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王子の願い

「何、簡単な依頼だ。是非余の力になってもらいたい。」


簡単な依頼?

そんなわけは無いだろう。

超然とした雰囲気を出して目の前に座る王子様はいったい何を言い出すのか、戦々恐々としてどんな言葉を繰り出すのか待つ。

下手なことを言って不敬に当たるのも嫌だしな。


「余をオブライエンまで護衛をして欲しいのだ。」


「王子様をですか?」


「その通りだ。パウロ殿下は此度の騒乱に心を痛められている。そして、大きな決断をされた。」


「それはいったい?」


「余は王位継承を任命されたが、これを断るつもりでいる。」


「えっ?」


まさかの一言だった。

まさかそんなことをしようとしているとは思いもしなかった。

しかし、であるのならもっと早くに出来なかったのだろうか?

ここまで事が大きくなってしまっている以上、それは彼を支持する者達にとっても穏やかな話ではないだろう。

しかし、何故オブライエンまで行かなくてはならないのか?

別に、ここアッガの地で宣言をすればいい話ではないだろうか?


「分からないといった感じだね。」


「ええ、理解しかねます。わざわざ危険を犯してオブライエンまで向かおうなど、失礼ですが狂気の沙汰としか思えません。向こうまで向かうとなれば、第三王子派の囲いを抜け、第一王子派の中を潜り込んで行かなければならないですよね?その辺はどうお考えなのです。」


「先程も言った通り、余は王位継承を断るつもりなのだが、それには直接王に上奏せねばならない。二心無しであることを証明する為にもこれは絶対だ。でなければ、最悪余は幽閉された状態で、第一王子の政に反対するもの達に神輿に祭り上げられてしまう可能性もある。まあ、今も似かよった状況ではあるがな。これだけは避けたいのだ。国民がこれ以上の不便を感じるのは心苦しい。」


「そういうわけなんだよ。でもなかなか包囲を突破して向こうまで行くのは大変だ。そこで君達の存在が重要になってくるんだよ。」


決死の覚悟を決めているのであろう王子様の言葉を、ネルフィットが後押しするように続く。

だが、俺達の存在が重要?

いつの間に重要人物になってしまっていたんだ?


「君達は国からの要請で、オブライエンまで向かうことを指示されていたはずだね。それがある種の大義名分のようなものになる。何の理由も無くでは通ることなど許されないだろうから。」


「だとしても、理由が弱くないですか?それに、私達は三人組であることは国の方で周知しているのでは?そこに関係のない者が紛れてしまっていては、変な疑いをかけられそうですが。」


アルクの質問にうーんと頭をひねるような素振りをするネルフィット。

だが、すぐにそれをやめる。


「まあ、旅立つときに仲間になったとでもしておけばいいんじゃないのかな?」


「それはかなり強引なのでは?」


「だよねぇ。いや、私もそう思うよ。それに、王子一人を君達に預ける事など出来ないから、誰か別に付けないといけないだろうし。」


「となれば、やはり無茶です。」


「いや、無茶でも何でもやってもらう以外ないのだ。この国を救うと思って力を貸して欲しい。」


頭を下げる王子。

これにさらに驚かされる。

まさか位の高い王子様が一般人の、しかも粗野な冒険者に頭を下げるのだ。

余程の事だ。

だが、そんなことが可能なのか?

いくら思い描いても失敗するような気がする。

王位継承権を持った王子の顔が分からないなどということは無いだろうから、関所などを設けられていればそこですぐにでもばれてしまうのだろう。

それに、付いてくる者についてもだ。

王子の側役にしろ、ネルフィット付きの者にしろ、顔が割れている可能性もある。

それをひた隠しにするなど、余程の離れ業をしなくてはならないだろうが、そんな業など持ち合わせていない。


「やはり、無謀です。どう考えても成功するとは思えない。冒険者というのは、自分に出来ない依頼は請けないというのが鉄則なのです。」


「だから、そこを曲げてお願いしているんじゃないか。」


「ですが!」


「もう君達は断るということは出来ないよ。断ることは出来ないと先に告げていたはずだよね。」


俺達の抵抗をバッサリとネルフィットは斬ってのける。

確かに、事ここに至り断る事など出来ないのは分かっている。

だが、それでも抵抗せざる負えないと判断したために、口を挟む以外無かったのだ。


「はぁ、まあ仕方ないか・・・」


「クルス!本気か!」


俺が折れたような態度を見せると、アルクが驚いた声をあげる。

だが、アルクも分かっているはずだ。

断れない案件である以上、何をしようとも無駄な抵抗で終わる事に。

既にカインの方は覚悟を決めたようで、静かに事が進むのを待っているようにしていた。


「うむ。苦渋な決断をさせてしまったことは詫びさせてもらう。が、これもこの国のためなのだ。貴殿も理解して欲しい。」


「というわけで話は決まったね。それじゃ、キール。彼女を呼んできてくれたまえ。」


「かしこましました。」


恭しげに頭を下げて、再び部屋の外に出ていくキール。

畳み掛けていくようにして、話を進められていってしまう。

こうなれば、少しでも潜り抜ける確率を上げるべきだ。


「申し訳無いのですが、提案がいくつかあるのですが、それを飲んでいただけますか?」


「ん?なんだ。余に出来ることならばそれもやぶさかではないぞ。」


「では、まず姿格好をもっと冒険者よりにしていただきたい。上等すぎる今のような服装では、自分が高貴な者であると宣伝して歩くようなものです。それに言葉使いにしてもです。少なくてもご自分の事を余と呼ぶことは止めて欲しいのです。俺か私に変えていただきたい。」


「ふむ。わかった。俺でよいのだな。」


「はい。それと俺達が話しかける際、一切の敬語を使用しないということも了承していただきたいのです。仲間として行動するのであれば、敬語で話すことなどないですから。それに、出来ればお名前を偽っていただきたい。そのお名前から連想させるのもよろしくない。」


「なるほど、それは道理だ。では、俺は今日より一時的にポールと名乗ろう。ということでいいのだな。」


「ええ、結構です。」


そんな簡単な打ち合わせをしている間にキールが戻ってきたのであろう。

ドアをノックし、中へと入ってきた。

その後ろには、昨日俺達を屋敷の中を案内してくれたメイドさんが立っていた。

いや、服装のそれはメイドでは無かったが。


「ああ、来てくれたか。彼女はアンリ。君達に同行してもらうのは彼女だ。」


「アンリと申します。よろしくお願い致します。」


「彼女なら顔が割れているということもないだろうし、適任だと思うんだ。それに、それなりに腕もたつはずだよ。」


ネルフィットがそう太鼓判を押す。

動きやすそうな格好をしているところを見るに、それなりに旅なれていそうな雰囲気がある。

これなら、心配はないか?


「それでは準備をしよう。その後、すぐに出立だ。クルス、アルク、カイン。俺は旅なれてはいない。何かあればその都度言ってくれ。」


そう言って席を立つパウロ改めポール。

俺達はポールの準備が済むのを待って、すぐに移動を開始することにした。

やはり、展開が少々強引かもしれない。


ブックマークや評価を頂けると、物凄くモチベーションが上がります。

また、様々な感想を頂けるとありがたいです。

今後ともお付きあいのほど、よろしくお願いします。

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