森からの帰還
森をうろつき続けて、どのくらいたったのだろうか?
いっこうにウェアラットと出会う事がなかった。
何せ出会う魔物はハイウルフばかりなのだ。
たまに出くわすのは、ラビットホーンくらいのものだ。
明らかにおかしいだろ。
遭遇率の高いんじゃねえのかよ。
もしかして、今丁度探している場所では、出ないのか?
例えば、ハイウルフの巣のような物が密集しているとか。
『なぁ、クルスー。もうそろそろ腹へったぞ!』
『確かにそろそろいい時間になってきましたね。そろそろ、街に戻ってもいいくらいじゃないですか?』
『・・・そうだな。ここまで出くわさないとは思いもしなかったが、仕方ないな。』
『明日に期待するしか無いですね。』
カインのいう通り、明日に期待するしか無いだろう。
幸い、受注していた依頼の期限は存在していない。
常時依頼ということと相まってなのか、あえて期限を設けていないように思える。
まず、Eクラス相当の依頼を一つはこなすように言われていた。
薬草を大量に獲得することには成功していた。
ひとまず、採集依頼でその条件はクリアして、自分のクラス以上の依頼を事後報告という形で納めればいいか。
『そうしたら、街に戻ろうか。』
『おう!早く戻ろうぜ!』
『あー、疲れましたね。僕も早く帰りたいですよ。』
『ん?俺様はまだ元気いっぱいだぞ!』
トゥーンの意見にカインが追従する。
俺もその意見に一票だ。
あくまでカインよりの意見だがな。
振り返り、今来た道を引き返していく。
だが、歩けど歩けど街の明かりが見えてこない。
普通に引き返したはずだろ?
気づけば辺りは真っ暗闇の中になっていた。
全然遠くが見通せない。
『もしかして・・・クルスさん、迷いました?』
『おかしいな。来た道を戻っているだけのはずなんだが・・・』
『いえ、ここは来ていないですよ。もう少し前のとこで違う方向に進んでるなぁ、とは思ってましたけど。』
『なんだ?迷ったのか?』
『何でこんなとこに来る前に言わない?』
『え?自信満々に歩いていたので、何か近道でもあるのかと思ったんで。』
『俺様のご飯はどうなるんだー!』
なんだと?
違う道?
森は迷いやすいものなんだな。
まぁ、迷ってしまったのなら仕方ないだろ?
迷ったのは俺のせいじゃなくて、森のせいだきっと。
そんな考えが読まれたのか、ジト目でカインがこちらを見てくる。
『これは、夕食の時間には、間に合いそうもないですね。』
『何ー!クルス!なんとかしろよー!』
『何とか出来るもんなら、もうしてる!』
俺としたことが、なんたる失態か。
用心していたつもりではいたんだけどな。
『そうしたら、どうする?』
『はぁ。僕が道を覚えてますから、先導します。』
カインを先頭にして、再び歩き始めようとしたその矢先、何かの気配を感じたトゥーンが鳴く。
『クルス、変なのがこっち見てるぞ。』
『何?こんな暗いのにか?』
『クルスさん、魔物の中には夜目が利くものも数多くいます。真っ暗の中が得意な奴が、森には沢山います。』
『それじゃ、こっちを見てる奴はその夜が得意な奴で間違いないな。』
しばらくすると、カサカサという足音が周囲のから聞こえてくる。
一方向からじゃないのか。
どうやら囲まれているようだな。
俺はカインと背中合わせになり、周囲を見渡す。
今だ姿は見えない。
「シャーーーーー。」
という鳴き声が聞こえると、同時に何かが顔目掛けて飛んでくる。
とっさに腕で、それから顔をかばう。
それは、ロープのように太く、白く、しかも粘着性があった。
『ちっ、蜘蛛か・・・』
『クルスさん、その腕!』
『大丈夫か!クルス!』
『あぁ、問題無い。どうやら何とかスパイダーの巣にでも踏み込んだか。カイン、トゥーン、俺に気にせずに動け。その方が勝率が上がるだろうよ。』
『分かりました。でも気を付けてくださいよ。』
『おう!俺様に任せとけ!』
糸を吐いてきたであろうでかい蜘蛛が、姿をようやく現す。
先制攻撃を成功して出てきたということか。
そいつが顔を現すと、周囲に居たであろう他の蜘蛛達も顔を出す。
これだけいると、中々壮観だな・・・
いや、やっぱ気持ち悪いわ。
そう考えながらも“神眼”を発動、相手の能力を確認する。
種族 ビックスパイダー
スキル
体力増大(LV.1)、敏捷増大(LV.2)
連携(LV.2)
大したスキルは持ち合わせていないようだな。
それなら、何の遠慮もいらないだろう。
その蜘蛛たちは、一斉にこちらに向かって糸を吐いてくる。
カインとトゥーンは問題なく躱せたようだ。
蜘蛛なんだから、口からじゃなくて尻から糸出せや!
そんな心の叫びが通じる訳もなく、俺は身体中を糸で絡め取られてしまう。
まぁ、問題はない。
腕に絡まったロープのような糸を掴むと、
「燃え散れ。」
火魔法を発動させ、掴んだ糸に火をつける。
火は一気に糸を駆けていき、本体の口に火が着くと、そのまま本体ごと燃やし始める。
他にも身体に絡み付いた糸にも同様にして、火を着けて燃え散らしていく。
たまにしか魔法を使わない割には、なかなかの威力になってきたな。
『クルス!こいつはどこ残しとけばいいんだ!』
『そいつの証明部位は確か牙だ。牙ならそう簡単に壊れやしないだろ。後で上手いこと解体するから、好きにやれ。』
『よーし、やるぞー!』
トゥーンは飛び跳ねるように、相手を翻弄しながら接近して蜘蛛の脚を一本ずつ切り飛ばしていく。
どうにもそれが楽しいらしく、どの蜘蛛にも同じように脚を飛ばし続けていた。
中々にエグいやり口だな。
田舎の小学生男子の残虐な遊びを彷彿とさせる。
一方、カインは少し苦戦しているようだ。
短剣を構えて対抗しているようだが、どうにも外皮が硬いようだ。
ナイフが通らないようだ。
俺は、カインの援護に回る事にした。
カインの背後から忍び寄る蜘蛛を、思いきり蹴り飛ばす。
これは確かに硬いわ。
そして、カインに俺の腰に提げていたナイフを渡そうとする。
「カイン、これを使え。」
「何言ってるんですか!それでは、クルスさん、丸腰になってしまいますよ。」
「何言ってやがる。俺はこれがあれば十分だ。」
握りこぶしを見せて笑う。
「ですが!」
「思い入れのあるナイフかもしれんが、壊れちまったらもう戦えなくなるだろ。それじゃ、俺も困るんでな。年上の意見は聞くもんだ。それにいざとなれば俺には魔法もあるしな。」
そう言って、ナイフを押し付けるようにして手渡す。
恐らく集落にいるときから使っていたのだろう。
手に馴染んでいるのだろうが、壊れてしまえば戦うことなど出来なくなる。
ただでさえ囲まれているのだ。
遠距離から矢を放つなんて叶わないだろう。
幸い、俺の所持するナイフはミスリル製。
それならば、この程度の相手簡単に切り裂いていけるだろう。
「・・・ありがとうございます!」
そう言って、目の前の蜘蛛に俺の渡したナイフを突き立てる。
硬い外皮をあっさりと切り裂く。
その切れ味に驚いているようだ。
「まだだ、終わってない!呆けてるな!」
ナイフの突き立てられた蜘蛛の頭を、思いっきり踏みつけると、グシャッという音を鳴らし潰れる。
靴が蜘蛛の体液でベシャベシャだ。
「すっ、すみません。」
「礼は後でいい。トゥーンだけにいいとこ取らせるなよ!」
「はいっ!」
その後、程なく蜘蛛を撃退することに成功する。
それぞれ対応の結果が、そこらじゅうに転がっている。
相当な数だ。
げんなりする気持ちを奮い立たせ、証明部位である牙を回収していく。
トゥーンの倒した蜘蛛たちは、綺麗な姿をしていた。
どの蜘蛛も、綺麗に脚だけを飛ばされたようだ。
中にはまだ、息があるものもいるようだ。
これを解体するのか・・・
奮い立たせた気持ちが、沈静化しそうになるな。
そろそろカインのスキルに何らかのテコ入れをしなければ、クルス達に着いていけなくなりそう。
むしろそのままの方がいいのかな?
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