旧都トラス
結論から言えば、あっさりとしたものだった。
よもや、ポールが第一王子派の陣の内側に入り込んでいるとは夢にも思ってないようだ。
門番がポールの顔を見ても、なんの興味も示さず、さっさと通してしまった。
全ての事が終われば、ポールがトラスを通り抜けたことなどはすぐにでも周辺に広がるだろう。
何もしていないが、将来は英雄譚として話に肉づけされて広まるかもしれない。
娯楽が少ないはずだから、こんな話でも何倍にも大きくなって語られる事になるんだろうな。
中に進むと、良く言えば趣のある、悪く言えば古ぼけた建物が並んでいた。
また、茶色を基調としているのか、似た色の建物ばかりだ。
物を大切に使用しているということもあるだろうが、古くからある建物を失わせないようにしているのではないだろうか?
伝統を守る街なのだろう。
街を行き交う人達も、どことなく自尊心が高そうな気がする。
それも街がさせるのだろうか?
かつての首都としての矜持だろうか。
まあ、話をしたこともないので、勝手な色眼鏡で見ている事には違いないが。
街の中心部であろうところには、豪奢な建物が建っている。
おそらくあれがかつての王城だと思われる。
堂々たる偉容を放っており、彼らの自慢であることは疑いようもない。
まだ、空は明るく、太陽が天高くさんさんと地面を照らしている。
泊まるのであれば、今のうちに宿を探しておいた方がいい。
王城を迂回するように通りすぎ、少し行ったところにある宿に決める事にした。
「いい景色だな。」
通された部屋の窓を開けると、王城が一望出来る。
周囲の王城以外の建物は比較的低い建物ばかりなので、良く見えるのだ。
こちらから良く見えるということは、王城からも良く見えるということに相違無い。
何か街に異変が起きた時に、見晴らせるように考えられていたのだろう。
「さて、俺は冒険者ギルドに顔を出してくる。クルス達はどうする?」
「俺は止めとく。どうにも俺が冒険者ギルドに行くと、もめ事しか起きない気がしてならないからな。」
「僕は、ここまで来るまでに使用してしまった物を買ってきます。」
「俺も同様に止めておこう。出歩かない方がいいだろうからな。」
「では、私も。ポール様から離れる訳にはいきませんから。」
俺はというと、あまりいい思いが無いため、あまり向かいたく無かった。
カインは買い出しに出ることになった。
ポールは危険を避けるため、アンリはポールに付き従うために部屋に残ることにした。
俺がまったく動く気が無いということに、直感で気付いたであろうトゥーンは、いつの間にやらカインの肩に乗っかっていた。
また出店でもあれば、ねだる気なのだろう。
そのため、ここでもアルクが一人で冒険者ギルドに顔を出すことになった。
「はぁ・・・まあ仕方ないか。しかし、クルス。お前ももう少し冷静に対応すれば、そう揉めるようなことは無いはずだぞ?」
「・・・考えとく。」
「無理は言わないさ。いずれでいい、いずれで。んじゃ行ってくる。」
「あ、僕も行ってきます。」
部屋を出ていくアルクとカイン、それとトゥーン。
それに対して、おざなりに手を振って送り出すと、そっと窓を閉め、ベッドに体を投げ出す。
柔らかな、されど適度に反発するその感触に身を委ねる。
やはり、人はちゃんとした場所で眠るべきだ。
外で風に吹かれながら眠るのは、体にどうしても負担がかかる。
「クルス、少しいいか?」
目を閉じ、あと少しで眠りに堕ちるであろうタイミングで、ポールが話しかけてきた。
「何故、お前は俺の依頼を請ける気になったのか、気になってな。」
「先に進むためだろう?」
「だとしても、こんな危険を犯す必要はお前には無かったはずだ。最悪、オブライエンまでたどり着くことが出来なかったとしても、アッガで足止めを食らっていたと言えば、特に咎め立てされることも無いだろう。」
俺は身を起こし、何と答えるか考える。
「そうだな・・・国王候補と街の領主の依頼となれば、かなりの報酬は期待できるのだろ?」
「それは、俺に出来る限りの事はさせてもらうつもりだ。」
「それと、どうしても早急に手に入れたい調味料がある。まぁ、そんなところだ。」
俺がそう言っても、いまいち納得していないようだ。
この移動中に、俺の本質でも見抜いたとでもいうのだろうか?
さすが王族。
幼い頃から、人の顔色を伺う事をしてきたのだろう。
「そう気にするなよ。オブライエンまでちゃんと行ってやるよ。」
「・・・わかった。済まないな、変な話をして。」
「別に構わないさ。丁度よく報酬について話が出来たからな。」
「そうか・・・少し眠ることにする。」
「そうするといいさ。明日にはまた出発になるだろうから、しばし休息しておく方がいい。」
「そうだな、そうさせてもらう。」
そう言うと、すぐに寝息をたて始める。
やはり、ポールも疲れが貯まっていたのだ。
無理もない。
命を狙われ続けているのだから。
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