古代樹
とにかくどこへ向かえば良いか分からない。
元の世界であれば、あえて下手に動かないで助けを待つという選択肢もあった。
だが、ここは異世界。
助けてくれる存在がいる訳じゃない。
思うままに動けばいいのだろうが、それも何らかの指標がなければ成り立たない。
サバイバル術が有るわけでも無し。
どうしたもんか・・・
『さっきからチョロチョロして何だ貴様は。』
そんなことを考えていると、突然頭の中に声が響く。
誰だ?
周りをキョロキョロ見回すが、特に誰かいるわけではなさそうだ。
『何をしている。我は貴様の目の前にいるではないか。』
再び頭の中に声が響く。
えらく尊大な物言いだ。
目の前といえば古代樹という名の大木があるのみだ。
もしや先程獲得したスキルが働いているのか?
ということは、この大木が話をしているということになる。
想像で話が出来たらすごいとは思ったが、本当に会話をすることになるとは。
「ここはどこなんですか?」
『?』
意を決して話しかけてみるも、答えは返ってこなかった。
・・・やはり話は通じないのか?
『人が持つ言葉は我には分からぬ。我の言葉が聴こえるのならば、念話は出来るということなのだろう?我に伝えたき事があるならば心で話すとよい。』
いや、通じてた。
単純に言葉が分からないということだったようだ。
それならばと、頭の中で伝えたい事を浮かべる。
『ここはどこなんですか?』
『念話が出来るではないか。ここは鎮守の森といわれる場所だ。我らがこの地を守っている。』
どうやら上手く意思を伝える事が出来たようだ。
『して、貴様は何者だ。この地で何をしている。』
『俺はクルスという。気付いたらここにいた。』
『そうか、クルスというか。貴様が突然この地に現れた理由を我は知りたい。貴様は我らに仇なす者か?』
突然現れた理由か・・・
『俺は別の世界から飛ばされてきた。何故この地にたどり着いたかは分からない。』
嘘をついても仕方がないだろう。
相手が人なら訝しむだろうが、大木だ。
しかも古代樹というならそうとうの年月を生きてきているのだろう。
もしかしたら、有益な情報を与えてくれるかもしれない。
『ほう、飛ばされ者か。ならば貴様の言も分からぬではない。過去にも貴様のような者がいないわけではないのでな。』
過去に、自分と似た境遇の人がいたということか。
確か別の世界で生きてもらうとか言ってたな。
前例があるからこその話だったのだろうな。
『それで俺はこの森を出てどこか人里に向かいたいのだが道が分からない。それを教えてもらいたいのだが。』
『この地より動くこと叶わぬ我に道を尋ねるとはな。この地にある森はかつてのよりもはるかに広くなってしまっている。我の持つかつての記憶では参考にもなるまいよ。』
自虐混じりの返答が返ってきた。
これは少し悪いことをしたな。
木に気を使うと思い浮かび、すぐに頭を振って今浮かんだ言葉を消す。
下らない駄洒落なんぞ思い浮かべてどうするというのだ。
『そうだ、何か食べる物はないだろうか?いきなりこっちに来てしまってなんの準備もできてないんだ。』
『食糧か・・・ここから少し南に移動したところに、かつて人が食していた赤き実のなる木があったはずだ。』
『そうか!それは助かる。』
『うむ。我も久方ぶりに他種族の者と話すことができた。気を付けて向かうがいい。我の仲間達にも貴様のことは伝えておこう。道に迷いしときは尋ねると良い。』
移動も出来ないのに伝える?
あぁ、念話か・・・距離があっても話をすることが出来るのだろうか?
疑問に思い、質問してみる。
『うむ、可能だ。ただし相手の事を知らなければ無理な話ではあるな。我らの場合は一にして全であるがゆえにかなう話ではあるのだがな。』
『そうなのか。なら何かあったとき、話しかけても構わないか?』
『ふむ・・・いいだろう。我はオーグ。この名しかと心に刻め。』
『わかった。オーグ、困ったときは頼らせてもらう。』
では、早速移動を開始しよう。
神域とやらでお茶を飲んだ以来、何も腹にいれていない。
こちらに飛ばされてからどの程度時間がたったかも分からない。
だが、多少希望が出てきたか?
小さなことでも目的ができれば、人は強くあることが出来ると思うんだ。
そんなことを考えながら歩き出す。
この一歩がこの異世界を生き抜くための大きな一歩になるのだろう。
『クルスよ、そちらは北だ。すぐに引き返せ。』
ちゃんと生き抜けるか若干不安になった・・・
名前 オーグ
種族 古代樹
スキル
意志疎通、自然治癒増大(LV.MAX)、成長促進
仲間というより相談役が出来ました。
この世界の知識を与えてくれる存在となるか?
ブックマークや評価を頂けると、物凄くモチベーションが上がります。
また、様々な感想を頂けるとありがたいです。
今後ともお付きあいのほど、よろしくお願いします。