世紀末覇者の正体
関所を越えることが出来たのは僥倖だ。
だが、何故か先程の世紀末覇者がついてくる。
これは一体どういうことだろう?
見た感じからして、この国の騎士ということは無いだろう。
だが、そうだとしても何故についてくるのだろう?
チラチラとこちらが様子を伺うようにすると、ニカッとおそらく爽やかな笑顔を浮かべるのだ。
顔の作り上、爽やかにならないのが難点ではあるのだけども。
なんならトゥーンはズーッと後ろを向いているようだ。
いつも通り俺の頭の上にいるのだが、その感触でどちらの方向を向いているのかわかるくらいになってしまっていたりする。
さすがに延々とついてこられると気になるものだ。
おそらくはこの先にあるアッガが目的地であることは疑いようもない。
とはいえ、タイミングを計ったかのようにこられるとどうにも気持ち悪い。
誰も聞こうとしないし、仕方ない。
俺が聞くしかないのだろう。
何となく目線で皆が訴えかけてきているように感じた。
「ちょっといいか?」
「おう、どうした?」
「あんた、どこまで俺たちの後をついてくるつもりだ?」
「いやな、ベッラまで行きたいんだがな。一人で向かうのはなんか寂しいだろ?旅は道連れ何て言うし、誰かしら来ないかと待っていたんだ。」
「ということはたまたま俺達が通りがかったから付いてこようと思ったと?」
「そうだな。ベッラまでは行かないかもしれないが、この方向は確実にアッガまでは行くだろ?それなら別に構わないだろ?」
そんなことをぬけぬけと言われてしまう。
確かに俺達はまず確実にアッガへと向かう。
だけれども同道を了承した覚えはない。
まぁ、正直な話付いてきたところで俺達にとって無害な存在であるのなら構いはしないのだが。
何せ風貌がな。
それにおそらくはトゥーンも警戒し続けているのだろう。
この男との話の最中も凝視しているようだ。
それに本当にこの男が俺達に向けられた刺客ではないという保証は無い。
だが相手取って戦うとなると厳しそうな気がする。
それに向けられた刺客であれば既にこちらに攻撃を仕掛けてきているだろう。
それが無いというのなら、違う可能性もあるというものだ。
「ま、警戒するのも分からなくは無いがな。」
「ふぅ。いや、いい。何となくだけど戦ってもろくなことにならない気がする。」
「それは直感か?だとしたら大したものだな。確かにそいつは止めといた方がいい。」
「あんた、名前は何て言うんだ?せめてそのくらいは知っておいてもいいだろ?」
「俺か?隠すような事でもないしな。俺はジャネルという。見た通り冒険者何てもんをやってる。」
そう言ってガハハと朗らかに笑う。
その名前に反応したのはアルクだ。
ばっと振り返る。
急にどうしたというのだ。
「もしやと思っていたが、本当にあのジャネルさんか?」
「どのジャネルさんか知らねぇが俺はジャネルだな。」
「そうか!やはり豪炎のジャネルか!」
「誰だそれ?」
「何だクルス?お前知らないのか!あの豪炎のジャネルだぞ!」
興奮気味にアルクが返してくる。
そんなに有名人なのか?
首を傾げる。
だが俺の記憶の中にそんな名前は今までで出てきた覚えはない。
二つ名付きのところをみれば有名なんだろうけど、やはり知らないな。
「まぁ、そんなわけで同道しても構わないか?」
「ええ、光栄です。」
あー、完全に有名人に会って頭がのぼせてしまっているようだ。
こんなアルクを見たのは初めてだな。
カインに向けて手を竦めるような素振りを見せると、苦笑いを浮かべているのが分かる。
『何だ?本当にあいつついてくんのか!』
『あー、そうみたいだな。トゥーンは嫌か?』
『別に嫌じゃないぞ!それに、あいつ中々お喋りだしな。結構楽しいぜ!』
『お喋り?そうか?』
『何だ?本当にお前も念話が出来るのか。なるほどな。トゥーンが言っていた通りだな。』
『へっ?』
俺が驚いた様が面白かったのか、してやったりという表情だ。
しかし、ジャネルの言をそのままの意味で取ると道中トゥーンと話をしていたということになる。
だからずーっとジャネルの方を向いていたというわけか。
警戒していた訳じゃないんだな。
それならそれでいいか。
トゥーンが危険が無いと判断したなら、多分大丈夫だろ。
「おいおい、そろそろ先に進まないか?」
足を止めての会話にどうもなってしまっていたらしく、ポールが先を急げと急かしてくる。
それに軽く手を上げて応えると、俺達は歩を進めていく。
それから何日かかけて、ようやく俺達はアッガにたどり着いた。
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