飢えと渇き
鬱蒼と生い茂る木々の隙間を縫うように歩みを止めずに歩き続ける。
時おり見られるカラフルな発色の花々が目を楽しませてくれる。
小動物や虫がひょっこり顔を出すと、トゥーンが追っかけようとするので、それを制止したりで中々に忙しい。
『西に何があるのかなー。今まで行ったこと無いんだよなー。』
『何か今後の指針になるものがあるといいんだが・・・』
『そう難しく考えるなよー。俺様がついてんだしな!』
『・・・そうだな。今からやきもきしても仕方ないな。』
ここは、楽天的な考え方をするトゥーンの意見に従っておこうか。
何が待っているかはわからないが、いや何も無いかもしれないが、それでも行ってみなければわからない。
期待しすぎて、拍子抜けする何て事はこの世の中ざらにある。
『それにしても、目的地はかなり遠いのか?』
『うーん、どうなんだろ?大体、お日様が2回くらい昇れば着くんじゃないかな?』
『それは骨が折れそうだな。』
どうやら目的地までは、まだまだ距離がありそうだ。
そうなると、心配になってくるのが食糧だ。
昨日はリンガの実にありつけたが、今日はどうだろうか?
トゥーンとのドタバタのせいで1つも持ってきていない状態だ。
道すがら何か見つかるといいんだが・・・
気付けば太陽がかなり高い位置にいる。
そろそろお昼頃なのだろう。
ひたすら歩き続けるのは、中々に辛い。
いくら“体力増大”のスキルを持っていたとしても疲れるもんは疲れるのだ。
『少し休憩するか。』
『おう!そうだな!歩きっぱなしだったもんな。』
『いや、トゥーン。お前ずっと俺の頭の上でふんぞり返ってただけだろ。』
『ずっと乗ってるのも案外疲れるんだぜ。』
そうですか。
それはお疲れ様でした。
適当な木を背にして座る。
それにしても、食べれそうな物は何も見つからなかった。
さすがにこのままでは不味いな。
『トゥーン、昼はどうするんだ?』
『えっ?昼?』
『昼食だよ。そろそろ腹減ってこないか?』
『おー、確かに減ったなー。早く食べようぜ!』
『いや、何も持ってないから。』
『なんだよ、それ!俺様、腹減ったぞ!』
『俺もだよ・・・』
食糧を持ち合わせていないことに憤るトゥーンと恐らくそういう反応をするだろうと思っていた俺との温度差が凄いな。
しかし、どうしたもんか・・・
『くそっ!こんなことなら残っときゃ良かった!』
『今ならまだそんなに離れてないから、戻るなら今だぞ。』
『なっ!冗談に決まってんだろ!』
慌てて否定するトゥーン。
今更戻ろうなどとは思わないようだ。
俺がトゥーンだったとしても、同じ反応をしたかもな。
出てすぐに戻るとか、情けないにもほどかあるものな。
そうは言っても、これ以上無理という線引きはちゃんとしとかないと。
いくら恥ずかしいからといって、腹の減りすぎで動けないなんて方が余程恥ずかしい。
食糧はおいおい探すとして、水が無いのも困り者だ。
むしろ、こっちの方が問題だったりするのだ。
だが、今の俺には魔法がある。
水魔法を使用すれば、飲み水くらいは用意出来るのではないか?
全て行きあたりばったりで進んでしまっている、今の状況に少し笑いが込み上げてくる。
かつての俺であれば、このような事はなかっただろう。
用意周到とまでは言わないものの、行動を起こす前は、それなりには準備をしていたはずだ。
あの頃に比べて、思慮深さが足りない気がする。
それはともかく、まずは水だ。
これまで魔法なんてものを、使ったことがない。
ちょうど頭の上には、魔法を使う事の出来る存在がいる。
コツの一つでもわかれば儲けものだ。
『ところでトゥーンって魔法つかえるか?』
『おう!出来るぞ!』
『魔法使うコツとかってあるのか?』
『うーん、イメージだな!俺は風魔法くらいしか出来ないけどな。ちょっと見てろ!』
どうやら実践してくれるようだ。
ちょっと期待してしまうな。
「キュキーーーーー!」
頭の上から降りると、泣き声をあげる。
すると、強い風が目線の先で吹き抜けていくのが分かる。
木の枝が、草花が風に吹かれて揺れている。
『どうだ!』
『へー、大したもんだ。』
『そうだろ!』
胸を張るような仕草を見せるので、頭を指先で撫でてやる。
さて、何となくわかった気がする。
これがスキルをとる前なら、わからなかっただろうな。
指先に水でできた球をイメージする。
すると、小さな水の球が空中に本当に生まれる。
さすがにこれだけでは足りない。
意識を集中させ、より大きな球になるようにイメージを広げる。
それに倣うかのように水の球は少しずつおおきくなっていく。
水の球を生み出している手とは反対の手で、その水の球から掬うように水を汲み上げてみる。
水の球が若干小さくなるが、それは致し方ない話だ。
飲んでみると、普通に飲める。
魔法で産み出したとはいえ、飲むことが出来る。
少し不安だったが、これで問題の1つは解決したな。
水を再び汲み上げて、トゥーンに差し出すと喉が乾いていたのだろう。
手に吸い付くような勢いで、飲んでいるようにみえた。
『あー、うめー!クルス、魔法使えたんだな!』
もっと飲みたいとせがむので、水の球を目の前に出してやると、直接頭を突っ込みガボガボと飲んでいる。
はた目に見ると、溺れてるみたいだな。
しばらく飲み続け、満足したのだろう。
頭を引っ込めて飲むのを終える。
それを見届ける。
次は俺の番だな。
コップの1つも欲しいところだ。
再び水の球を産み出すと、それに口を直接当てすするようにして飲む。
喉の渇きが癒えると、空腹感が襲ってくる。
しかし、これに対してはなすすべがない。
仕方ない。
あまり考えないようにして、体を休ませる事にした。
初の魔法の使用方法は喉の渇きを癒すでした。
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