才能
「こりゃ!わたしのはなしをちゃんときくのじゃ!」
萎んでいく気持ちに活を入れるように少女は叫ぶ。
いや、単純に話を聞かない自分に頭に来ただけかもしれないが。
虚ろになった目で少女を見据える。
「うむ。ようやっとはなしをきくきになったようじゃな。」
「あー、そのなんだ?いまいち話が飲み込めてないんだが、確かに俺は死んじまったのか?」
「うむうむ、そのとおりじゃ。」
「それでなんで俺はここに?」
「じゃから、さっきいったとおりじゃ。まじめにいきてきたおんしはべつのせかいでいきてもらおうとおもうてな。」
「それはどういう・・・」
どういう事なんだ?
死んだ俺を生き返らせる?
それに別の世界?
そんなものがあるのか?
驚くほどピンとこない。
いや、当てはまるものならある。
学生時代に読んだ小説にそんな風な話が幾つかあったような気がする。
「どうするのじゃ?いやならことわってもよいのじゃが。」
「断ったとしたら?」
「ほかのしんだれんちゅうとおなじでしんぱんうけてもらうの。」
「審判?」
死んだ後に受ける審判というと閻魔大王が出てきてって言う話だろうか?
昔話でよく出る話だ。
死んでしまったならそれも有りか・・・?
「で、どうするのじゃ?せっかくだしわたしのていあんをうけるのをすすめるぞ。」
「・・・分かった。取り合えず詳しい話を聞かせてもらえないか?それに君は誰なんだ?」
折角だしか・・・
確かにこんなファンタジーな話、なかなか体験出来るものじゃない。
一度は死んだ身だ。
物は試しという言葉もある。
やってみなければ、体験してみなければ分からないこともある。
それに目の前の少女も何者か分からない。
「うむ。べつのせかいでいきてもらう。それだけじゃ。」
簡潔で良いが、詳しい話とは程遠いな。
「それとわたしは“アマテラス”じゃ。」
「“アマテラス”?」
アマテラス・・・天照?
たしか日本の神話に出てくるとても有名な神様だったか。
そんな神様がこんな幼い少女?
「そうじゃ、わたしでよんだいめになるのじゃ。」
「四代目?」
神様って代替りするもんなのか?
先代、先々代なんかは何してるんだ?
まさか神様が死ぬとは思えないし。
「しょだいは、おそらのうえでみんなをみまもっておられる。せんせんだいはしごとしたくないといっていんたいされた。せんだいはりょこうにいっていていまいない。」
ちょっと寂しそうな顔を浮かべる“アマテラス”。
神様の世界も案外変わらないのかもしれないと思わされてしまう。
それにしても、初代はともかくあとの2柱・・・
「これから向かおうという世界はどんなところなんだ?」
空気を変えるべく話を振る。
神様に気を使うことがあるとはおもわなんだ。
「そうじゃのう・・・わたしもよくしらないんじゃが・・・せんだいが、げーむみたいなとこだっていえばよいといっておったのう。あと、まほうがあふれてるってつたえればだいたいわかるといっておったわ。」
「ゲーム、それに魔法か・・・」
魔法が溢れる世界。
それは確かにゲームの世界だ。
「それでべつのせかいにいくものにはせんべつ?をあたえることになっておるのじゃ。そのひとのさいのうをひきだしてやればいいときいておるぞ。」
そう言って一度目を閉じ、再び目を開く。
そしてじっと俺の目を見つめる。
不思議と目を反らすことができない。
何かに見入られるというのはこういうことなんだろう。
「すごいのう。たくさんのさいのうにあふれておる。のぞき、ごうとう、ぬすっと、すり、さるまね、さぎし。すごいのう。」
覗き、強盗、盗っ人、スリ、猿真似、詐欺師?
とてもじゃないが今まで生きてきて全く縁の無い言葉たちだ。
唯一、仕事を始めたばかりのとき、先輩の仕事を真似ることで直ぐに覚えることは出来たが。
「むこうのせかいはすきる?というのがあるようでな。それをうまくげっとしてつよくいきるのじゃ。」
トテトテと卓袱台を回り此方に来ると、俺の額に手を当てる。
「うむうむ。これでよいのじゃ。これでさいのうがかいかしているはずじゃ。」
「・・・」
まったく変化が無いように思うがどうなんだ?
「じぶんのすきるをみてみるのじゃ。すてーたすおーぷんといってみるとよいぞ。」
取り合えず従ってみることにしよう。
「ステータスオープン。」
すると何もない空中に不思議な板が浮かぶ。
そこには
名前 クルス・カミヤ
性別 男
年齢 18
スキル
神眼、体力増大(LV.1)、強奪(LV.1)、気配遮断(LV.1)、複写、隠蔽(LV.1)
とあった。
年齢がえらく若くなっている。
これも神様の心意気というやつなのだろうか?
そして、この6つのスキルが先程言っていた才能が変化したものだろうか?
能力を数値可まではされてはいないようだ。
「さぁ、せつめいはおわりじゃ。あとはなんとかがんばってみるとよいぞ。よんだいめとしてはじめてのしごとのあいてじゃ。こえはとどかぬだろうがおうえんしておるぞ。」
再び額に手を当てられる。
その瞬間、意識が飛ぶ。
「うむ、がんばるのじゃ。さて、おやつをたべるかのぅ。」
目が覚める。
草の臭いが胸に広がる。
軽く身を起こし、回りを見てみる。
どうやら、森の中のようだ。
青々とした巨木が威風堂々といったぐあいで、いくつもそびえ立っている。
「そうか・・・ここが・・・」
この日、一人の男がそれまでの生きてきた世界から存在を消し、異世界に一人の男が生まれた。
次話にて、スキルにレベルの概念を導入することにしたので、スキル名の後に(LV.)を追加しました
ブックマークや評価を頂けると、物凄くモチベーションが上がります。
また、様々な感想を頂けるとありがたいです。
今後ともお付きあいのほど、よろしくお願いします。