魔物に名前をつけるということ
バトルウルフにバルという名前をつけた。
それに反応したのだろうか?
指に嵌めたリングが熱を帯びる。
いったいなんだ?
バルも熱いようで、前足でリングを外そうと首すじを引っ掻いている。
ズッ、と何か体から抜け出たような感覚が、体を襲う。
酷く体がダルくなり、頭が痛い。
目の前がグルグル回っている。
思わず、テーブルに手をついてしまう。
『おい!大丈夫か!』
「クルスさん!」
トゥーンとカインが心配の声を上げる。
結構、大丈夫じゃないかな・・・
対して、バルは逆に元気が倍増したかのようになっている。
ブンブン尻尾を振る様子が、中々に愛らしく見えてくるのは飼い主になったからなのだろうか。
頭を振り、目頭を指で押す。
驚くくらい疲れている。
チラッとガイエンを見ると、口角を上げてこちらを見ていた。
「・・・何が可笑しいんだ?」
「ん?誤解させたか?上手いこと、そのリングが力を示したようだったから、ついな。」
「・・・どういうことだ?」
声を出すのもやっとのくらい、疲れが襲ってきている。
明らかにおかしい。
このリングには、どんな力があるというのだ。
まさか、嵌められたのか?
「魔物に名前をつけるということは、そういうことだ。」
「・・・意味が分からんな。何で名前をつけただけでこうなる?」
「ふむ、知らんか。名前をつけるということは、その対象と契約を結ぶということだ。その時の代償として、自分の魔力を使用する。また、その媒介に今着けているリングが力を発揮する。」
「それで、こんなに虚脱感が支配してるのか。」
「そして、使用された魔力はその対象に注がれる。だからそいつはそんなに元気になってい、る?」
そう言って、ガイエンはバルを指差す。
言葉尻が、変な感じになったがどうしたのだろうか?
バルは、とても嬉しそうにしている。
気づけば、俺の手が舐められて、びちゃびちゃになってしまっているのがその証拠だろう。
その手を、バルの体に擦りつけるようにしながら撫で回す。
それでも嬉しいのか、されるがままだ。
その様子を見ていたトゥーンが膝に降りてくる。
『俺様も構え!』
なんともどストレートな事を言ってくるので、トゥーンの顎の辺りを撫でてやる。
予期せずモフモフ祭りが繰り広げられているのを、驚いた目でガイエンが見ている。
別に、俺に懐いている獣と魔物を撫でているだけだ。
何をそんなに驚くことがあるのか。
そこでふと気付く。
何か、バルの体が大きくなってないか?
振り返りカインを見ると、視線をバルに固定したまま、首をかしげている。
何事が起きたのか思案しているようだ。
やはり、おかしい。
こっそり“神眼”を発動させて、バルを見る。
名前 バル
種族 ウォーウルフ
スキル
切り裂き(LV.5)
体力増大(LV.4)、敏捷増大(LV.5)
腕力増大(LV.3)、魔力増大(LV.2)
火魔法(LV.2)、土魔法(LV.1)
統率(LV.4)、連携(LV.4)
威圧(LV.3)、気配遮断(LV.2)
種族変わってんじゃねーか!
俺の魔力が注入されたせいなのか、魔法を覚えているし“魔力増大”のスキルまで獲得してやがる。
全体的にスキルレベルも上がっているし。
そりゃ、ガイエンも言葉に詰まるし、カインも首をかしげるわけだ。
「どうなってる?」
「いや、俺もこんなケース聞いたことがない。クルス、お前どれだけの魔力を秘めているんだ?」
「んなもん知るかよ。」
やはり、ガイエンも初めての体験だったようだ。
これは、恐らく進化したということだよな?
どこぞのゲームでもあるまいに。
まぁ、いいか。
考えても分からないものは分からない。
これまでの常識だけでは通用しない世界なのだ。
そういうものだと思うしか無いのだろう。
「ところでカイン。最初に請け負った依頼以外にどれだけの依頼を完了できた?」
「えーっと、それがですね。Bランク相当の依頼までこなしていたらしくて・・・」
「おう、それでどうだったんだ?」
「合計で27個クリアしていたらしいです。」
「は?」
「なにっ!本当か!」
今日だけで、特殊依頼を請けるために出されていた条件を、軽々とクリアしていたらしい。
まさか、ダブルスコア以上になるとはな。
それににても、数行き過ぎだろ?
そこまでになるとは思っていなかった。
ほら、ガイエンがまた驚いている。
「素材の売却益はどのくらい?」
「ハイウルフの素材は元々それほど高いものでは無いようですけど、ビックスパイダーが凄い高かったですよ。」
「そうなのか?」
「綺麗に解体していたお陰ですね。依頼の報酬と合わせて、金貨7枚くらいいきましたよ!」
とんでもないことが起きている気がした。
ちょっと森に入っただけで、これ程儲かるのか。
もう、特殊依頼請けなくてもいいんじゃない?
そんな気配を察知したのか、膝をペシペシとトゥーンが叩いてくる。
そうだったな。
特殊依頼を請けるのは、トゥーンを冒険者として扱って貰うためだったな。
忘れていたわけじゃないが、少し魔が差してしまったな。
色々な事が起きて、固まっているガイエンを置いて宿に戻ることにした。
バトルウルフがもういなくなりました(笑)
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