煙
フィーネの後をついていく。
森は先程と変わらないように見える。
果たして、このままついていって大丈夫なのかなと思う気持ちと、ついていかなくては何の進展もないと思う気持ちの両天秤に揺れる。
揺れたところで、ついていくのを止めるわけでは無い為、考えること事態が無駄な話ではあるのだが。
先程、俺の頭から血を流させるような真似をしてしまったトゥーンは、さすがに頭の上に乗ることはせず、後ろをチョロチョロとついてくる。
それがかえって、気になってしまって仕方がなかったのだが。
今も、ちゃんと後ろをついてきているのか気になって振り返ってみると、こちらを見上げ首をかしげていた。
「クルス、もうじきに視界が開けてくる。」
「そうなのか?そんな風には見えないが。」
「この地は、我々のご先祖である防人の手によって守られている。」
「守られている?」
「うむ。この場所は鎮守の森と呼ばれる、クルス、お前が歩いてきたという森を、侵入者から遠ざける為にあった場所だ。鎮守の森はかつてほどの力は無いものの、それでもこの地を守り続けていることには変わらない。」
「それで?」
「そして、その鎮守の森を守る為、この地には結界が張られている。この地を通らねば、鎮守の森に踏みいることは出来ない。」
つまり、何かを守る鎮守の森を守るために結界の張られた土地がここだということか?
ややこしいな。
つまり、防人というのは鎮守の森を守護する一族のようなものか。
確かに、人の手が入ったような痕跡はなかった。
『なーなー、何て言ってんだ?』
そうか、トゥーンには何を言っているのか分からないんだったな。
かいつまんで、説明してやる。
『・・・なんだと。』
『うーん、よくわかんない。森守ってた人ってことでいいのか?』
『そういうことなんだろ?』
『じゃあ、いいやつなんだな!』
変わらずの楽天的思考だ。
お陰で気持ちが楽になるのは内緒だ。
何の為に鎮守の森を守り続けていたのだろうか?
そもそも鎮守の森とは何を守っているのか?
謎が出来てしまう。
さて、いよいよ視界が開けてきた。
木々も減り、平地が広がっていた。
「さぁ、結界を抜けた。後ろを見てみると結界の意味が分かると思う。」
そう言われ、後ろを見てみる。
当然ながら森が広がっている。
が、何処から出てきたかが分からない。
それほどに、木々が密集しているように見える。
「なるほどな。通ってきた道が分からない。」
『そうか?俺様は分かるぞ!』
俺には全く分からないが、どうやらトゥーンには分かるようだ。
どういうことなんだろうか?
帰巣本能でも働いているのだろうか?
「さて、ついてきてくれ。我らの集落はあそこだ・・・何があった?」
フィーネが指し示すほうを見ると、確かに建物がみえる。
そして、そこからは煙が上がっていた。
「なんだ?煙が上がっているな。」
「恐らく食事の準備をしているのだろう。気にするな、いつもの事だ。」
だと言っても、煙が上がりすぎじゃないか?
一見すると、大火事でも起こっているかのようだ。
「にしても、上がりすぎだろ。」
「燃料として利用している木が少々変わっていてな・・・あえて、煙が大量に出るものを使用している。焼くだけじゃなく、同時に燻して薫製も作っているんだ。」
「面白いこと考えるもんだな。」
「昔から受け継がれる防人の知恵の一つだな。」
少し自慢げなフィーネだ。
口角が上がるのが見てとれた。
先祖伝来の技術に自信と誇りがあるのだろう。
そして、煙が今もなお上がり続ける集落へとたどり着く。
俺もトゥーンも目を細める。
それほどに煙たいのだ。
いや、本当に大丈夫?
「さぁ、着いた。ようこそ、クルス、トゥーン。ここが防人の末裔の住まう集落だ。」
そう言いながら振り替えるフィーネも目を細めていた。
フィーネも煙たいのか。
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