初心者講習
ひとまず、冒険者ギルドを後にする。
『なんだ?もう帰るのか?』
『あぁ、一旦戻って朝飯食べてから出直しだ。』
『何だ、また戻ってくるのか。』
『退屈か?』
『何話してるか分かんないし、何してるかも分かんないから。』
『そりゃ、すまなんだ。宿まで戻るのも面倒だから、その辺に入って朝食にするか。』
まだ早朝ということもあり、まだそれほどお店は開いていないようだ。
今回は冒険者ギルドのすぐ横に併設されている冒険者ギルド直営の店“五人目の賢人”という名前の店に向かうことにした。
直営なら、それなりに安く食べれるだろうという予想含みではあるのだが。
店内はやはり飲食店だけあって、清潔感があった。
一部を除いて。
前日の夜から飲んでいたのだろう。
テーブルの上に突っ伏して眠っている者がチラホラ見られた。
酒は飲んでも飲まれるなという言葉を彼らには贈ってあげたい。
そこまで飲むことも無いだろうに。
それらのテーブルから離れた場所に陣取ることにする。
字が読めないせいで、品物が何だかわからない。
辛うじて、数字がわかるくらいだ。
その為、メニューに記載されている値段と懐具合との相談をしながら、品物を決めようと頭を悩ます。
『何が食べたい?』
『俺様は肉だ!』
『肉か・・・』
やはり、何度見てもメニューの内容が理解できない。
周りを見ると、ウェイターの姿が見える。
分からないときは聞いたほうが早い。
ウェイターを呼び色々質問をして料理を決める。
俺はパンと魔物の卵を使った目玉焼き、トゥーンは朝から一角牛という魔物のステーキだ。
よく朝から食べれるもんだな。
料理をテーブルの上に並べてもらい、食事を始める。
トゥーンも、テーブルに置かれた料理にがっついている。
微笑ましいが、何だか胸焼けがしてきそうな感じもする。
食事を済ませ、再びウェイターを呼ぶと料金を支払う。
トゥーンの分に関しては、金貨から払った。
というより、じゃないと払えなかった。
『どうだった?』
『旨かった!まだ食べれるな!』
『そりゃ、良かった。まぁ、そのうちだな。』
『絶対だぞ!』
トゥーンは良くても、俺がこのままだと何も食べれなくなるんだよ。
早いとこ仕事して、多少なりとも金銭を稼がないと不味いな。
食事を済ませると、冒険者ギルドへと戻る。
大分明るくなってきたようだ。
もうしばらく待てば、きっと朝を告げる鐘が鳴り響くだろう。
先程の冒険者登録を済ませたカウンターを見ると、女性の職員に変わっており、冒険者の登録をしに来たであろう女の子がいた。
若い娘も冒険者になるのか。
依頼の貼り付けられたボードを整理している職員がたまたまいたので、初心者講習の場所を聞く。
二階の講堂で行われるようだ。
そこで待っていればいいと言うので、講堂へと移動する。
扉を開き中を見ると、まだ誰も来てはいないようだ。
よもや、俺だけなんて事はないよな?
そんなことを考えながら、適当な椅子に腰を下ろす。
しばらく待つが、誰も来ない。
もしかして部屋を間違えたか?
そんなとき、扉が開き講習受講者であろう三人組が入ってきた。
冒険者という仕事に、希望があるとでもいうように目がキラキラとしている。
若いな。って、俺も今は若いな。
普段は気にもしないが、ふとしたときやはりかつての歳が顔を出す。
彼らは、俺と少し離れた場所に座り、話し合っているようだ。
さて、講習はまだかね?
段々と眠くなってきた。
ただ待つというのも、退屈なものだ。
椅子に体を預けると、始まるまで眠りにつくことにした。
「待たせたな、諸君。」
声に起こされ、その方を見る。
どうやら、講習が始まるようだ。
壇上には、朝登録をしてくれたガタイのいい男だ。
「俺は、このギルドで支部長を勤めているガイエンという。さて、早速講習を始めさせてもらう。まず、冒険者登録をした際に受け取ったカードをみてほしい。」
なんと、支部長だったのか。
しかし、支部長自ら受付をするのか。
懐からカードを取り出す。
「では登録証の説明をするぞ。そこには、自分の名前、年齢、性別が記載されていると思う。依頼を1つでも完了すると、正式に冒険者として認可されることになり、名前の横には現在のランクが記載されるようになる。つまり、現在のランクが表記されてないということは、今はまだギルドに登録されているだけで、正式に冒険者とは見なされていない訳だ。」
何?
人から金をふんだくっといて、まだ冒険者じゃない?
なんだ、喧嘩を売ってるのか。
「冒険者のランクはA~Eまでの5つに分かれている。これは現在の実績のみを見て判断されているものであり、特に請け負う仕事には何ら関係ない。自分に実力があるというならば、Aランク推奨の依頼をEランクの冒険者が受ける事も可能だ。冒険者は生きるも死ぬも自己責任だからな。ただし、ランクの記載がされてない諸君らは別だ。まずは、Eランクの仕事を受けてもらう事になる。これは依頼の受注から完了までの流れを覚えてもらうための措置だ。了承しておいてもらいたい。」
なんだ、そういうことか。
依頼を1つは完了させればいいのか。
どれもこなせそうなものばかりだった。
講習が終わったら、いくつか受けてみるのもいいかもな。
「それから・・・」
あとは、冒険者としての心構えと緒注意についての話が続く。
どれも知らない話ばかりだ。
むしろ今ではなく、登録をするときに話さなくてはいけない内容じゃないのか?
「・・・さて、これで講習は終了とする。次は魔法適正の確認か。諸君、別室に一人ずつ移動してもらう。講堂に来た順で、講堂の向かいにある部屋に来てもらいたい。」
これで講習は終わりか。
魔法適正の確認なんかもやるんだな。
はっきり言って、俺には必要ないな。
折角、特技の項目を秘匿したというのに、こんなとこで明かしてしまっては意味がないだろう。
講堂に来た順番ってことは、俺が最初か。
俺の名前を呼ぶので、部屋を出ていく。
「悪いが、魔法の適性の検査か?俺は必要ない。あとの連中を見てやってくれ。」
「いえ、初心者講習とセットになってますので、安心して受けてもらって構わないですよ?」
「いや、必要ない。それより、このあとは何かあるのか?」
「魔法適性の確認が終わったあとは、練習場にて模擬戦闘が行われますね。いえ、それより適性の確認が先ですよ。」
「必要ないといっただろ?」
何度も言われると、段々と頭に来るな。
つい静かなトーンで話してしまった。
こちらの不穏な雰囲気を感じ取ったのだろう。
目が泳ぎ、慌てた様子を見せ始める。
「しっ、支部長ぉぉぉ。」
「何だ!うるさいぞ!」
「いえ、このクルスさんが適性の確認を拒否されてまして。」
「絶対に受けなくてはいけないのか?」
「・・・いや、絶対では無いな。受けないのであれば練習場で待っていてくれ。」
「そうか。それなら向こうで待っているとするか・・・あんたも悪かったな。」
ガイエンを呼んだ職員の肩を軽く叩き、その場を辞す。
さて、のんびり待つか・・・
いよいよ、狙いが形になってきました。
自分が書く別作品『異世界旅行記』とのリンク。
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