騒々しい来訪者
宿でのんびりとしながら、カインと購入した商品を見ていると、ドンドンッとドアをノックする音が聞こえた。
今日はもう外に出る目的も無かったからこそ、のんびりとしていたというのに、いったい何なんだ。
だいたい、わざわざ宿まで押し掛けてくるような用件など無かったはずだ。
「どなたですか?」
と、カインが言いながら鍵を解きドアを開く。
そこには怒り顔の男が立っていた。
見覚えは・・・無いな。
縁もゆかりも無いような奴が、俺たちに何の用なのだろうか?
部屋を間違えたのなら、さっさとどこかへ行ってほしい。
その男の訪問を気にすることなく、購入した商品を見ていると、カインを押し退けるようにして、ズカズカと部屋の中に入ってくる。
こちらが許可を出したわけでもないのに、入り込んでくるのか。
非常に不快だ。
俺の雰囲気を察したのか、バルも警戒の色を出す。
トゥーンだけが、我関せずといった具合で横になっている。
やっぱり大物だよ、お前は。
その男は、俺の真横まで来る。
ベッドの上に武器を並べていたので、俺は床に腰を下ろしていた。
そのため、俺を見下ろす形になっていた。
どうやら、俺に用があるらしい。
いったいなんだと言うのだ。
「貴様がクルスか?」
「・・・。」
「貴様がクルスかと聞いているのだ、答えんか!」
「・・・。」
かなり高圧的な奴だな。
そんなに大声を出さなくても、聞こえている。
だからといって、反応してやる必要はないと思うがね。
全くもって、礼儀のなっていない奴だ。
その男の言葉を無視するような形になるように、むしろ意識しながら、変わらず武器を見ていた。
木刀の成りをした古代樹・・・めんどいな。
木刀で良いか。
その男は、木刀をちょうど持っていたその手を払いのける。
大して力を入れて持っていた訳じゃない。
木刀が手から飛ばされ、床に転がり落ちる。
なかなか、こちらを怒らせるのが上手いようだな。
見上げると、ニィッと笑いを浮かべていた。
「・・・。」
俺は無言のまま立ち上がる。
そして、俺とそいつの鼻と鼻が付き添うなほど顔を近付けて、相手の目を睨み付ける。
さすがにそんなことされるとは、思っていなかったのだろう。
すぐに目が泳ぎ出す。
「なんだ、その目は!ええいっ、近い!離れんか!」
そう言って俺を突き飛ばそうとする。
が、そいつの力では俺を突き飛ばすどころか、動かす事すら出来なかった。
どんな虚弱体質だ。
俺が動かないことが分かると、振り払うような動きをしながら、俺から離れようとする。
だが、その動きを制するように、俺は相手の胸ぐらを掴みあげる。
「何をする!離さんか!ええい、離せ!」
何とか俺から離れようともがくそいつを軽く突き飛ばす。
急に離されて、バランスの崩れていたそいつは、ものの見事にその場に倒れこむ。
倒れこみながらも、こちらを睨み付けるように見据えている。
「・・・拾え。」
「は?」
「拾え。」
怖い声音になるように、気を付けながら声をようやく出した。
その声音に驚いたのか、こちらを見る目に怯えが見えた気がした。
俺はそれを無視して、転がる木刀を指差した。
「何故、私が拾わねばならない!そもそも、貴様が人の話を聞かないのがいけないのではないか!」
「拾え。」
「断る!大体、何故こちらの話を聞かんのだ!私は支部長の命令でわざわざ来ているのだぞ!」
そうか、冒険者ギルドから来たのか。
そういえば、朝に伝令が来たとカインが言っていたな。
でも、だからなんだというのだ。
仮に支部長が偉いとしても、お前は偉いのか。
ただの威を借る狐と同様ではないか。
「そうか・・・なら、さっさとこの部屋から出てってくれ。あんたを、この部屋に迎え入れた覚えは無い。」
「なんだと!」
「あと一度だけ言う。今すぐ出ていけ。」
木刀を自分で拾うと、ベッドの上に放り投げる。
そして、今なお床に這いつくばっているそいつのそばにまで近付きしゃがむ。
そいつは歯を食い縛るようにしている。
なにをそんなに悔しがる事があるのだ。
辱しめを受けたとでも言うのだろうか?
まぁ、好きにしてくれたらいい。
変な事をのたまったところで、俺からしたらどうでもいい。
ハッキリと言ってしまえば、冒険者ギルドという施設に用があるのであって、そこで働く従業員なんぞに用はないのだ。
「ふざけるな!」
そいつは握りこぶしで床を叩く。
そして、バッと立ち上がるとドアの付近まで逃げるように駆ける。
「この事は支部長に連絡させてもらう!わかったか!」
こちらを指差しながら叫ぶ。
だから、好きにすればいいだろうに。
いい加減こちらも頭に来ていた。
なおも喚き続けようとするそいつに、一気に肉薄するほど近くに寄ると、思いっきり突飛ばす。
ドンッと、ぶっ飛んで部屋の外に飛んでいく。
やり過ぎたか?
ぶっ飛んだそいつは、壁にぶつかるとピクピクしている。
でも、見たところ息はあるな。
ならいいか。
そいつをそのまま捨て置いて、部屋に戻りドアを閉めた。
「大丈夫なんですか?」とカインが心配しているようだが、まぁ、大丈夫だろ。
ふぅ、やかましかった。
クルスが悪人のようになっていく・・・
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