しゅぱーつ!
さすがに、このままこの場所でリス達の宴を、見ているわけにはいかないな。
大いに歓待してくれているのだろうとは思うけども。
周辺を見回してみるものの、中々見分けがつかない。
姿形ほぼ皆同じなのだから、それも仕方ないだろう。
『長老殿、少し話を聞きたいんだがいいか?』
すると、どこからかこちらの呼び掛けに答える声が返ってくる。
どこから念が送られて来ているのかわからない。
普通に声で会話するのと違って、音ではないせいか、どうも指向性が無いようだ。
スルスルと密集していた所から出てくると、俺の前で座る。
『おう、ええぞ。何か気になる事でもあるかのう?』
『あぁ。人の住む所に行きたいと思うんだが、何か心当たりはないか?』
『ふむ・・・客人のような姿をした生き物は今まで見たことがないのう。』
考えるそぶりをみせるものの、なんの情報も持ってはいないようだ。
この近くには人里は無いということだろうか?
多少離れている程度ならいいが、よもや人という存在そのものが無いとか言わないよな?
『うーん、そうか・・・』
『すまんのぅ。力になれんで。』
『いや、そんなに気にしないでくれ。』
落胆したように見えたのだろうか?
詫びの言葉を告げてくる。
『そういえば、助けになるかはわからんが、遥か昔この辺りにも人という生き物がいたという伝承が伝わっておる。』
『それは興味があるな。詳しく教えてもらえないか?』
『それほど詳しくは伝わっておらんのじゃけどな。ここより西に行った方に、進むのを禁止されておる土地があるのじゃが、その地の何処かに、かつて存在しておったという話じゃ。』
『へー、そんなところがあるのか。』
『とはいえ、ご先祖のご先祖より遥か前より伝わる話じゃて。今も居るかはわからんがの。』
これは有益な情報なのか?
なんのヒントも無い状態だ。
物は試しで向かってみるのもいいかもしれない。
『ありがとう。今は何も情報が無いから試しに向かってみるとするよ。』
『まぁ、思ったままに行動してみるといい。行動している内に道が開けるかもしれんしの。』
『あぁ、そうだな。』
軽く俺の膝を叩くと、長老はその場を離れもといた場所に戻ってしまう。
それほどの昔の話では、伝承も風化しているかもしれない。
そこでふと気付く。
そういえば遥か昔からこの森を見守ってきていた存在がいるじゃないか。
えーっと、どうすればいいんだ?
一心に念を送るようにして呼び出す。
『オーグ、今いいか?』
『・・・おぉ、クルスか。どうした?仲間は見つかったか?』
『いや、まだ見つかってない。今は何故かハンタースクイレル達の住み処で歓待を受けている・・・のか?』
『ははははは・・・それはいい。襲われたと聞いたときは肝を冷やしたが、なかなかどうして。上手くやれているじゃないか。』
『そうでもないさ。色々考えさせられる出来事ばかりで頭が痛いよ。』
そう言いながら、頭を押さえる。
相手にはそのそぶりは全く見えないということは分かってはいるけども。
『それでどうした?我に何か用があるのだろう?』
『ああ、ハンタースクイレルの長老に聞いたんだが、この集落より西に行った方に彼らが進むのを禁止された土地があると聞いてね。』
『ほう、かつての防人の住まう地か。』
『防人?』
『うむ。かつて、我らと共にこの森を守護していた者達だ。いつ頃からか姿を見ることは無くなったな。』
『そうなのか。』
これは、人がいたという痕跡があるかもしれない。
たとえ遥か昔にいなくなっていたとしても、さらにそこから痕跡を辿れば、やがて目的地にたどり着くかもしれない。
というより、それしか方法が思い付かない。
『オーグ、ありがとう。』
『うむ。気を付けて行くがいい。』
オーグとの会話を終えると、いよいよ旅立つ事にする。
立ち上がると、リス達の視線がこちらに集中する。
何か、また面白い事でも教えてくれるのかと、期待に満ちた目をしている。
彼らには申し訳ないことをするな。
とはいえ、いつまでもこの場に留まり続けてもな・・・
『そろそろ旅立ちたいと思う。』
『ええーーーー。』
予想通りというか、なんというか。
ガッカリした気持ちを隠すことなく、ぶつけてくる。
ストレート過ぎる感情表現を見ると、こんな仲間達に囲まれていれば、トゥーンが純粋に育ってきたのも分かる。
『もっといてよー。』
『まだ、お日様昇ったばっかだよー。』
『面白い事まだ知りたいよー。』
こちらを見つめながら、口々に言う。
それらの言葉を長老が制する。
『皆の衆、そう我が儘を言うものではない。客人、皆に面白き事を沢山教えてもらって感謝しておりますじゃ。また、いつでも遊びに来てくだされ。』
『ああ、ありがとう。機会があれば、また会うこともあるだろうさ。えーっと、長老殿。西はどっちになる?』
長老が前足を上げて方角を示してくれる。
それに静かに頷くと、歩き始める。
ついてこようとしたものもいたのだが、長老に止められたらしく、その場で尻尾を振って送り出してくれる。
それに向けて手を振り、そのあとは振り替えることなく進んでいく。
しばらく進んでいると、急に背中に何かが乗っかるのを感じた。
そして、念話が飛んできた。
『おい!俺様もついてくぞ!』
『おいおい、トゥーン。そりゃ、ダメだろ。』
何となくそんな気はしていた。
先程別れの挨拶をしたとき、その場に残るつもりならば何か発言していたはずだ。
恐らく、こっそりその場から抜け出して隠れていたんだろう。
『トゥーン達にとって、踏み込んじゃいけない場所なんだろ?』
『そりゃ、ご先祖様が決めた事だろ。俺様が決めた事じゃないじゃねーかよ!』
『だとしてもな・・・』
『うるせー!行くって言ったら行くんだよー!』
どうにもテコでも動かないといった感じだ。
背中にしがみついて、離れる気は毛頭無いようだ。
ため息をひとつすると、右肩を叩く。
『仕方ないな・・・そこまで言うなら何も言わない。でも、背中にしがみつくよりは、肩にでも乗った方が楽じゃないか?』
『おう、そうだな・・・肩は乗りづらいからここがいい!よし、しゅぱーつ!』
一度右肩に乗ってみるものの、しっくりこなかったのか、頭の上に移動するトゥーン。
遠出などしたこと無いのであろう。
テンション高めの様子だ。
俺は再びため息をつきながら、歩みを止めずに進んでいくことにした。
誰もが予想通りといった具合で、トゥーンが旅の仲間になりました。
次の目的地も決まりました。
さてどうしようかな・・・
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