装備品を求めて
部屋に戻ると、ベッドを椅子がわりにして、腰を下ろす。
頭の上からトゥーンが膝の上に降りてくる。
足の付近でバルがこちらを見上げている。
どうにも動物に好かれているようだが、何故だろうか?
前の世界で、これ程好かれるような事はなかった。
特に動物を飼うこともなかったし、何らかの接点になるようなものも無かった。
所持スキルの中に、動物に関連したものだって無い。
まったくもって不思議な事だ。
そんなことを考えながら、トゥーンとバルの頭を撫でる。
なんだか撫でていると、穏やかな気持ちになれる。
ま、そんなに心が荒む状態では無いんだけども。
しばしの間、彼らを構い倒して、時間の過ぎるのを待つ。
構う度に、テンションが上がりっぱなしの二匹だ。
そして、もっと構えと要求してくる。
元気なのはいいことだが、疲れ知らずなのも困りものだな。
こちらの身にもなってほしいものだ。
ようやく、カインが部屋に顔を出す。
こちらの様を、そして部屋の様子を見て呆れ顔だ。
ベッドの上が、ぐしゃぐしゃになってしまっていた。
流石に、カインが眠るベッドに変化がある訳じゃなかったが、それゆえに対比でより目立つ。
「なんだか、泥棒にでも入られたようになってますね。」
「そうだな・・・流石に散らかし過ぎだな。『お前たちは大人しくしていろ。少し片付ける。』」
『何だ?もう終わりか?ようやく楽しくなってきたのに。』
『カインに怒られてもいいなら、もう少し続けてもいいぞ。』
『それじゃ、止めとく!クルス、頑張れ!』
まだ構ってほしそうにしているバルを御して、トゥーンが大人しくしている事を選択した。
カインはそんなに恐いのか?
今朝もそんなことを思わせる一端を見た気がしたが、どうなんだろうな。
ある程度片付け終わると、ようやく外に出ることになった。
まずはどこに向かうとしようか?
この街に来て、今だちゃんとした店に訪れていない。
せいぜい食べ歩きをしたのと、冒険者ギルドに行ったくらいだ。
「それじゃ、まずはカインのナイフからだな。どこに向かえばいいだろう?」
「うーん。僕もまだ、この街の事をちゃんと知らないんですよね。」
「ま、歩いていればその内見つかるだろ。」
「そうですね。一軒ずつ見ていきましょうか。」
ゆっくりと街の中を見ていく。
どうやら武器を扱う店というのにも、種類があるようだ。
あくまでも商品を売るだけの店、店頭で受注してから製作に入るオーダーメイド専用の店、その合の子で鍛治を行う工房を併設する店の3タイプが主だ。
それ以外にも、雑貨屋の様なところで、多品目の中に埋もれながらも陳列している店もあった。
そんな中、それに当てはまらない販売方法をしている店を見つける。
いわゆる露店商というものだ。
それらが、街の裏通りには数多く見られた。
「カイン。あれは?」
「露店ですね。当たり外れが激しいらしいですし、あまり買い物慣れしていない僕達ではなまくらを掴まされる可能性が高いですよ。」
「でも、面白そうだな。」
「確かに興味は有りますね。色んなやり方の店があるんですね。」
「買う買わないは別にして、試しに覗いて行こうか。」
「いいですよ。運良く良いものが見つかるといいですね。」
俺たちは、裏通りに入っていく。
裏通りといっても、スラム化しているわけではなく、人々が穏やかに暮らしているらしい。
多少の貧富の差はあれど、飢え苦しむような生活をしているものは皆無なようだ。
立ち並ぶ露店を、端から覗いていく。
武器を扱っている店も数多くある。
冒険者の需要が、この街では多い。
必然的に、冒険者にとって必須である武器の供給も多くなる。
1つずつ見ていくその中で、とある露店商に声を掛けられる。
「やぁ、そこの兄さん。どうだい?うちの商品を見ていかないと損をするよ!って、うぉ、魔物?」
「そう言うなら見せてもらおうか。それとこいつは従魔だ。大人しいから、気にしないでくれ。」
「おぉ、わかった。でもいきなり見たら驚くよ。あーっとそれでだ、並ぶ商品はどれも一級品だ。聖霊の加護の籠った商品だってあるよ。」
一級品ばかりを扱う店が、こんな裏通りで商品を販売している訳は無いだろうが、これも1つの出会いというものだ。
それでも、一級品とはいかないまでも、それなりの物くらいあるかもしれない。
剣、短剣、斧、弓など様々な商品が並ぶ。
その並ぶ商品を見てみるが、価値なんて全くわからなかった。
カインもさっぱりのようだ。
店主にナイフを探していることを告げ、お勧めの商品を出してもらう。
「兄さん、これなんかどうだい?古龍の短刀っていう中々の業物だよ。」
そんなこと言われても、価値なんか分からない。
見た目には、ただの古ぼけたナイフだ。
素人目に見ても、切れ味も悪そうで価値も低そうに見える。
うーん、と唸りながら商品を見てる時に、ふと思い出す。
“神眼”を発動し、その勧められたナイフを見る。
名前 古龍の短刀
仰々しい名前のつけられたナイフ。切れ味は無いに等しい。
とんでもないもの売り付けようとしてきたな。
向こうから見たら、ただのカモに見えるかもしれないが、いくらなんでも、これは無いだろう。
並べられた商品もざっと見る。
どれも古めかしい。
どれもこれも大した価値の無いものばかりだ。
やはりハズレかと思ったが、端に追いやられていた商品の中にいくつか気になるものがあった。
「向こうに一纏めになってるのは?」
「あぁ、そりゃ大した価値の無いもんばかりだ。」
「そうなのか。それなら、あの辺の物を売って貰えるのか?」
「あぁ、構わんよ。むしろ、持ってってもらった方が、片付いていい。1つ銀貨10枚でいいぞ。」
投げ売りだな。
本当に価値が有るものか分からないから、露店商という状態に甘んじているんだろう。
だからと言って、価値を教えてやるつもりは無いが。
「ならこの辺のをざっと貰ってくよ。」
「毎度あり。にしても変わってるな、そんなもん欲しがるなんてよ。」
「なかなか自由に使える金が少なくてね。助かるよ。」
「まぁ、いいさ。あんまり言って買うの止められても困るからな。ほら、持ってってくれ。」
俺が指定した商品を、袋に詰めて渡してくれる。
代金を支払い、商品を受けとると、店を後にする。
「何かトントン話が進んじゃったんで、口を挟む事が出来なかったんですけど、良かったんですか。」
「勿論。相当な物が手に入ったと思って貰って構わないぞ。」
そうは言っても、なかなか信じられないだろうな。
まぁ、これは後で宿に戻ったときに、ゆっくりと確認すればいいだろう。
あまり、なっとく出来ていない顔のカインと、普通に店売りのナイフも購入することにした。
一緒にローブも買い直した時点で、それなりの時間が経っていたので宿に戻ることにした。
さて、ホクホク顔のカインを、後で驚かしてやろうじゃないか。
神眼は有用なスキルです。
あり得ないくらいに。
スキルの確認ばかりじゃないんですよね。
ブックマークや評価を頂けると、物凄くモチベーションが上がります。
また、様々な感想を頂けるとありがたいです。
今後ともお付きあいのほど、よろしくお願いします。




