お金の使い道
フラフラしながらも宿に戻り、部屋に入るとベッドに倒れこんだ。
徹夜明けの気だるさにも似た感じだ。
俺のベッドの枕元付近でトゥーンが、脇でバルが丸くなる。
魔物も寝るのだな。
ようやく横になれる。
安堵感が体を包み、先程の出来事による疲労と相まって、すぐに眠りに落ちてしまう。
翌朝というには、少し遅い時間に目が覚める。
昨日の倦怠感が無くなっていた。
調子は上々だ。
魔力というものは、睡眠をとることで回復するのか。
いったい俺自身に、どの程度の魔力があるのだろうか?
能力値のようなものが見えない以上、どれだけ考えたところで推測の域は出ないのだが。
昼夜を問わず活動するのは、避けた方が懸命だな。
体を起し、伸びをするとベッドから降りる。
周りを見渡してみるが、誰もいない。
カインはもちろん、トゥーンやバルの姿がなかった。
いったいどこに行ったんだ?
カインとトゥーンはともかく、バルは従魔ということで街の中にいるのだ。
下手なところに行っていなければいいのだが。
部屋を出て、食堂に向かう。
結局、疲れすぎてしまって、夜何も食べなかった。
少し遅い時間だとて、食事くらいできるだろう。
まず目に飛び込んできたのは、テーブルの上でくつろぐトゥーンの姿だ。
腹を見せて、のんびりと眠っているように見える。
そんなところで寝るなら、部屋で寝てればいいと思うのだが。
テーブルのひんやりした感じがいいのだろうか?
トゥーンを見ていたら、背中にズシリと何かが乗っかかってくる。
前につんのめりながらも、踏ん張って転ぶことは無かった。
油断していたな。
まだ、寝ぼけてるのかもな。
俺の耳元で、息づかいが聞こえるので、そちらに手を伸ばす。
頭に触れようかと思ったのだが、触る前に舐められてしまう。
「おい、バル。ちょっと下りろ。背中が熱いじゃないか。」
「仕方ないですよ、クルスさんが起きてくるのを、今か今かと待ち構えてましたから。」
バルに声をかけながら、何とか背中から下ろそうとしていると、別の方向から声が掛かる。
「おはよう、カイン。」
「おはようございます、クルスさん。トゥーンくんも、バルくんももっと早い時間に起きてましたからね。」
「そうなのか。」
「ええ。クルスさんは疲れているみたいだったので、そのまま寝ていてもらってました。二人には、その間にご飯食べさしておきましたよ。」
「それは悪いな。ところでその姿は?」
カインはエプロンをつけていた。
右手にトレイを持ち、見た目にはウェイターそのものだ。
いや、それは言い過ぎか。
どちらかといえば、家の手伝いをする子供といったところか。
「いえ、お世話になってますから、少しくらい手伝えることはないかなと思って。」
「それは、ご苦労なことだな。別に宿代は払っているんだから、そんなこと気にしなくてもいいだろうに。」
「キサラさんにも言われました。でも、そうはいっても親戚ですからね。少しくらい手伝いをしてもいいかなって。」
「まぁ、それでいいならいいんじゃないか?やりたいようにやればいいさ。」
ようやくバルを下ろし、トゥーンが眠るテーブルにある席に腰を下ろす。
さすがに他の席に座るのは、はばかられた。
バルは、こちらの動きが気になるのか、俺の一挙手一投足を見続けている。
そんなに見られても何も出ないぞ。
椅子を動かした際に、テーブルに触れて揺れた。
その揺れに反応して、トゥーンが顔を上げてキョロキョロしている。
その視線が、俺の顔を捉えたところで止まる。
『よう!起きたか!』
『その言葉、そっくりそのまま返すよ。』
『ん?そうか?』
体を起こしたトゥーンは、トコトコ歩いてくると所定の位置である俺の頭の上に乗る。
いや、これから食事をしようと考えているんだが、乗られると邪魔だな。
機嫌の良さそうなトゥーンを掴み、頭から下ろすとバルの上に置く。
始めは首をかしげていたが、これはこれでいいとばかりに、バルの上に張りついている。
トゥーンを乗せられても、バルは気にしていないようだ。
「それじゃウェイター、何か食べたいんだが用意してもらえるか?」
「わかりました。ちょっと待っててください。といっても朝食の残りになっちゃいますよ。」
「別にそれで構わない。贅沢言うつもりはないよ。」
「じゃ、すぐ用意します。」
そう言って、カインが店の裏に引っ込むと、あらかじめ用意してあったのか、すぐに持ってきてくれる。
やることにそつがないな。
用意してもらった朝食に手をつける。
野菜が中心のメニューとなっており、あっさり目な味付けが寝起きにはありがたく思えた。
「そういえば、朝に冒険者ギルドの方から伝令の方が来てましたよ。」
「ふーん。それで、何だって?」
「今すぐギルドに来るようにって、言ってましたね。クルスさんがまだ寝てることを伝えると、今すぐ起こせっ!て言ってきてましたね。」
「それは穏やかじゃないな。」
「ええ。なんで丁重にお帰りいただきました。」
一瞬、カインの後ろに黒いものが見えたような気がした。
いや、見間違いだろう。
そう思っておこう。
「どうせ、昨日の話の続きだろ?今日は1日休みのつもりだったし、あんまり行きたいとは思わないな。」
「いいんですか?」
「昨日、最後までちゃんと話聞かなかったのは向こうだしな。まぁ、いいだろ。」
「まぁ、それならそれでもいいんですけどね。」
話の途中から呆けていたのは向こうだ。
宿に戻ろうとしていた時も、引き留められる事はなかった。
であるならば、この話はひとまず終わりと見てしまったって構わないだろう。
それでも、続きを話したいと言うのなら、明日だって構わないだろう。
第一、向こうから出された条件はクリアしてしまっているのだ。
のんびりとしていたって、罰は当たるまい。
「じゃ、そういうことで。あ、午後は時間作れるか?」
「大丈夫だと思いますよ。何かするんですか?」
「昨日、かなり儲かったみたいだしな。武器を扱っている店にでも見に行こう。カインの武器を新調しないとな。ついでに俺のボロになってきてるローブも見たいな。」
自分のために金を使うとなると、おそらく遠慮するだろう事を予想して、自分の為でもあることを告げておく。
子供というには年かさがあるが、それでも年下のまだ少年なのだ。
それほど気にしないでくれたら、それでいい。
「わかりました。お昼どきは忙しいみたいなんで、その後でもいいですか?」
「ああ、構わない。それじゃ、俺はこれを食べたら部屋でのんびりとしているよ。」
こうして、のんびりと食事をとり、トゥーンとバルを伴って部屋に戻ることにした。
バルが仲間になってからの初めてのノンビリ回でした。
モフモフに触れようとすると、手がびちゃびちゃになる仕様です。
哀れ、ガイエン・・・
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