冒険者ギルド
さぁ、冒険者ギルドへ。
そう思いながら、意気揚々と宿から出てふと気付く。
そういえば、場所を聞いていなかった。
どうしたもんかな・・・
戻って道を聞いてきてもいいが、今すぐに戻ってはなんとも情けない。
ベッドで丸くなっていたはずのトゥーンが、気づけば俺の周りをチョロチョロしている。
『なんだ?寝たんじゃなかったのか?』
『どっかいくんだろ!俺様もつれてけ!』
『別に面白いかわからないぞ?』
『なんだよ、ウキウキしてたじゃないか!』
そりゃ、前の世界を知っているからなんだがな。
俺にとっては観光気分でも、トゥーンにとってはつまらないことこの上ないと思うんだがな。
まぁ、別に構わないか・・・
宿の前を走る道には、少ないながら人が歩いている。
まだまだ、暗い時間にも関わらずだ。
早起きの人間がいるだけ、というわけではないだろう。
彼らを見てみると、軽鎧を着て剣を腰に提げる者や、ローブのフードを目深に被り杖を持つ者。
様々な格好をしているものの、皆一様に同じ方向へと進んでいる。
いくらなんでも、この街の住人が、こんな格好でこんな時間にうろついてはいないだろう。
適当にあたりをつけ、彼らの進む方向へと俺もついていく。
その後ろをトゥーンが続く。
チラチラとこちらを伺っているようだ。
頭の上に乗りたくて仕方がないのか?
どうしてそんなに乗りたいのか分からんな。
『ったく、しょうがないな。』
しゃがんで、手を伸ばす。
『ほら、乗ってもいいぞ。』
『いいのか?昨日は重くてダメだって言ってたのに・・・』
『重いのも嫌だが、そんな風に見られ続けられる方が落ち着かない。』
『そうか?そうだな!』
いつも通り、ピョンっと飛び乗ってくる。
多少重くても、仕方がないかと覚悟をしていたら、いつもくらいの重さに戻っていた。
消化したのか、エネルギーとして使ったのか?
全くもって変わった特性だな。
頭の上ではしゃぐトゥーンをそのままに歩いていくと、段々と人が増えてきた。
そんな人達が、多く出入りしている建物が冒険者ギルドなのだろう。
これから仕事に向かうのか、それとも終わらして帰ってきたのか分からないが、ご苦労なことだ。
冒険者ギルドとおぼしき建物は、非常に立派な建物だ。
階数も四階建てか?
周りの建物より、頭一つ高い。
勝手に入ってしまって良いのだろうか?
入口近くまで行き、中を覗いてみようと足を止める。
すると、たまたま後ろにいたのであろう人にぶつかってしまった。
「うぉっと。」
「おぅ、こんなとこで立ち止まってんじゃねーよ!」
「いや、申し訳無い。冒険者ギルドなんて初めて来たもんだから、勝手が分かってなくてな。」
「勝手も何も無いだろうに、変わった奴だな。好きに入ればいいじゃねーか。」
そう告げて、中へと入っていってしまう。
そうか、許可は特にいらないのか。
それならばと、俺も中へ入っていく。
中は、相当に広かった。
カウンターがいくつも並び、左側の壁には大きなボードが掛けられていた。
右手側にはイスやテーブルがいくつも置かれており、休憩が出来るようになっていた。
正に小説に出てくるもの、そのものだ。
見てきたものをそのまま書いているんじゃないのか、などと思わしてくれる。
カウンターには、素材の買取、依頼の受注、冒険者登録の三種類が有るようだ。
盛んに人が並ぶのは、買取と依頼のカウンターか。
時間のせいも有るかもしれないが、登録のカウンターの担当は暇で辛いだろうな。
取り合えず、壁に掛けられたボードを見てみる。
そこには、数多くの依頼が貼り出されていた。
ボードの前にも幾らか人がおり、どの依頼を受けようかと検討しているようだ。
ボードに貼られた依頼には、薬草などを集める採集系の依頼、魔物を倒す討伐系の依頼、他にも雑用のようなものまで多岐にわたる。
ここで、自分の身の丈にあったものを、見つけていくのだろう。
ここに貼られている魔物は、ここに来るまでの森の中で何度も遭遇し蹴散らしたものばかりだった。
報酬は・・・なかなかいいな。
ここでいくらか稼いで、ある程度お金を貯めておくのもいいかもしれないな。
それを元手にして、やりたいことをすればいい。
今のところ、やりたいことなど特に思い付かないのだが。
折角ここまで来た訳だし、ギルドの職員に話でも聞いてみようか。
空いている・・・というより、担当の職員しかいない冒険者登録
のカウンターに向かう。
話を聞いて、面白そうなら登録しても構わないだろう。
ゴツいガタイの男性が何か書き物をしているようだ。
「すまないが、少しいいか?」
「む?こんな時間に登録か?珍しいな。」
「いや、まだそれは決めてないんだ。冒険者ギルドに来たのが初めてでね。色々教えてくれると助かるな。」
「ギルドに来るのが初めて、ねぇ・・・」
訝しげな目線を向けてくるが、事実なのだから仕方がないだろう。
いったい何が引っ掛かるというのだ。
「お前、何匹も魔物を倒してきてるな?」
「まぁな。分かるもんなのか?」
「魔物にしろなんにしろ、殺しの経験を積んできてる独特の空気感があるのくらいわかるさ。」
「そうか?」
「そうさ。その頭の上のも同じだ。ハンタースクイレルか・・・珍しいな。ペットか使い魔かわからんが、従魔の登録は済ましてあるのか?」
従魔?
そんな登録があるのか?
それにハンタースクイレルはそんなに珍しい生き物なのか?
ただの食いしん坊のやんちゃ坊主にしか思えないがな。
「危険度は無さそうに見えるが、ギルドで登録を指定されている動物でな。犬や猫なんかの愛玩動物なんかは、その対象にならないことも多々あるがな。」
「それは知らなかったな。」
「そうか。従魔の登録をするには、冒険者の登録を済ませている者の申請が必要になる。珍しい獣を従えていると、時折面倒ごとに巻き込まれることがある。それを回避する為にも登録はしておいた方が間違いはない。」
「分かった。それなら、冒険者の登録をしておいた方がいいな。とはいえ、何にも知らないのと同然なんだ。ちょっと色々聞かせてくれよ。」
「いいだろう。」
結局、冒険者登録をすることになってしまったな。
どのくらい時間がかかるだろうか?
冒険者ギルドの建物の設備や、冒険者の話しも聞きたいと思っているんだが・・・
どうやら、朝食には間に合いそうにないな。
勿論冒険者ギルドに来たからには、冒険者になってもらうに決まってるじゃないですか。
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