宿に帰る
ギルド支部長に呼び出されたのだ。
普通は顔を出さねばならないのだろう。
でも、面倒だな。
『なぁ、もう終わりか?』
『みたいだな。さっきまでいたゴッツイおっさんいただろ?あれに呼び出しくらっちまったよ。』
『ん?行くのか?』
いや、行きたくないな。
面倒事の予感しかしないし。
うーん、ほっといて宿に戻るか。
気付けば、結構時間も経っているわけだし。
カインの奴も心配しているだろうからな。
ガイエンも「後で来い」って言ってたわけで、「すぐに来い」とは言ってなかったもんな。
屁理屈も理屈の内ということで。
そうと決まれば、さっさと退散しよう。
宿で昼食を取ってから、顔を出せば良いだろう。
依頼を受けに来るついででしかよるつもりはないけども。
そう考えて、練習場から冒険者ギルドの建物の中へ。
カウンターが並ぶ一階ロビーを抜け、外へと出る。
朝来た道を引き返していく。
早朝も早朝、まだ夜と朝の境界があやふやな時間と違い、周囲の街並みの印象が変わっていた。
活気に充ち満ちた通りを、眺めながら歩いていると、朝、ギルドに向かったときよりも、早く宿に戻ることが出来た。
「あらー。おかえりなさいー。」
「あぁ、今戻りました。カインは?」
「今は部屋にいるはずよー。」
「そうか、ありがとう。」
宿の扉をくぐると、キサラが出迎えてくれた。
宿の食堂は人が沢山いた。
料理が旨いのか、キサラの人気なのかは分からないが、それなりに儲かっているようだ。
部屋に戻ると、カインが何かを読んでいた。
「ただいま。」
「あっ、クルスさん。お帰りなさい。思ったよりも時間がかかりましたね。」
「あぁ、なんか流れで冒険者になっちゃった。」
「え?」
カインが驚いた表情をしている。
見学してくるだけと言いながら、冒険者になって帰ってきたら、そりゃ驚くか。
普通に話をしていると、トゥーンが頭を叩く。
『なんだ?そう人の頭を叩くもんじゃないぞ?』
『何話してるんだよ!のけ者にするな!』
そういえば、そうだったな。
ついつい、普通に話をしてしまうな。
別にのけ者にするつもりは無いんだけどな。
『トゥーンくん、そんなつもりじゃないんだよ。』
『そうなのか?』
『まぁ、ついうっかりってやつだな。』
『それより、冒険者に登録したってどういうことです?』
『んー、色々説明を聞こうと思って、たまたま空いてた登録カウンターに行ったんだよ。そうしたら、トゥーンを街中に置いておくなら、従魔の登録だったか?それをしなくちゃいけないだとか言われてな。』
そこまで言って、気付く。
そういえば、従魔の登録をしてないな。
もしかしたら、ガイエンが俺を呼んでたのはこの為か?
だとしたら、申し訳無いことをしたのかもしれないな。
どちらにしろ、帰ってきてしまっているのだ。
やはり、後で顔を出す必要性があるのだろう。
『そんな話、聞いたこと無いですよ?なんだか、おかしいですね。』
『そうなのか?』
『えぇ。確かに冒険者が使役する存在を、登録するっていうのは聞いたことありますけど、冒険者になってもいない相手にそんなこと言うなんてなんかおかしいですよ。』
なんか、よくわからなくなってきたな。
もしかして騙されてるのか?
それでも、そういう登録があるなら、しておいた方が無難な気がするんだが。
『うーん、どうなんだろうな。まぁ、手早く稼げそうな仕事だしな。ハイリスクハイリターンっていうのか?』
『そうですね、確かに即物的な所がありますね。うん、僕も冒険者になりますよ。』
『おいおい、本気か?いずれは防人の集落に帰らないといけないんじゃないのか?カインがどうしてもというなら止めはしないが・・・』
『うーん、大丈夫じゃないですかね?父さんも冒険者として登録しているくらいだし。』
『それなら、昼を取ってからもう一度、冒険者ギルドに行くつもりだから、その時にでも登録すればいいさ。』
『なあなあ、俺様もその冒険者ってなれるのか?』
『それは・・・どうなんだろうな。』
予期しない質問が、頭の上から飛んできた。
人ならざるものが、冒険者になれるもんなのか?
トゥーン自体は、冒険者なんぞにならなくても大丈夫な訳だが。
『クルスも、カインもなるんだろ!俺様もなる!』
『うーん、俺にはなんとも言えないな。』
『そうですよね。トゥーンくん、僕たちじゃなんの答えも出せないから、後で冒険者ギルドの偉い人に会ったときに聞いてみようよ。』
『そうだな。でも、あんまり期待はするなよ。あくまで、冒険者なんて、人が決めた職業なんだから。』
『わかった!きっとクルスが何とかしてくれるんだろ?』
このリス!人の話聞いてたのか?
俺になんの力も権限も無いって言っているのが聞こえないのか?
『まぁ、一先ずその話は置いといて、昼食にしませんか?』
『おう!そうだな!んじゃ、クルス!頼んだ!』
『ま、やるだけやってみるか・・・』
とんでもない課題を与えられてしまったものだ。
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