ベッラへ帰る
久々の宿屋ということもあり、ベットの感触を楽しむ。
そこまで上等な物ではないが、それでもやはり野宿とは違って、安心感がある。
それに、のんびりと出来るのは、非常にありがたい。
それは、アルクやカインも同じようで、早々にベットに潜り込んでいるのが、見てとれた。
トゥーンとバルは、いつも通り適当に眠るので、場所を選ばないが、さすがに俺はそんなわけにはいかないからな。
ジャネルはさすがというか、そんな素振りは見せなかった。
まったりとした時間を楽しんでいると、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
窓から差す光で、心地よく目を覚ます。
ぐっと伸びをする。
体の調子は良いようだ。
朝食を済ませると、すぐに出発をすることにした。
ここまで来てしまえば、追手が来ることは無いだろうが、それでも用心にこしたことはない。
それに馬車が無い以上、一日の移動距離は、たかが知れている。
本当なら、急ぐ旅じゃないんだけどな。
「この街ともお別れですね。」
「そうだな。まあ、良い思いでなんか無いから、なんの感慨も無いけどな。」
「でも、ポールさんにも出会えましたし。」
「まあな。お陰で、面倒事が思いっきり降りかかって来たけどな。」
ロウルを抜け、ベッラを一路目指す。
馬車での景色は見ていたが、徒歩でとなるとどうだろうか?
などと、始めは思っていたが、すぐにそんなものを気にしなくなる。
何せ、変化がほとんど無い。
それでも、魔の森が見えてくると、ようやく帰ってきたという感覚が生まれてくるから不思議なものだ。
「うーん、何か気になるな・・・」
「どうしたんだ、ジャネル。」
「いや・・・どうも良い予感がしねぇな。おい、お前ら。俺は先に行くわ。」
それだけ言って、行軍のペースを一人上げるジャネル。
右に左にと蛇行する道を無視して、一直線に真っ直ぐ進み始める。
いったい、どうしたというんだ?
それまでの余裕は何処へやら。
何故か焦った様子だ。
「おい、いったいどうしたんだ。」
「どうにも嫌な予感がする。俺の姪っ子センサーがビンビンに反応してやがる。」
「は?」
「お前らはのんびりと行けよ。俺は先を進む。」
そう言って、森の中に入って行ってしまい、すぐに姿が見えなくなってしまった。
だが、確かにここを進んだと分かる。
スルスルと、木を避けていくかと思ったが、全てなぎ倒して進んで行ったからだ。
ブルドーザーかよ。
もう訳が分からん。
アルクと顔を見合うと、揃って苦笑を浮かべる。
『あれ、スゲーな!俺様もやってみてー!』
『いや、止めとけよ。』
「ワウッ!」
「いや、バルも止めとけ。」
テンション上がる獣二匹を宥める。
ジャネルに結構懐いていたからな。
それを真似したいということか?
いや、トゥーンならやりかねないから、そこは止めとくべきか。
風を起こしたり、火を撒き散らしたりされたら、かなわないからな。
二匹を宥め、一路進路を行く。
ジャネルが離れた後、魔物との遭遇率がぐんと下がった。
無理な移動をするジャネルを察して、森の奥にでも下がったのか。
それとも、ジャネルの移動に巻き込まれて命を散らしたのか。
人すらなぎ倒して進んでいきそうな感じだったからな。
移動を続け、ようやくベッラに着いたのは、それから2日後の昼頃だった。
見覚えのある壁が、俺達を出迎えてくれる。
何とも色気の無い出迎えだが、それはそれでいい。
何だか知らないが、その壁を見たら、帰ってきたという郷愁に近いものがあったからだ。
いつの間にか、完全にこの世界に染まりきってしまっているという事なのだろう。
いや、好き勝手にやらせてもらっている人間が何を言っているのか。
自嘲にも近いものがあるか。
入り口を潜る。
見覚えのある門番に、軽く手を上げて挨拶をすると、向こうも「よく戻ったな。」と返してくれるのが、また嬉しかったりする。
街の中に入り程なく行くと、アルクが立ち止まりこちらを向いた。
「さーて。俺は冒険者ギルドに戻るぞ。」
「そうか。じゃあな、アルク。」
「ああ、お疲れさん。つっても、俺はここからが大変だけどな。報告書に、溜まった業務。しんどいな。」
「そこは頑張れ。俺は行かないぞ。」
「どうせ来ないと分かってたよ。じゃあな。カインもまた。」
「はい。お疲れ様でした。」
「ああ、お疲れ。」
そうして、手をヒラヒラさせて去っていく。
残された俺達はと言うと、ひとまずは宿に向かう。
いつも通りの常宿となりつつある、“森の人亭”へと向かう事にした。
久々に。
少々、駈け足気味だったかもしれませんね。
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