圧倒
一合一合が重く、相手に圧をかけていく。
振るう度に、相手の剣を弾き跳ばす。
先程までの動きと違う事に、隊長格の騎士は驚きを隠せないようだ。
今まで圧倒していたはずの相手に、いきなり逆に圧倒されてしまっているのだ。
むしろ遊ばれていると言っても過言ではないだろう。
雰囲気の違いで何かが起きたのは予想出来ただろうが、ここまでの違いになるとは思いもしないだろう。
何せ誰が一番驚いているって、俺自身が一番驚いているのだ。
自分がこんな動きをすることが出来るなど、想像もつかなかった。
先の先を読むような動きなど、余程剣士の理想を体現しているかのようなのだ。
「ふむ。それなりにやるかと思ったが、この程度か・・・」
「何?」
「まだまだ、修練が足りないと言っているんだ。この程度の相手に苦戦をするようではまだまだだな。肉体的な素質はほぼ開花してきていると言ってもいいが、技術が伴っていないからな。」
前半は隊長格に、後半は俺に向けて出された言葉だろう。
悔しさはあるが、自分には出来ない動きを見せられたのだ。
さすがにぐうの音も出ない。
逆にこのような声をかけられるような状況にいたり、隊長格はむしろ冷静さを取り戻したようだ。
自ら飛びかかるような事は無くなり、こちらの隙を伺うような動きに変わる。
だが、それにモルドレッドは動じる事無く、むしろ面白いといわんばかりに仕掛けていく。
隊長格は、それをなんとかいなしてはいるが、その防御を破るのも時間の問題だろう。
気づけば周りで聞こえていた剣戟の音が無くなっている。
どうにもこちらの様子を敵味方それぞれ見つめているようだ。
手に持つ武器を下ろし、距離を取っているようなのだ。
自分達が勝っても、大将である隊長格が破れれば次は自分の番になる。
モルドレッドが振るう剣の癖でも見抜こうとでもいうのだろう。
さすがに空気を読んでか、アンリもこっそりと背後に忍び寄るというような真似はしないようだ。
いつの間にか剣を振るのが二人だけで、周りが見つめるという不可思議な状況の中、モルドレッドと隊長格は剣を振り続ける。
「ふむ・・・受けに回ったのはいいが、どう打開する?」
「ハッ!まだ手の内は出しきってないんだよ!」
「それは重畳。まだ、我を楽しませてくれるか。」
そう言いながら、どんどんと追い込んでいくモルドレッド。
強がってみたところで、力量差が埋まるわけではない。
しかし、遊んでいるな・・・
さっさと片付けてくれればよいものを。
これではまるで相手に修練を積ませているかのようではないか。
そんなことを考えていると、モルドレッドが呟く。
『そろそろ時間か・・・』
『時間?』
『一時的に体を借り受けたが、そろそろこの体をお前に返す。いくら闇との親和性があるとしても、これくらいが我が貴様の体を借り受け続けられる限界だ。後は貴様で何とかせよ。』
『唐突だな。』
『これまでの我の戦い方をもっとも近い所で見ていたのだ。後は託す。簡単にやられてくれるな。』
フッと自分の意識が表層に出てくるのが分かった。
感覚が元のそれに戻る。
だが、今の俺にこいつが倒せるのか?
先程まで、押されに押されていたというのに。
今なら、まだこちらを警戒しているだろうが、動き出せばすぐにバレる話だ。
魔剣を握る掌に汗を感じた。
『その目で見て、自らの体で我の動きを感じていたのだ。この程度の相手に遅れをとることは許さぬ。』
『そう言ってもな・・・』
『なさねばならぬ。我を手にした以上この程度の相手を倒せずしてなんとするか。』
檄を飛ばしてくる。
仕方ない。
ここは腹を括るしかあるまい。
このまま対峙し続けることなど出来ないのだから。
隊長格に向けて俺は剣を振り下ろす。
その剣を受け止められる。
が、動きが違うことが自分にもわかった。
体がモルドレッドの動きを覚えているようなのだ。
全くもって不思議な感覚だ。
いつも通りに剣を振り下ろしたつもりだったのだが、鋭さが違うように思えたのだ。
今なお渋い表情を浮かべる隊長格のその顔が、それを指し示しているだろう。
このまま押しきるしかない。
滅多打ちに打ちまくる。
先程のモルドレッドの時に比べたら、相当防ぎやすいだろう。
それでも相手が防戦にまわっている所を見るに、それなりには出来ているということなのだろう。
そうして、気付けば戦いは終盤をむかえる。
動きに慣れた俺の剣が、一瞬の隙をついて相手の剣をはね上げ、剣を持つ右腕を斬り飛ばす。
やはり切れ味は凄まじい。
これで決着がついた。
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