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第二の関

どれだけ走らされても音を上げない馬って凄いなー。

と、現実逃避をすること二時間ばかり。

よい案が何も浮かばず、連絡路のような脇道の所在も分からない。

終いには、相当頭に血が昇っていたのか「正々堂々と向かえば良いのだ!」とポールが頭が痛くなるような事を発言し、場は一気に冷えきった。

ただのアホなのかと思わされてしまう。

明らかに謀略などを巡らせるタイプの人間ではないようだ。

是非とも冷えきった空気で頭を冷やしてもらいたいところなのだが、はたしてその願いが叶えられる事があるだろうか?

いや、おそらく無いだろうな・・・


会話に加わっていなかったアルクには、何か服案はあるだろうか?

本当に何もないのであれば、身分を偽って門番やら通行を管理しているであろう連中を騙しきらなくてはならない。

果たしてそれは可能なのだろうか?

もしかしたらという希望的な事を言えば、可能性は零では無いだろう。

しかし、限りなく零に近いことも予想できる。

自らが所属する国の王族。

しかも、王位継承までされる人物だ。

そうなれば、顔を知られている可能性は非常に高い。

とくに士官であればそれは尚更だ。

上手く協力者とやらが相手をしてくれればいいが、それも確実性は無く、あくまでも希望でしかない。


その晩、夜営をしているときにアルクに相談を持ちかけるが、よい案は浮かんではいないという。

こんなに準備が足りていないのに、提案など請けるのでは無かったと後悔させられる。

思えば、報酬の話などはまだしていない。

であるならば、この依頼とも言える提案はまだしっかりとは成り立っていないんじゃないか?

ここから引き返して、元の場所へと戻れば少なくとも安全は確保されるのではないか?

などと、不毛な事を考えてしまう。


「何とかなるさ・・・多分な・・・」


という、自信の無いアルクの言葉が耳に残った。


翌日、一寝入りをしたことで頭を切り替える。

事ここに至り、引き返すのも何だか負けた気持ちになる。

何に負けると問われれば、俺自身も首をかしげる事間違いなしなのだが。

せめて、ガッツリと報酬はふんだくってやろうと心に決める。

最悪、バレて危険な状態になってしまったのなら、全力でしらばっくれた後に、ポールを置いて逃げてしまえばいいか。

外道な事この上ないが、むざむざ死ぬ気にはならない。

大多数に囲まれては、いくら俺がそれなりに戦えるようになったところで、ポールを守りきることなど出来ないだろうから。

この状況でこんなことを言い出せば、引かれる事間違いないということを考えていると、何だか冷静になれた。


結局何の対策も持たないまま、第一王子派の陣が敷かれている場所にたどり着く。

こちらも、それほど頑丈とはいえない木で出来た門が築かれていた。

この簡素な作りを見ると、それほど本気でぶつかり合う気は無いのかもしれない。

剣をぶつけ合うような状態には、持っていく気が無いのだろう。

内乱と言ったところで、そこまで行ってしまえばもう引き返す事は出来ない。

一度でも血を流す事になれば、泥沼化は避けられないだろう。

このタイミングだからこその王位継承の拒否なのだと思う。

やはり、こちらでも兵が声をかけてきた。


「現在この場所は通行を許されていない。ここまで来て残念な事ではあるが、すぐに立ち去りなさい。」


これに答えるのは、やはりアルクだ。


「私は冒険者ギルドベッラ支部に所属するアルクという。呼び出しに応じて、オブライエンに向かうところだ。ここを通していただきたい。」


「一応その名は聞いているぞ。ロウルを救った英雄だというじゃないか。少し待っていろ、担当者を呼んでくる。」


そして、しばらく待つと門が開いていく。

その奥には兵士がズラリと並んでいる。

さらにその奥には、第三王子派と同様にゲルのような建物が建っていた。

その兵士達の中に、周りの者よりも華美な鎧を身に纏った壮年の男性が、こちらに向けて声をかけてくる。


「ふむ。貴様がアルクか。馬車を前に進めよ。」


言われるままに馬車を進めるアルク。

門の内に入り込んだところで、門は閉じられる。

いくら簡素な門であったとしても、逃げ道を奪われるような格好になると気が気じゃなくなる

こんな風に圧迫されるのは、誰でも嫌になるだろう。


「では、そこで馬車を止めよ。乗組員は全員降りよ。貴様達と馬車の検分を行う。」


こちらでは、やはり誰がやって来たかの確認をするようだ。

いや、当然か。

俺達は馬車の外に出る。

まず俺が。

次いでカイン、ポール、アンリが降り、最後にトゥーンを背に乗せたバルが降りてきた。

バルの姿が現れたときには、周りで見ている兵士から若干のどよめきが起きた。

そして、すでに降りていたアルクの横に立っていく。


「ふむ。まず御者をしていた者がアルクで間違いないな?クルスという者とカインという者は誰だ?」


「俺がクルスだ。」


「僕がカインです。」


「ふむ。貴様ら二人か。よし、貴様ら三人は通行を許可する。そして、貴様と貴様は?報告には無いが?」


鋭い目でその男はアンリを、そしてポールを見る。

何かを見透かそうとするような目だ。

なかなかの威圧感を感じる。


「私はアンリです。」


「俺はポールだ。」


その男は、二人をとくにポールを見つめている。

やはり、記憶にある顔に合致したのだろうか?


「二人はベッラで冒険者として活動する仲間なんだが、一緒に通してもらえないだろうか?でなければ、残念だがオブライエンまで向かうことは出来ない。」


アルクがぬけぬけと嘘をつく。

この場であっさりと嘘をつけるとは!

俺が思っていた以上に、胆力があるようだ。

その言に、考えるそぶりをみせる。


「ふむ。アンリと言ったか・・・貴様は通ってもよい。だが、ポールと言ったか。貴様は残れ。」


「何故俺が!」


「貴様は第三王子に酷似している。」


そう言いながら、男が腰に差した剣に手をかけようとした瞬間、辺りにパンッという音が響く。

何だとその音の方に視線を移す。

すると、顔を思いきりはたかれたポールが、そして思いきり手を振り抜いたのであろうアンリが立っていた。

いったい何が起きたのか。


「ポール!いつもいつも足を引っ張りやがって!もういい加減にしてくれ!」


そう言って、体勢の崩れたポールに追い討ちとばかりにローキックを膝裏に決め、完全にその場に倒れさす。

さらに腹部を蹴りあげる。

これに堪らず、嗚咽をあげるポール。

涙を浮かべ、胃に入っていたものを吐き出していた。

さすがにこれを見過ごす事は出来なかったであろう。

男は声を上げる。


「止めんか!そこまでやられるような男がパウロ殿下であるわけが無い。貴様も通行を許可する!」


そう言って、アンリの攻撃を止める。

よろよろとしながら立ち上がろうとするポールを、カインが肩を貸して立ち上がらせる。


「その者は、さっさと馬車に乗せてやれ!これ以上見苦しい物を見せるな!」


それだけ言うと、周りを囲んでいた兵士達の中央を割らせ、通り道を作る。

カインはその言葉に従って、ポールを馬車まで運ぶ。

これに俺も手を貸し、共に乗り込む。

俺達三人が乗り込んだ後、バルが乗りこむ。

その後、憤然とした様子を見せながらアンリが乗り込んでくる。

そして、馬車はゆっくりと進みだし、第一王子派の関を越えることになった。

有名な歌舞伎の演目より、展開を拝借で。



ブックマークや評価を頂けると、物凄くモチベーションが上がります。

また、様々な感想を頂けるとありがたいです。

今後ともお付きあいのほど、よろしくお願いします。

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