境界目指して
ポールとアンリと共に、俺達はアルクが馬車を預けたというところへと移動する。
第三王子派の街とはいえ危険が無いとも言い切れない。
先頭にアルクが立ち、俺とカインがポールの両脇を堅め、後方にはアンリといった具合で歩いて行く。
トゥーンはバルの背に乗り、そのバルは俺の小脇を付いてくる。
徒歩の方が目立たないんじゃないかと思ったのだが、国に呼ばれてきた者なのだから、むしろ堂々としているべきだとネルフィットに言われてしまう。
その意見に、それはそうかと思い、馬車での移動に納得した。
御者は例によって、アルクが勤めることになる。
領主の館では大人しくしていたトゥーンとバルに道すがら、相も変わらず出店の商品をねだられるので、買い与えておいた。
場の空気を呼んで、静かにしていればご褒美があると思わせておいた方が、話を進めるにもちょうどいい。
そんな俺の行動を、不思議そうな顔で見ていたのはポールだ。
明らかに何かを不思議がるような表情だ。
いったい何が気になるのだろうか。
「何だ、ポール?何か気になることでもあるのか?」
「ん?いや、従魔というものが珍しくてな。この国にもあまり魔物を御す者はいないからな。」
「そうなのか。」
「しかし、こうやってクルスを見ていると、魔物がただの愛玩動物のように見えてきてしまうから不思議なものだ。しかも、よく馴らされている。食べ物は人と同じものを食べるのか?」
「そうだな・・・特に好き嫌いはしないな。むしろ、俺が食べている物と同じでないと納得しないようでね。拗ねてしまうんだよ、困ったことに。」
それを聞いて、また不思議そうな顔をする。
今度は何が気になったのだろう?
「それでは人とまるっきり同じ扱いをしているのか?上下関係をしっかりしておかないといけないものなのではないか?」
「どうだかな?本来はそうなのかもしれないが、こいつらに限っていえばその必要は無さそうだな。第一、こっちのちっこい方がトゥーンと言うんだが、こいつに至っては、魔物でもないしな。」
「ほう?」
「この動物はたしか、ハンタースクイレルでしたか?」
「へぇ、アンリさん詳しいですね。」
「昔、図鑑で見たことがあります。非常に希少な動物であるとも。そんな希少生物を従えるクルス様には興味がつきませんね。」
アンリは、トゥーンがなんという種族の動物か知っているようだ。
無表情に近い顔で興味がつきないと言われても、本当にそう思っているのか疑問に思うが。
しかし、図鑑に載っているのか。
いや、そもそも動物図鑑が存在している事に驚きだ。
いったいどのような物なのだろう。
どんな生物が載っているのか、多少の興味はある。
ドラゴンとか載っていたりしてな。
そんな話をしているうちに、馬車の準備も完了したらしく、街を出発することになる。
ゆっくりとした歩みで街の中を移動していく。
人の往来が絶えないせいで、どうしてもゆっくりになってしまうのだが、致し方ないことだろう。
そんなでも、やがて南門の前まで辿り着く。
門の前にいる兵士がこちらへ駆けてやってきた。
「アルク様でよろしいですか?」
「ああ、俺がアルクだ。門の外に出たいんだが。」
「領主様の方より連絡はいただいています。すぐに門を開けますのでしばしお待ち下さい。」
それだけ言って兵士は元の場所へと駆けていく。
防衛という意味ではザル過ぎるが、領主の言付けがあるのならば、それを断るということも出来ないのだろう。
悠々と馬車は門を抜ける。
すんなりと通される俺達を見ている人達の視線を感じたが、それはあえて無視する事にした。
そもそも気にしたところで、何か手を打ってやれる算段など存在しない。
指を咥えているしかないかもしれないが、致し方ないだろう。
門を潜り抜けた馬車は一路、トラスへと進路をとる。
後方では馬車が通り抜けたことにより、早々と門扉を閉じる音が聞こえる。
なかなか大きな音が辺りに響いた。
ゴトゴトと揺れる馬車の中では、ポールは顔をしかめるようにしており、アンリはというと慣れたものといった具合だ。
おそらく王族が乗るのであろう馬車は、この馬車よりもかなり乗り心地が良いのだろう。
どれ程のものかは知らないが、見てみたいものだ。
またアンリにしても、こんな澄まし顔をしていられるということは、これまでにも何度も馬車に乗って旅をしたことがあるという証明になりそうだが、メイドになる前はいったい何をしていたんだろう?
実にミステリアスな事だ。
ここで二人の能力を見ておこうと“神眼”を発動させる。
名前 パウロ(偽名 ポール)
種族 人
性別 男
スキル
体力増大(LV.2)、敏捷増大(LV.1)
腕力増大(LV.2)
長剣熟練(LV.3)
剣術(LV.2)
威圧(LV.4)
“神眼”の前では名前を隠すことは出来ないようだ。
ご丁寧に名前の横に偽名が載っている。
それはそれとして、能力はそこそこといったところか。
コピー出来なかった“剣術”というスキルを保持しているが、これが戦闘となったときはどのような効果を示すのだろうか?
名前 アンリ
種族 人
性別 女
スキル
体力増大(LV.2)、敏捷増大(LV.4)
腕力増大(LV.2)、魔力増大(LV.3)
精神力増大(LV.4)、命中補正(LV.2)
無手熟練(LV.4)、蹴撃熟練(LV.5)
短剣熟練(LV.4)
闇魔法(LV.3)
気配遮断(LV.5)、加速(LV.5)
幻惑(LV.2)、暗殺(LV.3)
状態異常回避(LV.2)
解体、接客(LV.4)
調理(LV.3)
こちらは総じて能力値が高めといった具合だ。
戦闘を任せても、十分に力を発揮してくれるだろう。
しかし、“暗殺”?
なんとも物騒なスキルを持っている。
さすがに移動中に寝首を掻かれるような事はしてはこないだろうが、やはりどのような人生を歩んできたのか興味をそそられてしまう。
何度か朝と夜を越えて移動をしていく。
カインとの器合わせを、興味深くポールが見ていた。
彼も魔法を使用することが出来ないようで、結果が気になるようだ。
だが、まだ魔法の素養については萌芽する事は無かった。
今後も続けてみるしか無いのだろう。
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