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朝食

日が明け、俺達は目を覚ます。

体の調子は良好なものの、精神的にはある程度のダメージが残っている。

とはいえ、このままのんびりとしているわけにもいくまい。

この国の王が死んでいるということに。

そして、それを公表していないという事実を知ってしまった以上、この場にとどまり続けるのは危険が高いというのは、誰の目にも明らかな話だろう。


この国の第三王子であるポールは、とても見ていられないほど気落ちしていた。

それでも何とか少しでも眠りにつくことが出来たことで、昨日王城から逃げ帰る時よりは幾分落ち着いているようではあるが。

が、それでも今は感傷的になっている余裕は幾らも無い。

立ち直れとまでは言わないが、それでもこの窮地を抜け出す算段をせねばならない。

昨日、泊まっていた宿を襲われたことから、この国の中枢からは敵対視されていることは明白だ。

となると、簡単にはこの街から抜け出すことも出来ないのだろう。

出入りを見ている門を潜り抜けるのは至難の技といっていい。

おそらく、俺達は指名手配のような形で既に知られてしまっているのだろうから。

俺達の姿を確認していた者達はすでにこの世にはいない。

そのため、ぬけぬけと出ることも可能な気もしなくもないが、それは楽観的な考えが過ぎる気がする。


重苦しい空気が部屋を支配する。

今なお会話は起こらない。

各々が、これからどうすべきかを考えているのだろう。

もっとも、考えたところで答えは逃げるの1択で、どのように逃げるかが問題なわけだが。


「取り合えず、朝食にしませんか?」


そんな空気に堪えかねたのか、カインが言葉を発した。

それに対してこれ幸いとばかりに俺もアルクものっかる。


「それはいいな。昨日あれだけ動いたんだ。腹の一つもへってるだろ?」


「そうだな・・・多少なりとも食べた方が良いだろう。その方が頭も回るというものだ。」


「では、朝食にしましょう。ポールさんも良いですか?」


カインをちらりと見ると、静かに首を縦に振るポール。

これからの行動は先送りの棚上げをして、一先ず食事を取ることにした。

いつの間に準備していたのか、アンリが部屋の中央に置かれていたテーブルに食事の用意をしていく。

皿を四枚それぞれに配置し、中央にはバスケットを置いていた。

その中にはサンドイッチが並べられている。

その様子に驚いたが、してやったりといった顔をしているアンリを見るに、昨日この宿に着いたときから考えていたのだろう。


『俺様は止めておこうかな。』


『なんだ?珍しいな。』


食べ物を前にしてトゥーンが遠慮するとは珍しいこともあるものだ。

まだ、早朝と呼んでも差し支えの無い時間ということもあってか、まだ食べ物を受け入れる体制が整って無いのだろうか?

一言俺に告げると、丸くなってしまった。

バルも動き出す様子が無い。

食意地の張った二人がこんな状態になるのも珍しい。

が、まぁそれはそれだ。

後で食事を取れば良いだろう。


はてさて、味はどうだろうか・・・

皆無言のままサンドイッチに手を伸ばす。

そして一口。

その瞬間体中に衝撃が走った。

なんだこれは?

サンドイッチを持つ手が震える。

その震えの理由は言わずもがな。

強烈な不味さなのだ。

生臭さと青臭さとが渾然一体となって、口の中を大暴れしている。

道理でトゥーンもバルも動き出そうとしないわけだ。

しかし、確か調理スキルを保持していたはずだが、何故このようなことになっているのだろうか?

同時に口にしていた三人を見回すと、皆同様に体を震わし顔をしかめていた。


「これは・・・なんだ?」


「なんとも言えない凄まじい味ですね・・・」


「それより水は無いのか?」


「びっくりするくらい不味いな。」


ポールのみ直接的な言葉を使って感想を述べた。

俺達は気を使ったというのに、ポールはそんなつもりは無いようだ。

だが、その発言を聞いてアンリは満足そうな笑顔を浮かべた。


「元気が無いようでしたので、ちょっとイタズラさせてもらいました。」


「これがちょっとか?」


「ですが先程までと比べても大分良い顔をしていますよ。」


「そうだろうか?」


「ええ、一時的にではありましたが。」


感情に揺さぶりをかけるために、わざと不味い食事を用意したということか。

確かに、口に合わない不味い物を食べさせられれば、怒気が生まれる。

その怒気を引き出すための食事。

むしろ旨いものを作って、幸福感の側面から感情を動かしてほしいとは思うが、やはり人間は怒りを呼び起こした方が手っ取り早い。

ただ、それに俺を巻き込まなくてもいいんじゃないかと思ったが。


「さて、頭も完全に覚醒したようですし、これからどうなさいますか?」


「うん、父上が亡くなってしまっている以上、王位の返上もなにもないだろう。今後どうするか、詳しい話はアッガに戻ってからにしよう。」


「それに賛成。どうにかしてこの街から逃げ出さなきゃいかんよなぁ。」


「しかし、どうするつもりで?」


「何、この街は庭のようなものだ。隠し通路を使いこの街から抜け出す。王城に入り込む抜穴があるくらいだ。塀より外に抜け出れる抜道位知っている。」



ブックマークや評価を頂けると、物凄くモチベーションが上がります。

また、様々な感想を頂けるとありがたいです。

今後ともお付きあいのほど、よろしくお願いします。

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