地下道
夜のオブライエンを俺達は駆ける。
闇に紛れて移動をする。
時折、酒場などの光で顔が闇夜に浮かび上がる。
今は移動中普通に駆けているが、いざ忍び込む段階になったなら足音を消さなければならない。
特殊な歩法が出来るとは思っていないので、王城の中では抜足差足で進まなくてはならないだろう。
さて、忍び込むといっても何らかのルートがないと話にならない。
まさか正面から飛び込む訳にもいかない。
それでは、自分がここにいると喧伝しながら移動していく事に他ならないのだから。
しかし、それは俺の杞憂に終わる。
さすがにポールは王族なのだ。
いざというとき用の出入口があるというのだ。
トラスでも、抜け出すときの話ではあったが、いざとなればいくつか方法があると言っていた。
ならば、ここオブライエンでも同様の通り道はあると思っていたが、にらんだ通りだった。
一般の住宅が並ぶ建物の間をすり抜け、ポールが目的とする場所に辿り着いた。
はた目には周りの建物と同じだ。
静かに入り口のドアを開け中に入り、皆が入ると静かに閉じる。
何かがあるとも思えないが、一応の警戒はしておくべきだ。
部屋の中は、明かりもなく真っ暗闇に近い。
辛うじて、自分の体の輪郭が分かるくらいのものだ。
ポールからよつん這いで進むように指示が出される。
移動しにくい体勢で、闇の中を手探りで進んでいく。
薄ボンヤリとした程度でもいいから、明かりがほしいところだ。
しばらく行くと、地下に降りる階段が表れる。
手探りでの移動の為、思わず体勢が崩れそうになった。
立って歩いていたのなら、足を踏み外して転がり落ちていたところだろう。
そんな暗がりの階段を降りていく。
より光が届かなくなるのか、闇が濃くなったような印象を受ける。
ずーっと降りていくが、底が分からない。
それほどに階段が深く長く作られていた。
いったいどこまで?と考え始めたくらいで底に着く。
右も左も分からない。
それでもポールは明かりを灯そうとしない。
何故なんだろうか?
「もうそろそろ明かりが欲しいですね。移動しにくくて。」
「それは駄目だ。ここには光に反応して動作する仕掛けがある。」
「トラップというわけか。」
「何も知らん奴は、明かりを灯し、普通に歩いて侵入してくるだろ?そういう奴用のトラップではあるんだがな。だとしても、危ないからな。こんなところでくたばりたくは無いだろ?」
「なるほどな。後ろを追ってくる者に対する備えか。だが、それではすぐに逃げ出すことは出来ないんじゃないか?それこそ、王族が逃げ出すための道なんじゃないのか?」
「こことは別にもいくつもあるんだ。非常時に利用するような道では無いな。」
あくまでも今すぐに逃げ出さなくてはならない場合では、使用される所では無いというわけか。
しかし、いくつも城へ辿るルートがあるというのは、良いことを聞いた。
となるならば、出入口も数ヵ所に別れているはずで、ましてや王族が知っているのみであるなら、そこを守っている兵もいない。
もしくは、その場所に出入口があることを知らぬままの、少数の兵で守られている可能性が出てきた。
侵入が感づかれる事が無ければ、楽に移動できる。
少数の兵ならば、応援を呼ばれる前に蹴散らせばいい。
いくら何でも多人数に対してでは勝ち目が薄い。
それが相手の根拠地であれば尚更になる。
やがて、よつん這いで移動を続けるうちに、上層へと戻る階段にぶつかる。
見上げてみるが、光が見えない。
いくらなんでもそこまで深くに潜っているわけではない。
扉か何かでピッタリと閉じられているのだろうか?
光に反応するトラップがあると言っていたし、その対策なのかもしれない。
のっそりとした速度で、俺達は階段を上がる。
この道に入った時よりも上に出入口があるのだろう。
随分と長く感じる。
暗闇だからということもあるのだろうが。
途中で少し休憩を取りながら進む。
これは体力の無い者には、かなりタフな道になるな。
だからこそのトラップなのか?
さて、ようやく階段を登りきり、平坦なところに出た。
これで後少しで、外に出ることになるのだろう。
ポールに従って準備を行い、扉を静かに開く。
そこは物置となっているようだ。
だが価値のありそうな物が見当たらない。
あくまでも物置として使われている場所だった。
当然そんな場所では、兵がわざわざ守備につくわけもなく、ここで一息をいれて体勢を整える。
次は、王のいる場所に向かう事になる。
なるべく人に見つからないように、忍んでいかなくてはいけない。
むしろ、ここからが本番だ。
気を新に引き締めなくては。
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