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最終章:混沌と秩序④

これにて『獣に好かれる程度の魅力:EX』は完結です。

 闘技場に押し寄せる観客達。

 既に満席であるにも関わらず席の隙間に立って見る者や石像の上に登って観戦する者と、規則に反する行動を取る輩が目に入る。しかし今日ばかりはそんな規則違反していたとしても、係員は咎めようとしない。何故なら彼らもまた、これより行われる試合を何がなんでも見たいと言う執念に駆り立てられているからだ。

 そんな観客達を盛り上げている龍彦は、同じくリングの上に立つエルトルージェを見据える。アリシアの乱入があり中断させられた彼女との決勝戦を再開させる……それがエルデニアを救った英雄としてその礼がしたいと申し出たバーグに対する要望であった。

 元の世界に戻る方法は、アリシアの言うエルトルージェの魔力を用いた方法を探せば可能であると知った為に武術大会で優勝する必要はなくなった。今龍彦がリングの上に立っているのはあくまで一人の武術家として、ただ純粋に戦いと言う気持ちに従っているだけにすぎない。

 一方、エルトルージェは心底不機嫌な顔を浮かべ眉を顰めている。


「タツヒコ、手加減したら怒るけどアタシに勝っても本気で怒るからね」

「……そんな無茶な」

「旦那様頑張って下さい!」

「主様よ、我とお腹の子も為にも必ず勝ってくれ!」

「ダーリンファイトですぅ!」


 観客席からではなく、セコンドとして選手入場口より応援しているカエデ、カルナーザ、ライラに龍彦は大きな溜息を吐いた。

 カオスの神殿へと突入する直前三人より渡された贈り物を、生きて帰還する為の呪いと景気付けと龍彦は捉えていた。しかしそれは勝手な思い込みであり、実際は各一族に伝わる婚儀の契だった。

 カエデの人形は無事を願うだけでなく生きて帰ってきたら人形を渡した相手と結婚すると言う、戦場へ出る者にとって実に死亡フラグを立てる意味を持っていた。

 カルナーザのアクセサリーは自分を負かした男に嫁ぐ証として送る物であり、受け取った時点で人生墓場行きの呪いのアクセサリーだった。

 ライラの牛乳は意中の相手に己のミルク……即ち母乳を与える事で婚約の意味があるらしい。

 果たしてそれが真実であるかどうかは、龍彦は知り得ない。

 真実を求めようにも彼女達は口を揃えて真実だと答え、疑おう者ならば泣き崩れられる。

 更に武術大会の応援にきていた彼女達の両親も介入してきた。嘘の情報を娘達から刷り込まれた彼等はまだ見ぬ孫の姿にだらしなく頬を緩ませ、娘が沢山元気な子が生めるように子作りに励んでくれと頼んでくる始末。

 そしてバーグからも重婚は基本犯罪だがカオスを倒しエルデニアを救った英雄とそれを支えた美しい女性達となら優秀な子供が生まれるだろうと言う問題発言

がトドメとなり、重婚が許可されてしまった。

 側室でも問題ないとカエデ達から言い切られては、龍彦としても強く言い出せずにいた。

 しかし、当然エルトルージェは納得していない。

 そこで武術大会で行う筈であった決勝戦を急遽再開する事になった。今こうしてリングに立っているのは武術家として強者と戦う為ではなく、優勝してカエデ達との婚儀を取り下げる為である。

 龍彦としては重婚は犯罪として扱われている世界観がある為にエルトルージェの意見に異論はなかったが、負ければ三人が……特にカエデが何をしでかすかわからない。そんな恐怖と武術家として負けたくないと言う誇りが勝り、複雑な心境に立たされてもいた。


「アンタの奥さんはア、アタシだけいればいいの。側室なんで絶対に認めないわ!」

「貧相な身体では殿方は満足させられませんよ」

「うっさいこの駄狐! さっさと始めるわよタツヒコ! 絶対にアタシが勝つんだから!」

「な、なんでこんな事に……」

《それでは皆様大変お待たせしました! 決勝戦再開――タツヒコ・ハギリ選手対エルトルージェ・ヴォーダン選手……時間無制限。試合開始!》


 無慈悲にも試合開始を告げるゴングが今、鳴り響いた。


―To be continue……―

とりあえず執筆し終えました……。

外伝的なストーリーを書く予定ですが、いつになるかは未定です。

リアルに仕事……忙しいッス(涙)

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