目に入る景色
ゆらゆらと揺れるのを感じる。
何だ?
どこかにつれていかれているようだ。
誰かの背の上におぶされているようだが、いかんせん身長が足りないのだろう。
俺の足を引き摺りながら動いているようだ。
体に力が入らない。
手を動かしたいが、ピクリとも動かない。
糸が断ち切られたマリオネットのようだ。
ゆっくりとまぶたを上げる。
視界が赤い。
目に血が入ったままなのだろう。
どうやら、カインが俺を背負って、移動しているようだ。
トゥーンが見えないな。
いったいどこにいるのだろう。
「カイン・・・ここは・・・?」
「クルスさん!気がついたんですか!」
突然声をかけたのだ。
驚くのも当然か。
先程の戦闘した場所と違って、周りは開けているように見えた。
どころか、森の中から出ているようだ。
「もう、森の中から抜けてますよ。今は街道を少しずつ進んでいるところです。」
「そうか・・・トゥーンは・・・?」
「トゥーンくんなら、少し進んだ先を見に行ってますよ。」
意識を飛ばしてから、どの程度たったのだろう。
ある程度、日が経ってしまったのだろうか?
『悪い。口で話をすると、しんどい。念話で話すよ。』
『無理しないでくださいよ。死にかけまで行ってたんですから。』
『そうなのか?にしては、怪我がないように感じるが・・・』
そうなのだ。
まだ、手足に力は入らないものの、怪我をしているようには思えなかった。
全く痛みが無いからだ。
右腕は、見るも無惨なくらい破壊されたはずだ。
よもや、痛みが酷すぎて、頭の中でシャットアウトしてるわけでも無いだろう。
『それは、トゥーンくんにお礼を言わないといけないですよ。』
『ん?なんでだ?』
『トゥーンくんが不思議な力で、クルスさんの体を治してくれたんですよ。』
『不思議な力?』
不思議な力って何だ?
人に影響を与える力といえば、魔法だろう。
カインが見たことの無い現象が起きたとするのならば、特殊な魔法なんだろうか?
そういえばと、記憶を辿る。
確か、神聖魔法というものが、トゥーンのスキルにあったはずだ。
その魔法のもつ力で、俺の体を癒してくれたんだろう。
それ以外に、傷を治すようなスキルを持っていなかったはずだ。
『カイン、少し休憩にしよう。』
『そうですね。僕も少し疲れました。』
道の脇に立つ木に、俺を寄っ掛からせるカイン。
どうにも体に力が入らない。
まんじりとも動かない事に、苛立ちを覚えてしまう。
自分の服装を見ると、まだ買ったばかりのローブはぼろぼろになってしまっていた。
ズボンも、所々穴が開いてしまっている。
『俺が、意識を飛ばしてから、どのくらいたったんだ?』
『えーっと、2日ですね。』
『そんなにか・・・カイン、迷惑をかけるな。』
あれから2日も経っていたのか・・・
ということは、2日間俺を背負って移動していたということか。
カインには申し訳無いことをしているな。
『そんな、気にしないでください。気に病むくらいなら、早く動けるように体を治すことに専念してください。』
『そう言ってもな・・・体が、全然動かせないんだ。』
『そうなんですか?見た感じには、全く怪我の無いように見えますけど。』
かろうじて動くのは、口とまぶた位のものだ。
参ったな。
このままだと、移動するときはカインの力をしばらく借りなくてはいけない。
いや、それ以上に心配なのは、体を本当に動かせるようになるかだ。
寝たきりになってしまうとしたら、相等な絶望が俺を襲うだろうな。
『なんにせよ、街まで行って、お医者さんか回復魔法の使い手の人に頼んで見てもらうしか無いんでしょうね。』
『それで、動けるようになるのか?』
『どうなんでしょう?そもそもお医者さんにかかるような事なんて、なったこと無いですから。』
『うーん、そうか・・・』
何とも言えないな。
しかし、そこに一縷の望みを託すしかないのか。
我が体ながら難儀なことだ。
しばらく休憩をしていると、道の先を偵察しに行っていたトゥーンが帰ってきた。
『よう、世話をかけたな。』
『クルス!起きたか!よかったーーー!』
トゥーンは俺に駆け寄ると、膝の上にピョンと飛び乗る。
前足でバシバシ俺の太ももの辺りを叩いてくる。
『おいおい、そんなに叩くなよ。』
『おっ?ごめんごめん。それで、調子はどうなんだ?』
『悪くないさ。体が自由に動かない事以外はな。』
『それって調子いいのか?』
首をかしげ、俺の顔をジーッと見つめてくる。
『あまりいいとは言えないですよね。こんな状況で自分を皮肉らなくても良いと思いますよ。』
『自分で思ったことをそのまま、言っただけなんだけどな。』
『うーん、よくわかんねぇ!そのうちよくなるんじゃないのか?』
『なら、いいんだけどな。』
楽天的なトゥーンの考え方には、相変わらず救われる。
そうであるといいんだけどな。
その後、ある程度休憩をしたのちに再び街へと移動を開始する。
俺はカインに背負われての移動となった。
結果、目的地としていた街まで三日ほどかかった。
その間も、体を動かすことはできなかった。
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