王との対面
寝所の扉を開くと、バルは一目散という言葉がまさに当てはまるかのような動きで部屋から離れていった。
脱兎のごとくと言ってもいい。
兎じゃなくて狼のはずだが。
王の寝所はやはりというか、豪奢な造りをしていた。
部屋のなかに置かれた調度品の数々を見る。
“神眼”を用いれば物の価値がわかるだろう。
かなりの価値があるのだろうが、芸術品に対してもともと審美眼をもたないので興味を引かれることはなかった。
ただ単に「高そうだな」と漠然と思ったくらいだ。
それより何より、部屋の内部はえもしれない悪臭がたちこめていた。
これはどういうことだろう。
病を患っているらしいが、そんな状態であるのならばより清潔にする必要性があると思うのだが。
そんな俺の疑問も一瞬で解ける事になった。
部屋の中央に鎮座するかのように据えられた、これまた綺羅びやかな作りのベッドに近づいていく。
おそらくは王のために設えられたものだというのは、想像に難くない。
そこで俺達は息を飲んだ。
「父上ー!!」
ポールが叫び声を上げる。
そこに横たわっていたのは、おそらく王であった者の亡骸だったのだから。
体は腐敗が進み、顔も原型をとどめてはいない。
その身に纏う夜着や装飾品でおそらくという予想をたてる事しか出来ない。
その場に崩れ落ちるようにして、ベッドに寄り添うポール。
これは一体どういうことだ?
これでは不要になった王を幽閉し、殺してしまったことに他ならない。
第一王子が取る治世に現王は必要ないと切られたのが濃厚だろう。
しかし、これでは目的を達成する事が出来ない。
ポールの望みは自らの王位相続の権利を返上することだったはずだ。
そのために危険な橋を渡ってきたというのに。
だが、考え方を変えればもう王位相続の権限など有していないと考えられる。
よしんば、まだ残っていたとしてもとても認められるものでは無いだろう。
となればこの状況でやることは一つ。
いち早くこの城から抜け出ることだ。
それと、もう一つあったな。
こうなってはポールからの報酬に期待など微塵も出来ない。
冷たいかもしれないが、ここまで何とかつれてきたのだ。
それなりに見合う対価を得なければ、ただ働きになってしまう。
結局“神眼”を発動させ、価値の高そうなそれでいて持ち運びのしやすそうな宝飾品を探して部屋中を見回す。
そして、手頃な物をいくつか拝借する。
そんな俺の行動をアルクやアンリは気づいていたが、制止することは無かった。
カインは憮然とした表情で何かを訴え掛けてきていたが、それは見えない振りをしておいた。
一通り物色し終わると、俺は王の側で泣き崩れていたポールのもとへと向かう。
「すまないが、そろそろ城を脱したい。これ以上この場にとどまっても仕方ないだろう。」
「そう・・・だな・・・だが・・・」
「さすがにそこまで時間はとれない。王がこのような状況である以上、もう俺たちにできることなんかない。ポール、王の仇討がしたいなら、一度体制を整えてから行うべきだ。」
「仇討・・・そうだ!」
「俺はこれ以上は協力しない、何があろうと。」
何かを思い付いたような表情をしたポールだが、何を思い付いたかも想像しやすい。
思考誘導したような気もするが、それには協力出来ない。
何せ俺は忠誠を誓う騎士でも何でもなく、ただの冒険者なのだから。
一介の冒険者が知るのはあまりに危険な事を目撃してしまっているが、何も言わずにこの国から立ち去り、二度と近づく事をしなければ自らが被る可能性のある火の粉を払うことも容易いだろう。
俺の言葉に歯噛みするようなポールだが、さすがにこれ以上はいけない。
カッとなってここまで来てしまったが、もうここより先には立ち入るべきじゃない。
アルクとカインを見やると、同意を示すように首を縦に振った。
「成したいことがあるなら、自分でやってくれ。俺達はここから脱出する。外に出るというなら共に来ればいい。」
「・・・分かった。ここより脱しよう。」
そうして、俺達はもと来た道を辿り、城の外に抜け出る事に成功する。
その際、俺達の顔を確りと確認して覚えているはずの寝所を守っていた兵の生き残りは口封じをしておいた。
もっとも、これはアンリが独自に考えての行動ではあったが。
可哀想な事ではあるが、俺達の事をわめかれてもコトだ。
この措置も致し方ないのだろう。
そして、別の宿をにて一晩を明かした。
ただ素直に戻るのは危険と判断したためだ。
出来ればそのまま街の外まで逃げたしたかったが、ポールの今の状態ではそれも叶うまい。
見捨てるという選択肢も頭によぎったが、ここまで来れば一蓮托生。
その考えはさすがに捨てた。
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