夜の森
ようやくの思いで、蜘蛛の解体を終わらせる。
やはり、巨大な蜘蛛というのは精神的にくるものがあった。
戦闘中ならば必死になるので、それほど気にしないで済むのだが。
何せ、生きたままの個体も混じっており、脚を全て切られているため、まな板の鯉のような状態になっていた。
それがシューシュー言っているのだ。
精神的にこないものなどいないだろう。
しかし、トゥーンが頑張った結果な訳だし、後ろで自信満々に胸を張っているような素振りをしているのを見ると、その辺にうっちゃって置くという選択肢は無いだろう。
俺が頼んだということもあるしな。
解体が終わると、手に持ったナイフをカインに渡す。
「なんです?」
「それは、カインが持っていろ。」
「そんなの駄目ですよ!」
「俺は、蹴り飛ばした方が早い。それに言ったろ、魔法があるって。一番必要な奴が使った方がいい。」
「ですが・・・」
「言っちゃ悪いが、今使ってるナイフを何時から使ってるか知らんが、切れ味が大分落ちてるだろ?俺のナイフの切れ味に驚いているくらいなら、尚更だ。なに、これ以上の物が見つかったらその時にでも返してくれればいい。解体するにはナイフが無いと不便だからな。」
「・・・分かりました。ありがたく使わせてもらいます。」
解体を終えた蜘蛛の素材を、カインに魔法の袋にしまってもらうように頼むと、何の抵抗も無く次々に袋にしまっていく。
あの中に、非常用の食料なんかもしまっていたはずなんだが、どういう風に仕舞われているのだろうか?
横に並んで仕舞われているとかだったら、ドン引きだ。
中の様子を確認できない事が、幸いとなることもあるのだな。
『さて、それじゃあ行くか。』
『ええ、行きましょう。いい加減疲れましたね。』
『まだ、俺様は行けるぞ!』
『じゃあ、トゥーンは夕飯抜きでも大丈夫そうだな。』
「アハハハハ・・・『それは、いいですね。』」
『なっ!自分達だけズルいぞ!』
『分かってる分かってる。さ、行くぞ。』
今なお元気いっぱいのトゥーンをからかいながら、再び移動を開始する。
今はカインに先頭を任せている。
俺も、皆も、また道に迷うのはこりごりだからだ。
しかし、こんな何も目印になるような物が無い、仮にあっても埋もれてしまいそうな森の中で、よく道を覚えていられるものだ。
防人の一族は伊達じゃないということだろう。
スキルでは得ることの出来ない強みだ。
着実に歩みを進めていく。
夜も更けてきたというのに、その移動スピードは変わらない。
街に辿り着く前に移動した森の中では、夜は野宿をして朝を待った。
安全そうな場所を日が落ちきる前に探し、寝床を確保したのだ。
森に住まう魔物達の多くは、夜の方が活発な動きをする。
夜のサバイバルから漏れた魔物達が、昼間によく目撃される。
ウェアラットも、ハイウルフも、ラビットホーンもこれに該当する。
ギルドでのランクの低い討伐依頼の多くは、この昼間に出現するタイプばかりだ。
それらは強い魔物の縄張りを避けるように、森の外周に出てきている。
勿論、その限りでは無いだろうが。
とはいえ、だからこそ、常時依頼として常にボードに貼られていることになるのだろう。
そんなことを考えながら、襲ってきたハイウルフを蹴り飛ばす。
もう馴れたものだ。
少し歩くごとに、魔物が襲ってくる状況に、少しうんざりする。
あれだけ張った押し続けて、この辺の魔物を倒し尽くしたと思ったのだが。
そもそも、こいつら昼夜関係なく襲ってくるんだが?
若干強く感じるが大したことはない。
もしかして、夜型のタイプか?
そう思い“神眼”にて、能力を覗きこむ。
別に昼間に出てきたのと大差ないな。
だが、一匹だけどうも毛色の違うのが混じっているようだな。
種族 バトルウルフ
スキル
切り裂き(LV.4)
体力増大(LV.3)、敏捷増大(LV.4)
腕力増大(LV.2)
統率(LV.3)、連携(LV.4)
威圧(LV.2)、気配遮断(LV.2)
周りのハイウルフとは、比べ物にならないスキル構成になっていた。
かなり強い魔物と言っていいだろう。
それに、自分に無いスキルを持っている。
“威圧”して“統率”するとか、恐怖政治でもしいてるかのようだな。
カインとトゥーンに、手を出さないように頼み、了承を得る。
さて、それじゃあやるか。
俺が接近しようとすると、小さく吠えて他のハイウルフが襲いかかってくる。
それらを、殴り飛ばし、蹴り飛ばし、火魔法を発動させて吹き飛ばす。
昼間に相当な数を狩っていた。
証明部位を採れるならとるが、今はそれほどこだわらない。
襲いかかるハイウルフ達に怯むことなく、蹴散らして近付く俺に対して覚悟を決めたのか、歯を剥き出しにして威嚇してくる。
恐らく“威圧”のスキルを発動しているのだろう。
だが、無駄だよ。
スキルから大体の力は予測できてる。
今の自分に対して、格下と思えてしまう魔物に怯えなど無い。
バトルウルフに肉薄する。
俺が脚を振り上げ、顎の辺りをかちあげようとするが、躱される。
どころか、その振り上げた脚に噛み付こうと、口を大きく開き飛びかかってくる。
それに対して、振り上げた脚を次ぎは振り落とす。
始めの軌道と違う軌道で降ろした脚が、飛びかかってきたバトルウルフの頭の右側にヒットする。
「ギャイン!」
と、鳴きながら地面に叩きつけられる。
よろけながらも体を起こし、こちらに強い視線をぶつけてくる。
魔物に意思などがあるかは知らないが、こいつからは強い意思を感じた。
一歩も退かないという強い意思が。
それならそれで構わない。
こちらは、魔物の討伐に来ているのだ。
ここで逃げられでもすれば、ただの骨折り損だ。
ゆっくりと近付いていく。
先程、脚を振り落とした時に獲得した“威圧”を発動させながら。
恐慌状態にでもなってくれれば、楽に叩き潰せるだろうと思い発動させたのだが、思わぬ効果を示すことになった。
耳を伏せ、体を地面に張り付けるが如く這いつくばったのだ。
これには、さすがに驚いた。
ついさっきまでの、退かない意思はどこにぶっ飛んでいったのだ。
『クルスさん、周りのハイウルフが逃げていきます。』
『スゲーな、なんかこえー!』
どうやら、今の“威圧”でハイウルフ達が逃げ出したようだ。
俺、今そんなに怖いのか?
“威圧”を解くと、その場に一匹残された格好になったバトルウルフに近付く。
バトルウルフは、その場を動くことなくこちらを見ている。
すでに敵意の無い目で、だ。
その目を見て、身構えることを止める。
『どうしたんだ?倒さないのか?』
『反攻してこないのに、攻撃加える気にならないな。』
『それじゃ、どうするんだ?』
『ほっといて帰るか。』
『なっ!本当にいいんですか!』
『まぁ、いいんじゃないか?』
そうして、バトルウルフをその場に残し街への帰路につくことにした。
それからも、ちょこちょこ魔物は出てくるものの、大したのは出てこなかった。
その中にウェアラットがいたのは、行幸であるといえる。
ようやく、目的を達成できた。
それはいいのだが、帰路を歩く間中、後ろを先程のバトルウルフがついてくるのだ。
振り返る度にその場に留まり、また歩き出すとついてくる。
これではまるで懐かれたようではないか。
そもそも魔物は人に懐くものなのか?
街に大分近付いても、今だついてきている。
このままでは、誰かに見つかり討伐されるのは目に見えている。
仕方ないとばかりに、バトルウルフの元へと引き返す。
やはり、こちらが近付いてもその場に留まり続けていた。
俺は、無防備にバトルウルフの前にしゃがみ、頭に触れるべく手を伸ばす。
『危険です!』
『多分、大丈夫だ。』
心配するカインの言葉に答えながら、頭に触れる。
撫でくり回すと、満更でもないようだ。
これは、完全に懐かれたな。
バトルウルフは俺に乗っかかってくる。
カインが身構えたようだが制止する。
案の定、顔を舐めてきた。
これでは、元いた世界の犬と同じだな。
「はぁ、『ここまで懐かれたらほっとけないか。連れて帰るぞ。』」
『本気ですか!』
『まぁ、仕方ないだろ。』
『俺様は構わないぞ!子分1号だな!』
『街に入れるのかな?』
カインの心配をよそに、街へ戻るのだった。
どうしても動物出したくなってしまったので、予定に無かったバトルウルフの登場です。
くっ、友人の家の飼い犬とじゃれたせいだ。
でもリスと犬(狼)のほのぼのシーンが書ける!
そのため、名前も今だ決まってません。
何かいい名前考えてやらないとなぁ。
まぁ、ポチでもいいんですけど・・・
何か無いですかねぇ?
名前 クルス・カミヤ
性別 男
年齢 18
スキル
神眼、複写
体力増大(LV.5)、敏捷増大(LV.4)
腕力増大(LV.7)、魔力増大(LV.5)
精神力増大(LV.6)、命中補正(LV.4)
蹴撃熟練(LV.3)、短剣熟練(LV.4)
槍熟練(LV.1)
打撃(LV.5)、切り裂き(LV.2)
火魔法(LV.5)、水魔法(LV.2)
風魔法(LV.3)、土魔法(LV.4)
神聖魔法(LV.1)
強奪(LV.1)、気配遮断(LV.3)
隠蔽(LV.3)、加速(LV.4)
連携(LV.2)、幻惑(LV.1)
威圧(LV.1)
自然治癒増大(LV.5)、状態異常回避(LV.4)
成長促進、意志疎通
解体、調理(LV.1)
名前 トゥーン
種族 ハンタースクイレル
スキル
勇者
体力増大(LV.MAX)、敏捷増大(LV.MAX)
腕力増大(LV.MAX)、魔力増大(LV.MAX)
精神力増大(LV.2)、
切り裂き(LV.6)
風魔法(LV.MAX)、神聖魔法(LV.MAX)
状態異常回避(LV.MAX)
意思疎通、成長促進
気配察知
名前 カイン
種族 人
性別 男
スキル
腕力増大(LV.3)、敏捷増大(LV.4)
命中補正(LV.3)
短剣熟練(LV.3)、弓熟練(LV.3)
気配遮断(LV.1)、意思疎通
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今後ともお付きあいのほど、よろしくお願いします。