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〈クリスマス〉シリーズ

サンタクロースはだぁれ?

作者: 赤羽 翼

平仮名が多いですが、ご容赦ください。



 二十三日



 夜ご飯はビーフシチューとかぼちゃだった。おかあさんが言うには、「昨日冬至だったの忘れてた」らしく、かぼちゃの料理がたくさんあった。


 わたしは『とうじ』なんていう言葉知らなかった。だから、おにいちゃんにきいたら、こんな答えがかえってきた。


「一年で一番太陽が沈むのが早い日だ」


 小学一年生のわたしには、何でそんなことがおこるのかわからなかった。それも高校一年生のおにいちゃんにきいてみたら、


「まぁ、あれだ、妖怪のせいだよ」


 何でもかんでも妖怪のせいするなと言いたかった。わたしのクラスでもそんなことばっかり言う男子がいた。ある日あんまりにもうるさいので、その男子の頭をたたいてそれを妖怪のせいにしたことがあった。男子は大泣きして、わたしは先生にすごくおこられた。


 おにいちゃんに、どうして『とうじ』の日にかぼちゃを食べるのかもきいてみた。


「それは知らない」


 さっきもそう言えばよかったのに……。ほっぺたを膨らませていると、おかあさんがわたしを呼ぶ声がしたので、仕方なくお風呂にむかった。


 お湯がたまったお風呂になぜか大きなみかんのようなものがぷかぷか浮いていた。


「これなぁに?」


 おかあさんにたずねると、


「ゆずよ」

「歌を歌う人?」

「うん、そうだけど……。まぁ、みかんの親戚みたいなものと思いなさい」

「……どうしてこれをお風呂に入れるの?」

「昨日冬至なのを忘れていたからよ」


 『とうじ』……いったいどんな行事なんだろう。



 ◇◆◇



 わたしの名前は旦ヶ原(たんがわら)麻美あさみ。小学一年生。好きな食べ物はカレー。きらいな食べ物はなっとうとワカメとキノコ。好きな教科は国語だ。クラスの中ではなかなかゆうしゅうな生徒で、昨日もらったつうしんぼでは五と四しか取っていない。


 おかあさんの名前は旦ヶ原(しずか)。お仕事はしていなくて、主婦をしている。きんぴらゴボウを作るのがとてもうまい。


 おとうさんの名前は旦ヶ原義信(よしのぶ)。サラリーマンをしている。いつも朝早くから会社に出かけていて、帰ってくるのはふつうの時間だ。電車つうきんをしている。


 おにいちゃんの名前は旦ヶ原(ひさし)。高校一年生。高校に入学してから、女の子にモテたいという理由でバンドを始めた、かなしき男だ。明日、クリスマスライブがあるらしい。どうでもいいけど、休日は遅くまでねている。


 そんなおにいちゃんは、わたしがお風呂から出たとき、ソファーに座りスマートフォンをいじくっていた。

 わたしは後ろからのぞきこむ。四けたの足し算をしている。


「なにしてるの?」


 きいてみる。


「バイト料の計算」


 そういえばおにいちゃんは、さいきんコンビニでアルバイトを始めていた。月曜日と火曜日と金曜日の夜に外出しているのだ。七時に出て、わたしがねてるときにもどってくるから、いつ帰ってくるのかはわからないけれど。


「ふぅん」


 わたしはどうでもよさそうに鼻をならし、テーブルのリモコンを手にしてテレビをつけた。一から番組をかくにんしていくけれど、おもしろそうなものはやっていなかった。テレビを消した。


「よし! なんとか届いた!」


 となりのおにいちゃんがスマートフォンを手にしたままガッツポーズをしている。


「どうかしたの?」

「お前にゃ、関係ねえよ」


 ぐりぐりと頭を強くなでられた。おにいちゃんはかるい足取りでリビングから出ていった。なにかいいことでもあったのかな?


 しばらくぼうっとしていると、ねむくなってきてしまった。わたしは自分の部屋にもどり、ベッドに入ってねむりについた。




 二十四日



 この日は朝からおにいちゃんがいなかった。おにいちゃんの高校ではもう冬休みに入っていて、いつもならお昼近くまでねむっているのに。クリスマスライブとやらのじゅんびでもあるのだろうか?


 おとうさんは七時を少しすぎてから、スーツを着てお仕事にいった。

 わたしはテレビを見ていたけれど、なんにもおもしろい番組がやっていなかった。午前中だから仕方がないし、だいたい年末におもしろい番組をきたいする方がどうかしている。


 わたしは自分の部屋にもどり、本だなにある小説を一つぬき取る。表紙を見つめて……もとの場所にもどした。この家にある小説はすべて読んでしまった。


 わたしはベッドにねころがった。しばらくの間天井をながめていたが、ひまになりすぎてベッドからおりた。

 そしてあることを思いついた。


(そうだ……。国語の教科書を読もう。あれなら、小説みたいなのが書いてあるし)


 わたしはべんきょう机にならべられた教科書から、国語の教科書を取り出して、てきとうにページを開く。後半でページをめくる手をおそめ、やがて小説の部分を発見した。


 内容はどうでもよかった。とりあえず、ストーリーがあって、文字が読めればそれでいいのだ。

 いすに座って足をパタパタさせながら、文字を心の中で読み進めていく。


「あさみー。私買い物してくるからねー」


 突然、一階のリビングからおかあさんの声がした。わたしははーいと返事をして、ふたたび教科書に目をむけた。



 ◇◆◇



 お昼ご飯にもおにいちゃんは帰ってこなかったので、わたしとおかあさんとでインスタントラーメンを食べた。味噌味で、野菜いためがたくさん乗ってておいしかった。

 その後はやっぱりひまだった。友だちと遊ぼうにも、みんな用事があるらしくって、電話がつながらなかったり、ことわられたりしてしまった。クリスマスイブだから、しょうがないのかもしれない。うちはひまなのに。


 そんなこんなで夜ご飯の時間になった。おかあさんと二人でやき魚を食べる。クリスマスイブにやき魚なんて、へんなかんじだけれど、そもそもわたしはクリスマスがどういうものなのか知らない。


 二人でお風呂に入ってから、テレビを見た。やっぱりおもしろい番組はやっていない。しばらくするとテレビを見るのにあきてしまって、わたしはねることにする。おかあさんも明日朝が早いようで、おとうさんのやき魚を作ってから、それにラップを被せていた。


 わたしは自分の部屋のベッドに入り、ねむりについた。




 二十五日



 朝ねむりからさめると、まくらのとなりに緑色のリボンがされた、大きな赤い箱がおかれていた。ねたときにこんなものはなかった。首をひねりつつ、おそるおそるリボンをほどき、箱を開けてみる。中には、十冊の小説が入っていた。文庫本八冊に単行本二冊である。


 うれしいけど……だれがこれを? そういえば、去年もこんなことが……。あっ、サンタさんとかいう人のしわざ?


 わたしは一冊手に取って、ページをてきとうにページをめくっていく。なにか落ちた。それはしおりだった。


(ん?)


 もう一つなにかがはさまっているようだ。そのページを開いてみると、それは『十二月の新刊案内』と書かれた紙だった。発売されたばかりの本によくはさまっているやつだ。……ということは、サンタさんは本屋さんでこれを買ったの?


 わたしはべつの小説を広げていく。発売したのがけっこう昔のものがあったから、すべてには新刊案内なるものははさまっていなかったが、三冊にはさまっていた。十二月だったり、十一月だったりしたけれど。そして、どれも新品で、ジャンルもレーベルもべつべつだ。


 サンタさんがとどけてくれたんじゃない気がしてきた。だってわたし、クリスマスプレゼントとか、ほしいと思ってなかったし。小説はほしかったけど、心からせつぼうしていたというほどではない。わたしが読書よくにうえていることを知っているのは、家族だけ。となると……。


 わたしは服を着がえると、急いで一階のリビングにむかった。おかあさんとおとうさんの二人が朝ご飯を食べていた。おとうさんはきのうのやき魚を食べていた。おにいちゃんはいない。げんかんに靴はあったから、まだおきていないのだろう。

 わたしは二人におはようと言うと、おかあさんにきいてみた。


「おかあさん。きのう、家のかぎ、かけてたよね?」

「え? うん。かけてたけど……どうしたの?」

「ううん。なんでもない」


 かぎがかかってるんなら、サンタさんは家に入ってこれない。えんとつなんてないし。だったら、わたしにプレゼントをくれたのはだれなんだろう。きのうは、三人とも出かけている。おとうさんは朝から仕事、おにいちゃんも朝からいなかった。おかあさんはお昼ごろ買い物に出かけた。


 あの本の中には、きのう発売されたばかりのものがあった。つまり、べつの日じゃなくて、あれらはすべてきのうのうちに買われたと考えていい。


 わたしはさりげなくゴミ箱に近づき、中をのぞいてみる。本屋さんの大きなふくろが一ふくろすてられていた。少なくともきのうの朝にはなかった。これはまとめて買われたことをいみしているにちがいない。本屋さんの名前は『田沼書店』だった。家の近くにあって、おじさんとわかくてきれいな女の人がけいえいしている。知り合いのおねえさんが、「個人営業の割に品揃えもいいし、古本も売ってるから使いやすい」と言っていた。


(あっ)


 レシートを見つけてしまった。そこにはあの十冊の小説のタイトルが書かれていた。買った日時はぎりぎり見えない。ゴミ箱に手をのばそうとするけど、おとうさんとおかあさんのしせんがこわいからできない。


 まちがいない……。わたしはおとうさんとおかあさん、そしておにいちゃんがねている二階を見る。この中のだれかが、サンタクロースだ。



 ◇◆◇



 お昼すぎ。わたしはあの小説をすべてもって近所のアパートをおとずれていた。おもかったけれど、なんとかやってこれた。ここの二階に、物知りなおねえさんがすんでいるのだ。名前は袖村そでむら由那ゆなさん。おにいちゃんと同じ学校にかよっていて、おにいちゃんの一つ年上だ。由那さんはやさしくて、きけばなんでも教えてくれるから大好きだ。小説をくれることもある。


 わたしは由那さんの部屋の前に立ち、背伸びをしてインターホンをおした。中から「はーい」と声がきこえ、とびらが開いた。

 きれいな黒いかみ、真っ白なはだの美人な女の人が出てきた。まちがえようもなく由那さんだった。

 由那さんはわたしに目をとめると、やさしくほほえんでくれた。


「麻美ちゃん。どうかしたの?」

「あのね、ききたいことがあってきたんです」

「そうなの? じゃあとりあえず、入って」


 わたしはお言葉にあまえて、部屋に入った。由那さんは一人ぐらしをしているため、だれもいなかった。

 いすにすわってまっていると、由那さんがコーラをもってきてくれた。


「はい。どうぞ」


 コップが目の前におかれた。そして由那さんはまだすわらず、本だなから小説を二冊もってきてくれた。


「それとこれ、メリークリスマスね」

「由那さん、ありがとう」


 そう言うと、由那さんはニコッと笑い、むかいの椅子にすわった。一日で読むものが十二冊もできた。

 しかし由那さんは苦笑いを浮かべ、


「まぁ一般的には、プレゼントはイヴに渡すものなんだけどね……」


 ふと気になることができた。


「どうしてクリスマスは今日なのに、イブにプレゼントをわたすんですか?」

「ああそれはね、イヴっていうのは夜って意味なの。つまりクリスマスの夜。だから二十四日の夜は、もう既にクリスマスなのよ」

「へぇー……。そもそもクリスマスってなんなんですか?」

「麻美ちゃん。キリスト教ってわかる?」


 きいたことはあるけれど、くわしくは知らない。首を横にふった。


「んー……じゃあ、宗教はどう?」

「社会的にいろいろとふくざつな問題のこと?」


 由那さんはふたたび苦笑いをした。

 

「うん。まぁ、あってるっちゃあ、あってるかな。……えっとね、宗教っていうのは簡単に言うと、何を信じてどういう行いをするか、それを定めたものなのよ」


 お子さまのわたしにはむずかしいものだ。けど、なんとなくはわかった。


「キリスト教もその一つで、クリスマスっていうのは、キリスト教を開いたイエス・キリストが誕生した日なの」

「ようは、えらい人のたんじょう日をみんなでいわう日ってこと?」

「まあ、それでいいんじゃないかな……」


 由那さんの苦笑いはきえなかった。しかししせんがわたしがもってきた十冊の小説が入ったバッグにむくと、首をかしげた。


「随分重そうなバッグだけど、どうしたの?」


 わたしはプレゼントに小説をもらったことを話した。


「前から思ってたけど、麻美ちゃん一年生だよね?」


 由那さんはバッグの中の小説を見ながら言った。


「うん」


 とうぜんわたしはうなずいた。


「昨日発売されたものもあるね。……あっ、これおもしろいよ」


 由那さんは一とおりかくにんしてから、わたしを見た。


「……このプレゼントがどうかしたの?」


 わたしはサンタクロースが家族の中にいるかのうせいが高いことを説明した。


「あー……なるほどね」


 やっぱり由那さんは苦笑いをうかべている。そして小声で「自力で辿り着いちゃうんだ」とつぶやいた。


「それで、麻美ちゃんはどうしたいの?」

「買ってもらったから、お礼を言わないといけないと思うの」


 そう答えると、由那さんはほほえんだ。


「良い子だね。麻美ちゃんは」


 首をかしげる。


「そうかな?」

「うん。……じゃあ、プレゼントをくれた人を推理するから、憶えてることを話してくれる?」


 わたしはおとといの夜――おにいちゃんがバイト料の計算していたことから、家を出るまでの話をした。こじんてきには、さいきんアルバイトを始めたおにいちゃんがあやしいと思っている。


「なるほどね……。確認したいんだけど、麻美ちゃんが小説を読みたがっていたことは、家族の人はみんな知ってるんだよね?」

「知ってると思います」


 答えると、由那さんはうんうんと首をたてにうごかした。なにかわかったときにやるくせだ。


「わかったんですか?」

「うん。わかったよ。消去法で考えれば簡単だよ」


 さすがは由那さん。しょうきょほうなるものは、わからないけれど。


「まず、お父さんはサンタさんじゃないね」

「どうして?」

「お父さんは、昨日の晩ご飯だった魚を今朝食べていた。これは昨日食べられなかったってことだよね?」


 わたしはうなずいた。ふつうに考えればそうだ。


「つまり、お父さんはご飯を食べて帰ってきたということになる。これは、お父さんは夜遅くに帰宅したと考えることにもなる」

「それはわからないと思うの。夜早い時間にご飯を食べて、わたしがねたころに帰ってきたのかもしれないよ?」


 由那さんは首をふるふるとよこにふった。


「会社はどこも年末進行で忙しいだろうし、早くに帰れるなら、やっぱりクリスマスは家族と過ごしたいと思うよ」

「そうなの?」

「そうなの。わたしは一人ぐらしだけど、行事の日には家族と会いたいもん」


 そういうものらしい。


「でも、夜遅く帰ってくるとサンタさんじゃないの?」


 しつもんすると、由那さんは十冊の小説のうち一冊を手に取る。それはきのう発売された小説だった。


「これは昨日発売された小説でしょ? そして本の購入先は『田沼書店』。これは、この小説がいつ何時なんどきでもなく、昨日『田沼書店』で購入されたことを示している。お父さんは朝七時少し過ぎに家を出て行くんだよね?」


 わたしもわかった。


「そんな朝早くから開いてる本屋さんなんか、ないんですね」


 由那さんはうすく笑った。


「そうだね。そして個人営業だから、夜遅くまでやっているとは考えにくい。朝早く電車で通勤して、夜遅く帰ってくるお父さんには、『田沼書店』で買い物ができないの」

「なるほど……」


 なっとくした。


「じゃあ次だね。お兄さんも、サンタクロースじゃない」

「……!」


 わたしは驚いた。よそうがはずれたからだ。


「どうしてですか?」

「お兄さん……悠君は最近になってバイトを始めたんだよね?」


 うなずく。いつから始めたのかはおぼえていないけれど。


「おとといの夜、バイト料の計算をしていた悠君は『なんとか届いた』と言った。これはバイトはなにかを購入するのが目的で始めたことを示している」


 こくりとうなずき、


「わたしのプレゼントのお金を稼ぐためじゃないの?」

「ううん。麻美ちゃんは、どんな小説でも読めればいいんだよね?」

「うん」

「小説の数もそこまで気にしないでしょ?」

「大い方がいいけど、べつに少なくてもいい」

「だったら、『届いた』なんて言葉は使わないと思う。今あるお金で、買える本を買えるだけ買えばいいんだもん。『届いた』という言葉を使ったってことは、稼ぎたい額が明確に決まってたってことになるよね。けど、」


 由那さんはテーブルにならべられた小説にしせんを落とした。


「ジャンルもレーベルも別々。文庫本と単行本も入り交じってる。これらの合計額を目標にしたとは、ちょっと考えにくいよね」

「じゃあ、もくひょうのきんがくは別にあったんじゃないですか? たとえば、おにいちゃんはゲームがほしくて、お金をためていた。もくひょうまでたまってもよゆうがあったから、あまりを使ってわたしの小説を買った、とか」

「さっきから思ってたけど、麻美ちゃん推理力高いよね」


 由那さんにほめられるとうれしくなる。わたしはわらった。


「そういう考えもあるけど、悠君は目標額に『なんとか届いた』のよ。あまりがあるとは考えにくいかな」


 そういえばそうだった。わたしもまだまだだ。


「じゃあ、おにいちゃんはなんでアルバイトなんて始めたんだろ」


 わたしはきたいのまなざしを由那さんにむける。

 由那さんは苦笑いし、


「たぶんだけど、新しい楽器かアンプを買おうとしてたんだと思うよ」

「どうしてですか?」

「悠君がしてるバイトは一つだけ?」

「そうきいてるよ?」


 由那さんはうなずき、


「麻美ちゃんがスマホを覗いたとき、四桁の足し算をしていたんだよね?」

「してたよ」

「バイトの計算はだいたいの場合、三桁と一桁の掛け算になるのよ。どうしてか、わかる?」

「じきゅうってやつでしょ?」

「そうそう。よく知ってるね……。してるバイトが一つだけなら、四桁どうしの足し算になることはまずない」

「もとからもってたお金と計算してたのかも」

「可能性はある……というか、それもしていたと思う。けど、麻美ちゃんがテレビのチャンネルを変えている間も計算していたことを考えると、それだけじゃない」


 わたしは首をひねった。


「他の誰かのバイト料金と、自分の所持金を足していたと考えれば説明がつくでしょ?」

「たしかに……」

「その誰かはバンドメンバーで、バンドを始めた理由は高価な楽器を買うため……こんなところだと思うよ」

「すごいです! 由那さん!」


 由那さんはてれくさそうに笑った。


「ありがと」


 由那さんはミステリー小説に出てくるような名探偵みたいですごくかっこいい。

 わたしは十冊の小説を見つめた。


「じゃあ小説をくれたのは?」

「うん。サンタクロースは、お母さんだね」



 ◇◆◇


 小説の数が十冊から十二冊となった。もちはこぶのがたいへんだったので、由那さんが手伝ってくれた。

 家についたわたしは、重いバッグを引きずって、キッチンで夜ご飯のよういをしているおかあさんのもとへいった。


「おかあさん!」


 大声で呼ぶと、おかあさんはびっくりしたようなひょうじょうをむけてきた。


「どうしたの? 麻美」

「小説くれて、ありがとう」


 おかあさんのひょうじょうがかたまったかと思えば、かんねんしたかのようにため息をはいた。


「どういたしまして」


 もうすぐ年が明ける。

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― 新着の感想 ―
[良い点] とても面白かったです! 心温まる推理短編でした。 いつもの作者様の抜群のユーモアセンスが、特に前半に沢山散りばめられていて、楽しかったです! 平仮名を多くするという工夫をされることで、…
[一言] クリスマス気分に浸れる優しいミステリーですね。 小さな子の視点でも、無理なく楽しく読めました。
[良い点] クリスマスにふさわしい題材で、推理ものとしても楽しく読ませて頂きました。 [一言] ありがとうございます。
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