初依頼
一階のロビーに戻ると、依頼の貼られたボードの前に立つ。
どの依頼を受けようか。
遠方へと向かう物や、採集系の依頼は除外するとして、この街近郊でこなすことの出来る依頼となると、限られてくるだろう。
また、初めて受けることもあり、Eクラスの物しか受けることが出来ない。
適当に見繕うと、周りの冒険者達の真似をして依頼の書かれた紙を剥がし、依頼の受注を受けるためのカウンターに並ぶ。
人の列が長々としている。
これだけの人が依頼をこなしているのに、仕事が尽きないと言うのもすごい話だ。
列に並んでいる間に、たまたま前にいた冒険者に軽くぶつかり、スキルをコピーすることは忘れない。
ぶつかった相手には睨まれてしまった。
蹴撃熟練(LV.1)・・・蹴りの扱いが上手くなる
近接戦が中心となる戦い方が現在の主となっている。
となれば、敵を蹴りつける事も多々あるわけで、利用価値は高い。
しばらく並んでいると、やがて自分の番になる。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件ですか?」
受付嬢が慇懃に対応してくれる。
作業マニュアルのようなものがあるのだろうか?
丁寧な物言いだ。
彼女の前のカウンターに、先程剥がしてきた紙を置く。
「初めての依頼が討伐依頼ですか?」
「ちょっと支部長に頼まれてしまってね。そうは言っても依頼の受けたかもちゃんとは知らないんだ。周りの人達の真似をして剥がしてきたんだが。」
「いえ、誤りではないですよ。受注したい依頼があった場合は、剥がして持ってきて頂いて問題ありません。依頼の二重受けも防止出来ますしね。」
「そうなのか。それで、次にどうしたらいい?」
「それでは、登録証を出して頂けますか?」
言われるままに、登録証を差し出す。
受付嬢は、カードを受け取るとカウンターに据えられていた小さな装置にカードを差しこみ、何やら操作している。
いったい何をしているのか、どのような装置なのかは気になるが、静観して待つ。
「後ろにいる方も同じ依頼を?」
「あぁ、そのつもりだ。」
「それでしたら、パーティー申請をお勧めします。」
「その申請をするメリットはなんだ?」
「申請を行っておくことで、代表者が依頼を受けるだけで、パーティー参加者の手続きを短縮させることが出来ます。勿論、依頼を受けるその都度、どなたが依頼を受けるのか確認をしますので、パーティーメンバーが参加しない場合は、その時におっしゃっていただければ問題ありません。」
なかなか考えてるな。
依頼の受注にかかる時間の短縮と負担の軽減に繋がるな。
その都度確認することにより、依頼に参加していないのに不正に報酬を得ることもない。
ただ、それでもこれだけの人間が並んでいるのだ。
冒険者という職に就く人間の多いことがより分かる。
「それなら、僕はパーティー参加者として登録してください。いいですか、クルスさん?」
「まぁ、その方が受注の面倒が減るならいいんじゃないのか?」
「では、お願いします。」
「それでは、登録証の提示をお願いします。」
カインが出したカードを俺のカードが入ったままの機械に差しこみ、再び何か操作をしている。
指差して何かを確認すると、カードを引抜き俺とカインに返してくる。
更に、手渡した依頼の書かれた紙にスタンプを押して、それも返してくる。
「これでパーティー申請は完了しました。依頼の受注も完了しています。お渡しした依頼表には受注完了の為の討伐数や条件が記載されてますから、それを参考ににして依頼の完遂をお願いします。」
「そうか、ありがとう。それと、ひとつ確認なんだが、事後報告という形で、依頼をこなす事は可能なのか?」
「そうですね。依頼内容に合致する場合は認められていますね。偶発的に魔物と遭遇することもありますから。」
そういうことならば、出会った魔物を片っ端から潰していけば、依頼を受けていなかったとしても、申請が出来るのか。
今の俺たちに取っては、それほど苦労をしそうな物は無かったはずだ。
対人戦と違い、気を張る必要もない。
討伐条件を確認してから、行けばいいか。
「ありがとう、勉強になった。」
「また疑問に思うことがありましたら何時でも質問してください。それでは、お気をつけて。」
最後まで丁寧な対応で、気分が良かった。
先程のアルクとかいう奴と比べたら、月とスッポンだ。
礼を言って、カウンターを離れる。
そして、ボードで討伐条件を確認したら、街の外を目指す。
この街に到着した際にくぐった門に来ると、門番に話して通行証を返して、外に出る。
その際、翌日の夜までに街に戻ってくるのならば、通行料無く、街に入ることが出来ると知ってひと安心だ。
確かに、毎回毎回取るような事をしていれば、冒険者など寄り付かないだろうし、手続きも面倒だ。
この措置も至極当然の事だろう。
街の外に出ると、街を囲む壁沿いに歩いて行く。
早々に街道を外れたこともあってか、周囲の風景ががらりと様変わりする。
草原が広がり、森が近くなる。
丈の高い草が密集する草むらが所々にあり、時折ガサガサと音をたてる。
遠方に小屋が見えるが人が住んでいるようには見えなかった所を見ると、休憩小屋のようなものだろうか?
これだけ木が豊富に存在するのだ。
丸太がいくつか転がっているところを見ると、製材を行うところかもしれない。
『さて、どうやって依頼を達成するかだ。魔物がその辺にうろついている訳じゃ無いんだな。』
『街の通行門から近い場所ですし、定期的に討伐されているんでしょう。』
『でも、森の方から、沢山の視線がこっち向いてるぞ!』
『それなら、こんなとこで待ってても仕方ない。森に分け入って行って、さっさと依頼をこなしてしまおうか。』
相変わらず勘のいいことだ。
そんな、生きた魔物探知機の勘を信じて森へと向かうことにした。
ブックマークや評価を頂けると、物凄くモチベーションが上がります。
また、様々な感想を頂けるとありがたいです。
今後ともお付きあいのほど、よろしくお願いします。