公都オブライエン
移動を重ね、ようやく俺達はトルスの首都である公都オブライエンにたどり着くことが出来た。
統治するのが王であるのに公都とはいかに?
と、そんな疑問を浮かべそうになるが、それはこの際どうでもいい。
何にせよ目的地に着く事が出来たからだ。
門番のところで手続きを行うが、ここでもポールが疑われる事は無かった。
平然と正面から来るなどとは意識していないのだろう。
ましてや国の首都であり、第一王子の本拠地ともなっているのであれば、まず正面から現れる事はない。
全てが良い方向に転がり続けている。
だが、だからこそ気を引き締めなければならない。
好事魔多しという言葉もある。
チャンスが一転してピンチに変わるなど、往々にしてある話なのだから。
馬車が街中を進む。
街並みは綺麗に整えられている。
旧都トラスに酷似された様は、トラスを見本に、計画的に作られたことは疑いようもない。
中央に王城を据えている事からも、それは伺える。
建物も同様にそこまで高い物は見えない。
こちらの城も威風堂々といった具合で、街中を見据えているかのようだ。
あそこに国王や、第一王子がいるのだろう。
果たして、ポールはどのようにしてあの城に入り込もうというのだろう。
もう夕方に差し掛かるくらいの時間だ。
今日は宿を取り、明日向かう事になった。
「くあー、疲れた。だが、よくここまで来れたもんだ。」
「道中色々ありましたもんね。」
「だが、上手いこと辿り着いた。」
「いや、皆には助けられた。俺だけではここまで辿り着く事は困難だったはずだ。優秀な冒険者達で良かった。」
「そりゃ、どうも。」
疲れた体をベッドに投げ出す。
旧都トラスでは一晩しか滞在しなかった事もあり、ベッドがすぐにでも恋しくなった。
オブライエンへの道の途中、二つほど村に立ち寄ったが、ほとんど滞在すること無くすぐに発ってしまった。
お陰で、これまでお預けを食らった状態だったのだ。
だが、そんな日々もひとまずはこれで終いだ。
「それで、王城に侵入する手はずなんだが・・・」
「ちょっと待った。」
ポールが話を始めようとした所を、俺は遮った。
話始めを挫かれたことで、ムッとした表情を見せるポール。
いったい何を言い出そうとしている?
まさか、城に侵入するところまで手伝えと言うのか?
「まさか、城に入り込むのにも俺達が手伝わなければならないのか?」
「無論だ。そのつもりでここまで来てくれたのだろう?」
「それは話が違うというものだ。」
「何?」
やはりか。
だが、そうは問屋が卸さない。
いや、俺が卸させない。
「すまんがそこまでは力になれない。何せ俺達はオブライエンまでの道中の護衛依頼を請けたに過ぎず、王城への侵入などという大それた真似など出来る訳がない。」
「何だと!」
「何か勘違いしていないか?俺達は一介の冒険者にすぎない。この国に所属する騎士でも無ければ、主人の命令を確実にこなそうとする、横に立っているメイドでもない。後は報酬を貰ってお仕舞いだろ?それに、そもそも俺達三人の目的は、この国での死者の村で起こった事件のあらましを報告しにきたんだ。せめて城の前までは護送してやるよ。だが、仕事はこれで終わりだ。」
「クルスさん・・・」
「カイン、歯切れの悪い話かもしれないが、ここらが潮時だ。これ以上はこの国の行く末を左右する事になる。そんな大事に、俺達が関わるのは、いくらなんでも役不足だろうさ。」
何か言いたげなカインに言って聞かせる。
かなり強引にではあるが、ここまでやって来るという事を成したのも、一応の目的があっての事だ。
だが、俺達が報告しに行くのにわざわざ城にまで忍び込む必要は無い。
むしろ、後ろ暗いところがないのだから正面から向かうべきだ。
勿論、俺も鬼ではない。
同じ道を同道し、同じ食事を取った仲だ。
ポールに対して、何か思うところが無いわけではない。
だが、これは出来ない。
上手くいけばいいが、最悪捕縛された場合の命の保証が出来るのか?
いや、そんなことはどう逆立ちしたところで無理だ。
ならは危険は少しでも減らすべきだ。
アルクに視線を向けると、俺の意見におおむね賛同してくれているようだ。
アルクにしても、これ以上先には踏み込むつもりは無いということなんだろう。
線引きをしなくてはズルズルと引き延ばされてしまう。
「ぐぅ。仕方・・・無いか・・・」
「すまないな。」
肩を落とし落胆している状況を、ありありと伝えてくる。
しかし、同情はするが協力は出来ない。
その後、共に食事を取ったが、会話の少ない寂しい晩餐になったのは言うまでもない。
ようやくらしくなってきた気がしますが、どうでしょう?
そうでもない?
これは失敬。
ブックマークや評価を頂けると、物凄くモチベーションが上がります。
また、様々な感想を頂けるとありがたいです。
今後ともお付きあいのほど、よろしくお願いします。




