別れの挨拶
朝食を平らげると、フィーネが、昨日飲んだお茶を出してきたので、ひと息いれる。
気のきく娘だ。
フィーネは、食事に使用した食器を入れたたらいを持って外に出ていってしまった。
「それじゃ、準備します。ちょっと待っててください。」
「別に急いでいる訳じゃないからな。ゆっくりやればいい。」
そう声をかけるが、気を使って急いで準備してくるのだろう。
そそくさと、その場を後にするカイン。
「しかし、街はどれ程の距離があるんだ?ここから遠いのか?」
「うむ。草原を行き、森を抜けねばならんな。そこまでで4日程だろうか?その後、街道を辿りっていけば街につく。一週間程度見ておけば大丈夫だろう。」
「おいおい、グル。そりゃ、旅なれてるもんの話やろ?抜けてく森には魔物だっているんだ。そいつら相手にしながらなら、もっとかかるわな。」
また森を抜けるのか。
それにしても魔物?
いよいよもってファンタジーだな。
そして、魔物を倒すとお金と経験値が得られるのか?
「まぁ、そんなに心配する必要はないやね。その辺の知識は仕込んであるから。」
「うむ。何度か外について行かせたこともある。分からないことがあれば、なんでも聞くといい。」
「そりゃ、頼りになりそうだな。」
「おお。我が息子ながら、俺とは出来が違ってな。唯一俺が自慢できることだわ。」
そう言って、カラカラと笑うゲイン。
顔を綻ばせるその表情が、余程の自慢の息子だと思わせてくれる。
ただの親ばかじゃないのは、昨日集落を案内してくれたときにわかっている。
「すいません。待たせました。」
「いや、全くもって待ってないな。」
やはり、急いで準備してきたのだろう。
俺なんぞに、そこまで気を使わなくてもいいのだけどな。
カインの服装が変わっていた。
カインを含め集落の人間は皆、貫頭衣のような服装をしていた。
それが、ズボンにシャツといった俺と比べても大して代わりの無い格好だ。
そこにマントを羽織っている。
なかなか様になっているな。
これから向かう街だと、格好が浮くのだろう。
「カイン、頑張ってくるんよ。」
「わかってます。父さんもお元気で。」
「うむ。心配は無用だ。安心して出掛けるといい。」
「ありがとう、叔父さん。父さんの事よろしくお願いします。」
家族で可愛がっている子どもを、送る親の気持ちを考えると来るものがあるな。
こんな家族を作るチャンスが俺にもあったのかな・・・
いや、今は考えるまい。
考えるとちょっと悲しくなってくる。
「んじゃ、カインの事頼むよ、兄さん。」
そう言って、手を差し出してくる。
ん?なんだ?
「飛ばされ者の間で挨拶って言ったら握手なんだろ?そのくらい俺も知っとるよ。」
「そうなのか。」
「ま、これも防人に伝わる伝承のお陰なんだけどね。」
俺は、差し出された手を握り返す。
手に込められる力が強いな。
「うむ。また訪れてくれ。」
グルガストとも握手をする。
こちらもゲインと同じように強く握り返してくる。
二人とも相当心配なのだろうな。
「さて、そろそろ行こうか。」
「わかりました。」
二人と別れの挨拶終えて、家の外に出る。
カインが先導してくれるので、それについていく。
「フィーネには挨拶しなくていいのか?」
「姉さん、泣いてしまいそうだから挨拶はいいって・・・」
「そうか・・・」
しばらく、会話も無くただ歩く。
今のうちに、先程二人と握手したときに獲得したスキルを確認しよう。
もう、癖みたいになりつつあるな。
別れの最中にこんな風に、スキルをコピーしてしまうとか、自分でもどうかとは思うのだが・・・
槍熟練(LV.1)・・・槍の扱い方が上手くなる
解体・・・あらゆる生き物の解体が上手くなる
“解体”のスキルは非常に有用だと思う。
レベルの存在するスキルではないようだし。
前を歩くカインが不意にこちらに振り向く。
一体どうしたのだろうか?
視線の先は頭の上。
つまりトゥーンに向いているようだ?
念話で、何か話をしているのだろう。
そういえば、カインも“意思疎通”のスキルを保持しているんだったな。
それならばと思い、念話でカインに話しかけてみる。
『トゥーンと何話しているんだ?』
『えっ、誰?もしかして・・・』
驚いた表情で俺を見る。
「念話で話し出来るんですか!」
「まあな。」
俺が念話を出来るとは、思ってなかったのだろう。
薄く笑いを浮かべる俺の頭を叩くトゥーン。
一体なんだ?
『せっかく三人とも話が通じるようになったのに、俺様をのけ者にするな!』
『そんなつもりはないぞ。』
『そうだよ、トゥーンくん。ただ、クルスさんが念話で話しが出来るなんて思っても見なかったから。』
『え?知らなかったのか?』
『えっ、うん。』
それは仕方ないだろう。
俺のように、人のスキルを覗き見することなんて、普通出来ないみたいだからな。
わざわざ俺から教えてやるつもりも、そもそもなかったし。
なんなら、トゥーンから教えていると思っていたくらいだ。
調子にのせたら、色々話してしまいそうな、お調子者なところがあるからな。
『なんにせよ、これから三人(二人と一匹とは言うまい)で仲良くやっていこうか。』
『おう!仲良しが一番いいな!』
『はい!お願いします。』
俺たちは、抜けなくてはいけない森に向かって、下らない話をしながらなら、草原を歩いていった。
いよいよカイン君の旅立ちです。
クルスの手癖がどんどん悪くなっていく・・・
これまでクルスが、カインとトゥーンの念話での会話の内容が分からなかったのは、言ってみれば受信機はあるけど周波数が合ってなかったというような感じです。
説明がわかりづらい?
名前 クルス・カミヤ
性別 男
年齢 18
スキル
神眼、複写
体力増大(LV.2)、敏捷増大(LV.2)
腕力増大(LV.2)、魔力増大(LV.2)
精神力増大(LV.2)、命中補正(LV.1)
短剣熟練(LV.1)、槍熟練(LV.1)
打撃(LV.2)
火魔法(LV.2)、水魔法(LV.2)
風魔法(LV.2)、土魔法(LV.2)
強奪(LV.1)、気配遮断(LV.1)
隠蔽(LV.1)、加速(LV.1)
自然治癒増大(LV.3)、状態異常回避(LV.1)
成長促進、意志疎通
解体
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