宿への帰路
結果、予想通りというかなんというか・・・
本当に、食べてばかりの散歩になってしまった。
こちらの言語で表されていた為名前こそ違うが、クレープやガレットにお好み焼きやたこ焼き、綿菓子にリンゴ飴など、かつての世界でも出店で買うことの出来たものに、非常に似通った物が多数あった。
俺は、さすがに全てを食べることは無かったが、トゥーンは色々な物を次から次へと平らげていった。
一体、どこに入っているのだろうな?
トゥーンの体積よりも多い量を食べている。
見た目には、なんの変化もなかった。
が、はっきり言って食べすぎだ。
手元に残っていた銀貨も心もとなくなってきた。
こんなになるまで、食べさせた自分も悪いのだが。
『そろそろ、宿に戻ろう。』
『んぇ、もう?』
『いや、いくら何でも食い過ぎだろ?財布の中身全てを無くす気か?』
『まぁ、そういうことなら仕方ないな!』
ピョンと飛んで、俺の頭に乗る。
すると、いつも以上の重さがかかる。
くっ、首が・・・
『トゥーン、悪いがちょっと降りてくれ。』
『えっ?なんでだよ!』
『お前、重すぎだろ!首もげるかと思ったわ!』
『えー!』
『だーっ、重い!』
ごねるトゥーンを掴み、無理矢理にでも頭から引き剥がす。
どうやら、体重自体は増えているみたいだ。
なんの役に立つか思い付かないが、不思議な特性だな。
『嫌だー!乗るー!』
なぜ、そこまで俺の頭の上に執着する?
別にお前の巣でも何でもないぞ。
また飛びかかられては、かなわない。
しょうがないな、トゥーンを抱えたまま宿へと向かう。
ええい!腕のなかで暴れるんじゃない!
ようやくの思いで宿に戻ることが叶った。
移動中、絶えず腕のなかでジタバタし続けるものだから、スレ違う人スレ違う人に、奇異の目で見られたことは間違いない。
宿にはすでにカインが戻ってきており、笑顔で迎えてくれる。
「クルスさん、やりましたよ!」
「その顔だと、結構良い額で売れたみたいだな。」
「えぇ、凄い額になっちゃいましたよ!もう、しばらく遊んで暮らせてしまうほどの額ですよ!」
「そりゃ凄いな。まぁ、カインが預かっといてくれれば、っとぉ。」
カインと話をしている内に、腕の中からトゥーンが抜け出す。
こっちを睨んでいるようだ。
そんなに怒らんでもいいだろうに。
『どうしたの、トゥーンくん?』
『クルスが、頭の上に乗せてくれないんだ!』
『えっ、それで怒ってたの?』
何事かと思っていたのだろうカインは、呆気に取られたような表情をしている。
軽くため息を一つ吐くと、カインになぜこうなったのかを教えてやった。
それを聞いて、カインが笑う。
『それは、仕方ないんじゃないかな。』
『なんでだよ!いつも乗ってたぞ!』
『そりゃ、いつも以上に重くなりすぎてたら、クルスさんだって嫌がるよ。それに、まだ病み上がりだよ?』
『そうなのか?』
『あぁ、そりゃあな。』
『むぅ・・・』
なんで、俺が嫌がるとあんなに反抗して、カインに諭されると納得しているのか。
まぁ、納得したなら良しとするか。
「あらあらー。おかえりなさいー。」
騒いでいたのが、耳に入ったのだろう。
奥の方から、キサラが出てくる。
「あぁ、すまない。騒いでしまった。」
「いえいえ、良いんですよー。元気な事は、良いことですからねー。あ、夕食はどうしますー?」
「あ、僕はいただきます。クルスさん達はどうします?」
「せっかくのところ申し訳ないが、今日は止めておくよ。」
トゥーンと様々なものを食べ過ぎた。
さすがにこれ以上は入らない。
トゥーンを、ちらりと見る。
トゥーンもこちらを見ていたようで、視線がぶつかる。
『夕飯だってさ。どうする?』
『俺様は止めとく!』
苦渋の決断でもするかのようだな。
そこまで食べることに執着するもんなのか?
森のなかでは、なかなか食べ物が手に入らない事もあるか・・・
『別に無理しなくてもいいぞ?』
『無理なんかしてない!』
頑なに夕食を断るトゥーン。
もう、こりゃ意地になってるな。
「すまないが、部屋はどこになる?」
「あ、それなら僕が案内しますよ。」
カインが案内をかってくれるので、後ろからついていくことにした。
その後ろを、チョロチョロとトゥーンもついてくる。
部屋の中も無駄な装飾はされておらず、殺風景といってしまえばそれまでだが、これはこれでいい。
むしろ、無駄なものが無い方が落ち着く。
部屋に入ると、さっさとベッドに横になる。
先程、カインが病みあがりと言っていたが、もっともだ。
大した距離を歩いたわけじゃないが、どうにも疲れていたようだ。
すぐに眠気が襲ってくるように感じた。
まぶたが落ちかけた目で、トゥーンの様子を見ると、どうしようかと思案しているようにみえる。
『トゥーン、おいで。』
そう言いながら、少し横によってスペースを空けてやると、そのスペースにまで来ると体を丸くしたので、軽く撫でてやる。
本当にしょうがない奴だな。
その手をトゥーンの上に置いたまま眠ってしまった。
ほのぼの回が続いてしまったのでした。
ブックマークや評価を頂けると、物凄くモチベーションが上がります。
また、様々な感想を頂けるとありがたいです。
今後ともお付きあいのほど、よろしくお願いします。