着替える。
いつまでも、着のみ着のままではまずいだろう。
あー、風呂に入りたいな。
この街だけなのかは分からないが、今のところ風呂の存在を確認していない。
たらいに湯を張り、それで体を洗うくらいだ。
飛ばされ者の先駆者が、どこかで作っていることを願うのみだ。
着替えが終わり、装備品を纏うと準備は万端。
いつでも動けるようになった。
が、しばらくは部屋でのんびりとする。
あまり早くに行っても、朝食を求めて訪れる客が多くいるだろう。
それなら、後から行ってゆっくりと食事をした方が良いだろう。
別に、人混みが苦手な訳ではない。
どちらにせよ、カインを待つことになるのは変わらないのだ。
トゥーンとバルが、ちゃんと目を覚ましてからでも構わないだろう。
しばらくたってから、ようやく目を覚ました二匹を連れて食事を終わらせると、カインの手伝いが終わるのを待つ。
今日もあっさりしたメニューで、良かった。
トゥーンやバルにとっては、物足りないかもしれないが。
二匹とも、どちらかといえば肉食なんだよな。
好き嫌い無くなんでも食べるのだが。
カインを伴い冒険者ギルドに辿り着くと、こちらを見た職員が駆け寄ってくる。
いったいなんだ?
昨日の事で、何らかのクレームでもつけるつもりだろうか?
別にそれはそれで構わないが。
「クルスさんとカインさんですね。支部長がお待ちです。今すぐに支部長室へ行ってください。」
「ガイエンが?」
いったい何時から待っていたのだ。
まさか昨日の朝から?
さすがにそれは無いにしても、いつ来ても良いようにしていたのかもしれないな。
しかし、そこまでするほどの用でも出来たというのか?
まぁ、直接話を聞けば分かることか。
支部長室に入ると、ガイエンが椅子に腰を下ろしていた。
その傍にはリフィが立っており、何やら話をしているようだった。
ガイエンは、こちらを見て軽いため息を吐く。
「ようやく来たか。まぁ、いい。座れ。」
「ああ、昨日は悪かったな。どうにも行き違いがあったようだな。」
「行き違いか・・・まぁ、こちらにも不手際があったようだし、追及は止めておく。ただ、次はもう少し穏便に済ませてほしいものだな。」
「何について言っているのかは分からないが、善処しよう。それで?」
「うむ、もう特殊依頼を請ける資格はあるようだからな。一日でも早く、調査に向かってもらいたいと思っていてな。」
そうか、特殊依頼を請けさせるために呼んでいたのか。
それならばそうと、伝令を頼んだ奴に言い含めておけば良いものを。
朝にカインに伝えるようにしておけば、済んだ話だ。
こちらも神経を逆撫でられる事は無かったし、無駄な被害も出ることは無かっただろう。
まあ、その点についてはとぼけておいたが。
それに、目的地の村がどのような事になっているかは、気になるところだ。
死者が蘇るというが、自然の摂理に反する事が本当に起きるのだろうか?
自分の場合は、かなり特殊な案件になるだろうし。
ゾンビ映画のような光景になっていたとしたら、どうしようか?
その時は、火魔法で焼き払うなりなんなりの対処で構わないだろう。
ちゃんと成仏させてやるのが、せめてもの慈悲だろう。
「それに依頼をこなした量と質、共に十分にランクアップの資格は有していると判断した。クルスとカイン、二人ともCランクに上げる事にした。」
「これまた急な話だな。そういうのは、段階を踏んでいくものなんじゃないのか?」
「僕も、ランクアップですか?」
「はっきり言って、Eランクに据え置いておけるレベルではないだろう。もっと上のランクでもいいかもしれないが、あまり一気に上げては周りに示しがつかんのでな。特例とはいえ、このへんが妥当なところだろう。」
「まぁ、上げてくれるというのなら素直に受け入れておくか。」
突然、ランクアップすることになったか。
もしかしたら、特殊依頼を受けるにあたって、ある程度のランクを保持している必要性があったのかもしれないな。
下手をしなくても、素行不良に見られているだろうし。
「それで、俺たちはいつ頃出発すればいいんだ?それと、場所すらおぼつかない状態で向かっても、迷子になるだけだぞ。」
「叶うのなら、今すぐにでも出立してほしいくらいだ。移動だけで、それなりの時間を使う。場所についても心配はしなくてもいい。ちゃんと案内はつける。」
「それはどんな方なんですか?」
「なに、優秀な男だ。少々、融通の利かないところもあるかもしれんが。」
「足手まといでは困るな。」
「なに、この冒険者ギルドでも腕利きだ。得体のしれない所に調査に向かわせるんだ。さすがに、戦える人材をあてるさ。リフィ、呼んできてくれ。」
「わかりました。」
そう言ってリフィは部屋を出る。
はて?
そんな奴がこの冒険者ギルドにいるのだろうか?
昨日の伝令程度ならば、こっちから願い下げなところだ。
それとも、目的地の場所に詳しい同業者でも連れてくるのか?
もっとも、それならば俺たちに依頼など出さずに、そいつらに行かせればいいと思うのだが・・・
少し頭を働かせている間に、リフィが戻ってくる。
「支部長、お待たせしました。」
「ありがとう。さてクルス。彼がお前たちの道案内をするアルクだ。」
「アルクといいます。よろしくお願いします。」
その後ろには、見たことのある人物が立っていた。
そこには、前回冒険者ギルドに訪れた際に揉めた男、アルクがいた。
アルクは、言葉とは裏腹にこちらを睨み付けている。
俺が記憶に残っているのと同様に、向こうも俺のことはいい印象を持っていないだろう。
「お前か・・・」
先行きが不安になってきた。
モブではなく、ちゃんと絡んでくることになりました。勝手に部屋に進入してきた輩とは違うのよ。
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