復活
『でっけーーー!』
トゥーンが驚いている。
確かに、防人の集落に比べても規模が違う。
むしろ、比較対照とするのは間違っているんじゃないかっていう広さだ。
外周を囲っているであろう壁も、通り道としての門も大きい。
まるで映画に出てくる中世ヨーロッパのような造りだ。
海外の歴史はそれほど詳しい訳じゃないが、外敵から街を守るためには必要な物なのだろう。
どこの世界も、行き着く考えは同じということか。
「やぁ、旅人のようだね。ここまでお疲れ様。」
門の前にまで辿り着くと、門番から声をかけられる。
なかなか、気さくな性格のようだ。
口調とは別で、こちらをちゃんと確認しているようだが。
「そちらの彼はどうしたんだい?」
「ここに来るまでに、魔物との戦いになってしまいまして・・・」
「それは大変だ。でも、怪我しているようには見えないけどね。」
「さてね・・・なんで動かないのか、俺自身が知りたい所だよ。」
今もなお、体の自由がきかない。
それでも、多少は回復してきているのだろう。
普通に話しを出来る程度は可能になったし、比較的軽症だった左腕は、多少の制限は有るものの動かすことが出来るようになってきていた。
「うーん、何でだろうね。何にせよ大変なことには違いない。早いところ、診てもらった方がいいね。それで、君は?」
「僕は、防人の集落からやって来ました。」
「防人?あぁ、森に住んでるっていう。よくあんなところで生活出来るものだよね。私には無理だよ。」
「そうですか?僕は、生まれたときからですから。それに住んでみると、案外良いところですよ。」
「まぁ、住めば都とも言うしね。あとは・・・一緒にいるその動物は?」
指でトゥーンを指し示す。
動物は街に入ることは出来るのだろうか。
馬車なんかが通っていたのが、先程見えたから多分大丈夫だと思うけども。
「彼も僕たちの仲間ですよ。」
「仲間ねぇ・・・まぁ、いいか。街中でいなくならないようにちゃんと注意してくれればいいよ。」
「分かりました。勿論、気を付けますよ。」
「うん、よろしく頼むよ。無用の争論なんてごめんだからね。あぁ、それで街に入るんだよね?通行料として、一人銀貨五枚だよ。」
通行料を取るのか。
特に、身分を確認されることは無いんだな。
海外旅行した際に行われる、入国管理と比べてザルもいいとこだ。
犯罪者なんかも、これじゃあ素通りもいいとこだ。
門番に通行料を払う。
「はい、確かに。じゃ、これ通行証。街から出るときに還してね。無くすと色々大変だから気を付けて。それと、ちゃんと身分を保証できるものが有れば、通行料安くなるから。」
「分かりました。ご忠告感謝します。」
「手っ取り早い物だと、冒険者の登録証かな?」
「冒険者?」
この世界には、そんな職業があるのか。
響きを聞くぶんだと、職業には思えないよな。
でも、面白そうだ。
前の世界では、固い職業について粛々と仕事をしたものだ。
毛色の違う仕事に着くのも面白いかもしれないな。
体が動くようになったら、ではあるが。
「そう、冒険者。ランクも上がれば、通行料もなくなるかもだし。まぁ、無理には勧めないけどね。」
「いえ、参考になります。」
「そうかい?それならよかった。」
そうして、門番と別れると、門を潜り街の中へと入っていく。
綺麗な造りをした建物が並ぶ。
門を入って直ぐなのだから、街の顔として力が入っているのだろうな。
そんな綺麗な町並みの中を歩いていく。
「まずは、宿の確保ですね。それから、クルスさんの体を診てもらえる人を探さないと。」
「そうだな。悪いな。」
「いえ、気にしないでください。『トゥーンくん、これから宿を探そうと思うんだけど、それでいいですか?』」
『おう、いいぞ!なぁなぁ、その辺見てきていいか?』
『それは、あんまりよくないですね。そんなことすればどこに泊まっているか、わからなくなってしまいますよ。』
始めてきた場所だ。
見て回りたくて、ウズウズしているしているのだろうな。
好奇心の強いことだ。
もっとも、俺も自由に動けるならその辺を見て回りたいところだ。
この世界に生きていくにあたり、どんな生活をしているのか、風俗や習慣はどのようなものなのか知るのは大事なことだ。
『トゥーン、もう少し待てよ。お前一人で動いたってなかなか辛い思いをするだけだと思うぞ?』
『ん?なんでだ?』
『何か興味があるものを、観察しているぶんには問題ないかも知れないが、食べ物なんかは勝手に食べることは出来ないからな。目の前にあるのにお預けくらうくらいなら、一緒に行動した方がいいだろ?』
『そうなのか?』
『そうだよ。一人じゃ言葉も通じないから、注文も満足にできないでしょ?でも、僕やクルスさんがいれば、その辺は問題ないもんね。それに、クルスさんが動けるようになるまで、トゥーンくんに見ていてもらいたいし。』
『そういえば、そうだな!わかった!』
どうやら納得してくれたようだな。
俺が動けるようになるまで、か。
トゥーンの為にも、何とか動けるようになりたいところだよな。
「それで、宿はどうするんだ?」
「あてってわけじゃないですけど、いつも防人が出てくると利用している馴染みの宿があるんで、そこに向かいます。」
そういうことか。
何度か街に来ているという話しだし、任せといて問題ないだろう。
「そうしたら、早速向かうか。」
「えぇ、分かりました。それじゃ、行きますよ。そんなに時間はかかりませんから。」
そうして、俺を背負いながらカインは歩く。
街の人たちの、不思議そうな視線がこちらに向いているのが少し気になるな。
仕方がないことではあるが。
カインの言う通り、宿まではたいした時間はかからなかった。
“森の人亭”か。
それほど、大きな建物ではないな。
扉を通り、中へと入る。
「いらっしゃいませー。」
「えーっと、ディードさんはいらっしゃいますか?」
「えぇ、いるわよ。貴方は?」
「防人の集落の長の息子のカインです。」
「あら、ゲインさんの息子さん?また、大きくなったわね。少し待っててもらえる?」
そう言って、店の奥に姿を消す。
待っている間に、店内を見渡す。
それほど高そうな装飾は無いようだ。
素朴というか、質素というか。
テーブルが幾つも並んでいる。
どうやら、ここは食堂のようだな。
一階は食堂に、二階は宿泊施設となっているのだろう。
そうこうしているうちに、奥から男性を伴って先程の女性が出てくる。
恐らく、彼がディードなのだろう。
「よく来たな、カイン。大分大きくなってきたが、まだまだ細いな。」
「お久しぶりです、おじさん。」
「あぁ、いつ振りかな?まぁ、自分の家だと思って、ゆっくりしていくといい。それで、その背中に背負っている人は?」
「彼はクルスさんといいます。飛ばされ者ですよ。」
「ほぅ、飛ばされ者か。」
どうやら驚いているようだな。
しかし、カインと仲がいいな。
どのような関係なのだろうか?
「私はディードという。ゲインの兄になる。こっちはキサラ。俺の嫁さんだ。」
「キサラといいます。よろしくねー。」
「そうなのか。こんな体勢で申し訳ないな。ゲインと違ってちゃんとしてそうだな。」
「ハハハハハ・・・ゲインは、昔からああだからな。でも、防人の長になったのは間違いじゃないと思っているよ。」
「そうなのか?」
「でなければ、集落を任せて外になんて出られないさ。」
それもそうか。
ゲインの兄だったということは、元々彼が防人の集落を率いていくはずだったのだろう。
それを任せて、森の外で生活しているのだ。
確かにゲインは、喋り口調は長らしくはなかったが、頭は良さそうだったしな。
「それより、おじさん。クルスさんの体を誰かに診てもらいたいんだけど、どうしたらいいのかな?」
「なんだ、どこか悪いのか?」
「体の傷は大丈夫みたいなんだが、どうにも力が入らないんだ。」
「そうか・・・そりゃ、難儀だな。キサラ、診てやってくれ。」
「あらー、私でいいのかしら?」
「いちいち、教会の診療所まで行くのも、この分だと大変だろう。いいから診てやれよ。」
テーブルに寝かされた俺の体に、キサラが触れていく。
何事かをもにょもにょ言いながらだ。
触れる度に、触れた部分が柔らかい光を放つ。
そして、光を放つ部位が温かさを感じた。
「うん、これでいいと思うわー。手を握ってもらえる?」
言われるままに、手を握る動きをしようと意識する。
弱々しい動きではあるものの、手を握る動作が出来た。
いったい何をしたんだ?
足も一本筋が通ったような感じだ。
今なら、ゆっくりではあるが、普通に動けそうな気がする。
「大丈夫そうねー。」
「いったい何をしたんだ?」
「キサラは神聖魔法を使えるんだ。それほど強い力は無いけどな。」
「体の方は問題なかったですー。体を動かす糸みたいなものがあるんですけど、それがバラバラになってましたー。」
体を動かす糸?
そんなものがあるのか?
と考えて、はたと気づく。
恐らく、肉体自体の修復は完了したものの、神経がズタズタなままだったのだろう。
よくよく考えればわかる話だ。
怪我をして体が麻痺するという事は、前の世界でも聞く話だ。
その原因が神経についた傷というのも、よく聞く話だ。
何にせよ、これで今後の活動に希望が持てることになった。
さぁ、ようやくクルスが自由に動けるようになります。
まだ、多少の制限をかけるかもしれませんが。
こんな調子で、クルスが無双出来る日がくるのかな・・・
トゥーンは既に無双状態なんですけどね。
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