今日の目的地
目が覚めたので、ベッドから起き出す。
窓の外はまだ少し暗い。
どうやら、日が上がる前に起きてしまったようだな。
横のベッドでは、カインがまだ眠っている。
トゥーンは、起き出した俺の気配に気付いたのか、こちらを見ていたので、『おはよう。』と言っておいた。
体が軽い。
すこぶる好調なようだ。
体が動くようになって、まだ一日しか経っていないというのにだ。
キサラから受けた神聖魔法による治療が良かったのか、それとも“自然治癒増大”のスキルがしっかり働いたせいなのか。
すぐにでも、体を動かしたくなってきた。
軽くランニングでもしてこようか?
カインを起こさぬように部屋の扉をそっと開け、スルリと抜け出す。
トゥーンもついてきたいようなので、一緒にだ。
宿の外に出ると、体の筋を伸ばすようにストレッチを開始する。
全身の動きを確認するように、ゆっくりとやる。
その姿を見たトゥーンが、不思議そうにしていたが気にせず続ける。
昨日、散歩に出たときよりも体が喜んでいるように感じた。
これは、完璧に復調したと見ていいな。
『よし、準備完了。トゥーン、ちょっとこれから軽く走ってくる。』
『走るのか?俺様もついてってやるぞ!』
『そうか?それなら、行くか。』
のんびりと走り出す。
なるべくペースを一定に保ちながら、なるべく長く走れるように意識して、足を動かしていく。
トゥーンも俺のペースに合わせて駆けている。
時おり、俺の前に出るので追い抜いてやると、追い抜き返される。
最初はそんなつもりはなかったのだが、抜きつ抜かれつを繰り返している内に、段々とペースが上がっていき、気付いた時には揃って猛ダッシュをしていた。
肩で息をしながら、部屋に戻るとカインが起きていた。
まだ暗いというのに、起こしてしまったようだ。
「どうしたんです?朝からもう疲れてるみたいですけど?」
「いや、体の調子が良かったんでな。軽く走ってきた。」
「えっ?いやいや、まだ体が動くようになって二日目ですよ。」
「全然無理はしてないぞ。むしろ体を動かしたくて仕方ないくらいだ。」
そう言いながら、ベッドに腰を下ろす。
心配してくれているのは、大いにわかるのだけども。
でも、体は動かさなければ動かさないだけ鈍っていく。
軽い運動くらいなら、問題ないだろう。
トゥーンはというと、ちょっとした会話の最中、ベッドの上で丸くなっていた。
寝たり無いのだろうか?
「それで、昨日預かっておくように言われたお金のことなんですけど。」
「あぁ。」
「いくらなんでも、全部預かっておくっていうのは・・・」
「何か問題でも有るのか?」
「大有りですよ!額が大きすぎますよ!」
どれだけ儲かったんだ?
カインが慌てる位なのだ、相当の額なんだろう。
確かに森の中を進んでいると、数多くの魔物と遭遇した。
それを、片っ端から片付けながら突き進んでいた。
“解体”のスキルを得ていた事もあって、質もそれなりに良かったんだろうしな。
「そっ、そうか。それでどの程度いったんだ?」
「金貨5枚ですよ、金貨5枚!こんな大金持ったことなかったから、報酬として渡された時手が震えましたよ!」
「おぉ・・・そうか。」
「なんで、ちゃんと分けましょう。無くしたりなんかしたら、それだけで・・・」
話しながら、わなわな震えているな。
別に、変なプレッシャーをかけるつもりは無かったんだけどな。
そういうことなら・・・
「分かった。別に困らせるつもりはなかったんだ。」
「ええ、なんで貰っておいてくださいよ。」
「そうだな。それなら金貨2枚貰っとく。後はカインの分な。」
「えー!なんで僕の方が多いんですか!」
「カインがいなかったら、街に来るどころかのたれ死んでたかもしれないからな。そりゃ、当然だろ?」
釈然としていないカインから、金貨を2枚受けとる。
なかなか納得出来ていないようだ。
別に気にする事は無いと思うんだがな。
それなら、仕方がないな。
「ここの宿泊費として、金貨一枚渡してしまえば、ちょうど二枚ずつだろ?俺が受け取った分はトゥーンの分だからな。」
「えっ?それじゃ、クルスさんの分は?」
「だから迷惑をかけたって言っただろ?俺の分は別にいいさ。宿泊費でも払ってもらえれば御の字ってとこだな。」
「いや、それでも・・・」
「これ以上は、俺も引かない。有ったって損なわけでも無し、素直に貰っとけよ。」
「そこまで言うなら・・・分かりました。受け取っておきます。それで、今日は何をして過ごすんですか?」
今日か・・・
そうだな、気になっていたし行ってみるか。
「冒険者ギルドに行ってみようと思うんだ。なんか、面白そうだろ?」
「面白そうですか?」
カインには理解できないか。
しかし、俺は違う。
ファンタジーの世界の大定番だし、興味しかない。
前の世界では、小説やマンガ、ゲームの中だけで、実際には存在していなかったものだ。
門番に言われたときから気になっていたし、昨日カインが冒険者ギルドに行くと言っていたときも、覗いて見たいというのが本音だった。
「なんで、ちょっと行ってくる。いつ頃から開いてるんだ。」
「この街の冒険者ギルドなら、いつでも開いていますよ。」
「そっか。なら、今から行ってくる。」
「今からですか?朝食はどうするんです?」
「多分だけど、まだ朝食まで大分時間があるだろ?」
「そうですね。まだ、外もそこまで明るくなってないですし。」
「なるべく、その時間位までには帰ってくるよ。最悪逃しても、昼までには帰ってこられるだろ。」
そう言って、俺は部屋を後にする。
向かうは冒険者ギルド。
どんな感じになっているのだろう。
楽しみだな。
いよいよ、冒険者ギルドへ行きます。
ファンタジーの世界が足音を立てて、より近づいて来ました。
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今後ともお付きあいのほど、よろしくお願いします。