防人の集落
集落につくと、その中を移動する。
煙の原因となっている調理風景を見てみたいが、そちらの方には向かわないようだ。
集落は、モンゴルなどで使用されているゲルのような建物が幾つか立ち並んでいた。
彼らは遊牧民のような生活をしているのだろうか?
人の姿を見ることは出来ない。
「人っ子一人いないな。」
「煙がすごいからな。皆、家のなかに退避している。」
「それならこんな集落の中で調理しなくてもいいんじゃないのか?」
「この煙で家に使っている布を燻しているんだ。虫を避け、腐食を防ぐ役目もこの煙にはあるのでな。」
「これも防人の知恵か?」
「その通りだ。」
やがて、集落の中でも大きな建物の中に案内される。
周りの建物より大きいところを見るに、集会場か村長の家といったところか?
入り口に誘われるので、中に入る。
中は煙が侵入することはなく、気密性の高さがうかがえる。
特に間仕切りなどが存在してはいない。
そして、敷き詰められたカーペットの上に、三人の男性が座っていた。
彼らの顔には特にペイントをされている様子は無く、表情を知ることができる。
彼らは俺達が入ってきたことに気付いたのだろう。
こちらを見ると、怪訝な表情を浮かべる。
「フィーネ、御苦労。」
「よう、帰ってきたね。」
「姉さん、お疲れ様でした。それで、お隣の方はどなたです?」
「父さん、叔父さん、カイン只今戻りました。こちらは、森の石碑で出会ったクルスといいます。それとハンタースクイレルのトゥーンだそうです。」
彼らに、フィーネが紹介をしてくれる。
フィーネの言葉に、カインと呼ばれた少年以外の二人の表情が変わる。
こちらを睨み付け、敵意を露にする。
そんな空気の変化を気にしないで、カインは
「トゥーン君ていうの?こっちおいでよ。」
と手招き。
手招かれて首を傾げるトゥーンを見て、一緒に首を傾げていた。
やがて、トテトテとカインの元へとトゥーンは近づいていく。
「カワイイー!!」
と、言いながらトゥーンの頭をわしわしとなで回し始め、トゥーンもなすがままになっている。
「カインは防人としての血が濃いのか、かつてのご先祖と同じように、獣と意思の疎通をとることが出来る。」
フィーネの言葉に理解を示す。
確かに様子を見ていると、時おり会話をしているかのように目を合わせている事がわかる。
「それで、そこの客人は何者だ?」
「そうね、そこ重要だわ。」
「彼は飛ばされ者です。」
「何・・・」
「ほんとかい!そりゃ、ビッグニュースやね。」
彼らにとって、飛ばされ者という存在は重要なものなのだろうか?
そのワードが出るだけで、あっさり敵意を引っ込める。
「よく飛ばされ者を、我らの前に案内してくれた。」
「伝承の通りやね。」
伝承?
かつても、俺と同じように向こうの世界からこっちに飛ばされてきた者もいたとは、オーグから聞いていたが。
「どういうことなんだ?それにあんたらは?」
「む?すまない。自己紹介がまだだったな。私の名はグルガスト。フィーネの父だ。」
「そんで、俺っちがこの防人の集落の長やらせてもらっとるゲインだわ。すまんかったね、兄さん。あと、そこで兄さんの連れと戯れてるのが、息子のカインだわ。」
「私からも非礼を謝らせてほしい。」
三人に頭を下げられるとどうにも居心地が悪い。
別に謝罪を求めて言った訳じゃない。
「やめてくれ。別に頭を下げて欲しい訳じゃない。」
「そうやね。確かに周りの皆が頭を下げたら居心地悪いわな。」
「それで、その伝承ってのはなんなんだ?」
「ふむ・・・実はあまりよく知らんのだ。」
「そういうこと。詳しいとこが歯抜けしててな。かつてもいたという飛ばされ者に色々力を借りたみたいなんやけど。」
「うむ。それでなのだろうな。飛ばされ者は厚く歓待するように伝わっている。」
全くもって分からん。
かつての飛ばされ者が、防人の力になった感謝の気持ちからのものだということはわかった。
だが、そこだけだ。
結局、かつての飛ばされ者が何を成したのか分からないままだ。
「それでクルス。この世界で何をしたい?」
「そうだな・・・何も思い付かないな。」
特に思い付くことは無い。
こちらに来てから、生き抜くことを主眼においていたわけだし。
それに目標であった、人に出会うということもひとまず達成できた。
「お?兄さん、何も考えてないん?ま、これから考えりゃええよ?」
「うーん、そうだな・・・あえて何かというなら、何処か近くに大きな街はないか?そこで仕事でも探したい。」
まずはこの世界で生きていく為に、足場を固めなければならないだろう。
それには、一も二もなく仕事を探すのが大事だろう。
「そうか。ならば、案内をつけよう。今日はひとまずこの集落に逗留し、出立するのは明日以降でいいだろう。」
「それは、すまないな。」
「クルス、気にしなくていい。父さんは飛ばされ者に力を貸すことが出来て嬉しいんだ。」
「そうね。俺っちも生きているうちに飛ばされ者をこの目にすることが出来て、嬉しいんよ。あ、集落は自由に見学してくれて構わんから。まだ日暮れまで時間もあることだし、ブラついてみるのもいいんじゃない?」
「配慮を感謝する。」
それもありだな。
この世界の人間がどんな生活しているかを知ることも出来るだろうし、先程の煙の原因もちょっと覗いてみたい。
トゥーンに、集落内を見学していく旨を伝えると、
『俺様も行くぞ!』
と言って、定位置となりつつある俺の頭の上によじ登ってくる。
トゥーンが手元から離れて少し寂しそうなカインはすぐに表情を直すと、
「僕が集落を案内しますよ。それほど大したものはないですけど。」
そう言ってこちらに駆け寄ってくる。
「そうか?それならよろしく頼む。」
「はい、了解です!それじゃ、こっちです。」
元気に返事を返してきた。
「それでは、私は食事の準備をしておきましょう。カイン、失礼の無いように。」
「解ってるよ、姉さん。」
さて、では集落の見学に向かうとするか。
伏線が増えましたね。
ちなみにグルガストとゲインは兄弟です。
厳格な弟とチャラい兄というイメージです。
集落のトップがお調子者って面白いと思ったのですが、それだけじゃバランスとれないですものね。
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今後ともお付きあいのほど、よろしくお願いします。